急性咽頭炎の診断と薬代に4万8千円した話(たぶんコロナその1)
モスクワでひどい風邪を引いた。7月27日の午後、胃腸の調子がおかしいと思ったら、喉が腫れ、痰が絡み、頭痛・悪寒・発熱(おそらく)が出て、くしゃみ・鼻水、おまけに倦怠感とブレインフォグと一通りやった。今は運動をして疲れたりすると明らかに喉と鼻の調子が悪くなるので、できるだけ体力を温存するようにしている。コロナに罹ったのだと思う。
29日の朝に喉が腫れた時点で、日本から持参した風邪薬じゃ手に負えないと感じ、すぐにモスクワ駐在員とその家族がよく利用するEuropean Medical Center (EMC)に行くことにした。英語が通じ、かつ質の高い医療を提供してくれる信頼のおける病院である。私にとっては実に6年ぶりのEMCだ。予約制で、とにかくすぐ見てくれる耳鼻科の医師を探したところ、ゴゴイチでベテランのアレクセイ医師が診てくれることになった。
社宅からタクシーで約20分の距離にEMCはある。到着すると1階ロビーは閑散としていて、受付で男性職員に予約について話すと、流ちょうな英語で4階の耳鼻科に案内された。無事に耳鼻科の受付に着くと、女性職員が予約を確認し、まずは医療費の支払いからである。はて、前から支払いが先だったっけ……と引っかかったが、まあ6年も経てば変更点もあろうと従うことにした。女性職員は「処方箋に書かれた薬代は薬局で別に払ってください」と言い、自動支払機の前に案内してくれた。「あ、こういう機械も導入したのね」と面白がったのも束の間、表示された金額を見て、私は凍り付いた。診察費は2万518ルーブル、日本円にして約3万5千円である。「こんなに高かったっけ?」とかなりモヤモヤしたが、機械操作を援助するため隣で見守っている女性職員に「やめます」と言えず、いそいそと支払ってしまった。そしてすぐに診察室へ呼ばれた。
アレクセイ医師はフレンドリーで、「英語はだいぶ忘れてしまったので、通訳に入ってもらいますね」と、先ほどから案内してくれている女性職員も部屋に招き入れた。医師が英語NGとは、想定外である。しかし診察はかなり丁寧で、経過やアレルギーの有無、病歴など詳細な問診が行われた。次に鼻、耳、喉を診てもらうと「喉、赤くなってますね。鼻汁が喉の奥に流れて腫れちゃったんでしょう」と言い、「空気中にいろんなウイルスがいて、普段は平気なんですが、免疫力が落ちるとやられちゃうんですよね」と説明した。診断名は「急性咽頭炎」である。私は「家族にも咳の症状が出ているんですが、コロナじゃないか心配です」と言うと、医師は「今はコロナであっても普通の風邪で、薬を飲んで家で休むしかないんですよね」と笑い飛ばした。「いや、後遺症が……」と言いかけたが、おそらくモスクワに後遺症外来なるものはないだろうと思い、言葉を飲み込んで「日本も同じ状況です」と笑って応えた。
さて、急性咽頭炎で出た処方箋は五つの薬である。まずは点鼻薬二つ。それから喉飴(すごくおいしいオレンジ味)、うがい薬、アレルギー性鼻炎の錠剤。以上で7千ルーブルちょっと。日本円にして約1万3千円である。急性咽頭炎の診断に薬代含めて日本円で4万8千円ほど。狂気の沙汰である。しかし、そう思ったのは日本人の私だけではなかった。先輩(夫)の事業所のロシア人スタッフたちはその額を聞いて衝撃を受けたらしい。後日、ベテラン女性スタッフのアラーナさん(日本語堪能)は残念そうに「その金額はあり得ません。ロシア人が同じ症状で近所の病院に行けば、2、3千円で済みます。EMCは外国人の裕福な患者が多く、そんな額を設定しているのでしょう。普通のロシア人だったら、その金額を提示されただけで帰ります」と語った。ん~、やっぱりそうだよね、と思いつつ、私は「あそこは英語が通じるので選んでいるんです(先生はしゃべらなかったけど)」と事情を説明した。するとアラーナさんは「今度はロシア人が行く病院に私が通訳として同行します」と言ってくれた。なんと頼もしい言葉だろう。私はアラーナさんの親切心に心から感謝した。そして、彼女には、続く体温計の不祥事でさっそくお世話になることになる。※「たぶんコロナその2」へ続く
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