体温計4本試したけど熱が測れなかった話(たぶんコロナその2)

※「たぶんコロナその1」から続く

EMCから戻った夜、さっそく寒気と頭痛がしたので、これは熱が出たきたなと思い、先輩(夫)に仕事帰りに近くの薬局で体温計を買ってきてもらった。先輩がいくつか提示された体温計の中で買ってきたのはオムロンの電子体温計で、これはいい物を買ってきてくれたと思った。ほかに水銀の体温計もあり、薬局の店員さんは「正確性なら水銀の方がいいけど、電子体温計の方が早く測れますよ」と説明してくれたそうだ。オムロンだって正確に測れるだろうと思っていそいそと測ってみたところ、36・8度で平熱である。「おかしいな、確かに熱っぽいのに」と思い、ソファーに寝転がっているポピ子を測ってみたところ、34・5度だった。彼女の平熱は36度台である。「まさか」と思って先輩も測ってみると、また34・3度。やはり、この体温計、壊れている。ということは、36度台の自分はどうやら38度台の熱があるということが推測された。

しかしなぜ熱があるかどうかを推測しなければならないのだろう。「新しい体温計を買ってこなければ」と先輩に言い、次の日、家族で同じ薬局に行き、今度は水銀の体温計を買ってきた。女性の店員さんによれば、5分も測れば正確に体温が分かり、その後いくら測っても体温は変わらないという。不思議なことに、夫がオムロンの体温計の不具合を説明しても、店員さんは「そんなことあります?」と笑っただけで、返品・交換にはならなかった。
自宅で椅子に座ってロシア製の水銀体温計で測ってみた。昨晩解熱剤を飲んだがいまだに熱っぽく、37度の微熱が出ているように思っていた。まず5分測ってみると、体温は35・4度。それからまた5分、10分測っても、35・8度から上がらない。どうやらこれも壊れている。だんだんストレスが溜まってきた。

発熱(たぶん)から3日目の朝。体温計を日本人の知り合いに借りようとメッセージを送るも、多忙なようで連絡がつかない。そのためそのメッセージを削除し、倦怠感のある体に鞭打って、近くにある先輩の事業所に赴き、ベテランロシア人スタッフのアラーナさん(日本語堪能)に「どこの薬局に行けば正確に測れる体温計が買えますか」と尋ねた。アラーナさんは事情を知って、「あそこの薬局はチェーン店で市内にたくさん展開しているんです。私はあそこは信頼できる薬局だと思っていましたが……」と驚き、「私が同行しますから、体温計は返品して返金してもらいましょう」と言ってくれ、3人ですぐに出かける準備をした。

薬局に着くと、先日とはまた別の若い女性の店員さんがレジにいた。アラーナさんはロシア語で「すみません、彼らがここで買ったオムロンの体温計、壊れているんですけど。平熱が34度で出てしまうんです」と説明し、返金を求めた。店員さんはちょっと面倒な様子で「いつ買いました?」「レシートは?」と聞いてきた。買った日付は答えられるが、先輩はレシートを紛失してしまったようである。「じゃあ対応できません」と店員さんはぴしゃり。するとアラーナさんは「カードで買っているんです。レシートがなくてもそのコンピュータに記録が残っているでしょう」と毅然と反論し、何やら早口のロシア語でたくさん抗議した。そして店員さんに記録を調べさせ、見事にその場で返金させた。なんて頼もしい人なんだろう。しかも店を出る際、店員さんに「たくさん言ってごめんなさいね。ありがとう」と声を掛け、相手への気遣いも忘れないのだから、本当に立派なものだ。ちなみに彼女、モスクワ大学日本語学科卒業(日本で言えば東京大学のロシア語学科卒というところか)の本物のインテリである。

薬局を出るとアラーナさんは、別の薬局で新しい体温計を買うのを手伝ってくれるという。お言葉に甘えて、ロシア製の電子体温計を買わせてもらった。帰り際、お礼を言うと彼女は「正しい体温が測れればいいですね……」とこちらのことも気遣ってくれて、帰路に就いた。自宅に戻って体温を測ってみると、やっぱり35・2度だった。

その悲報を聞いたアラーナさんは次の日、自宅の電子体温計を事業所まで持ってきてくれた。彼女は「自分で測ったら35度台でしたが、家族は順調に36度台でした」と体温計を先輩に預けたという。その夜、ありがたく使わせてもらうと、期待を裏切らず35・2度。先輩も測ってみたが、同じく35・2度だった。しばらく考えた挙句、「私の平熱って、ずっと36・5度だと思っていたけど、本当は35・2度なのかもしれない」と言うと、先輩も「プロパガンダに触れている時と同じで、何が本当か分からなくなってくるなぁ」と頷いた。いずれにせよ、私の熱は下がったようだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?