ロシア版のマック・スタバ・サーティワン
7月初旬にモスクワに到着して、すぐに気付いたのは、マクドナルド(マック)やスターバックス(スタバ)などの有名ファストフード店が、雰囲気はそのままにして見知らぬ店名に変わっていたことである。例えば、マックは「フクースナ・イ・トーチカ」に、スタバは「スターズコーヒー」に、サーティワンアイス(サーティワン)は「ブランドアイス」に。商品の名前やラインナップは若干変わったが、味はほとんど変わらない、というよりも、いくつかの店では、本家の味を上回っていると思うことさえある。モスクワの日常にすっかり溶け込んだ3店を紹介したい。
▽フクースナ・イ・トーチカ
ハンバーガーはモスクワでも人気のファストフードである。旧ソ連時代の1990年、モスクワ中心部のプーシキン広場にマック1号店が開店した時、何千人もの人が行列を成し、店舗側が営業時間を延長したとか。2022年にマックがロシアで営業を終了した時は、食べ納めの行列ができたというから、長年親しんだ同店との別れは市民にとって、なかなかショックな出来事だったんだろう。その直後に登場したのがフクースナ・イ・トーチカである。英語で表記すると「Delicious and .(period)」。日本語で「トーチカ」は句点を意味するから、店名は「おいしい。それだけ」とか「おいしい。以上」などと訳される。
普通なら、店名は「フクースナ」でいいと思うのだが、なぜ、わざわざ最後に句点を置いたのか。妙に気になって考えてみたのだが、私はここに、開き直りではなく、哀愁のようなものを感じてしまう。だって皆さんあれだけマックが好きだったのだから、簡単に別のハンバーガー店を受け入れられるわけがないと思うのだ。そこでフクースナ・イ・トーチカのオーナーは、店名を考える時に、「看板が変わったって、おいしければいいじゃない。看板なんて関係ないよ、おいしければ……」という意味でこの句点を付けたのではないか。ある意味、マックを失った市民(オーナー自身も含め)への慰めが込められているのではないか……そう考えた。勝手な想像だけど。
そして実際、おいしいのである。日本のマックとの大きな違いは、フライドポテトの油の量であろう。すごくあっさり揚げていて、ギトギトしておらず、食後に胃もたれしない。これはおもちゃ付きのハッピーセット(フクースナ・イ・トーチカではキッズコンボ)目当てに何度もマックへ行きたがる子を持つ親にとってはありがたいことである。私たちがよく食べるチーズバーガーもおいしい。なんというか、本家よりこっちの方が好きかもしれない。農業国ロシアの底力を感じた。
▽スターズコーヒー
保育園にお迎えに行った帰りにポピ子(娘)とよく立ち寄るのだが、こちらもコーヒーの味はかつてのスタバと遜色ない。イチゴドーナツの甘すぎる風味も溶けやすいチョコも完全にコピーしている。レジで注文すると「お名前は?」と聞かれて、答えると、コーヒーカップに「Mirin♡」と黒マジックで書いて、出来上がると「みりんさん、アイスラテができました~!」と呼んでくれる慣習も残っている。
一方、ガラスケースに並ぶスイーツに、チーズケーキやワッフルのほか、おそらくスターズコーヒーのオリジナル商品であろう、ロシアの絵本「ワニのゲーナ」に登場するチェブラーシカや、アニメ「ウムカ」(チュクチ語でシロクマの意味)のウムカがラインナップされているのも面白い。また、オリジナルロゴ(ココシュニックというロシアの伝統的頭飾りを着けた女性らしい)入りマグカップはオレンジ、グリーン、ホワイトの3色があり、集めたくなってしまうかわいらしさだ。
▽ブランドアイス
ショッピングモールのフードコートでよく目にするのが、サーティワンから衣替えしたブランドアイス。日本で本家の看板を見ると、「baskin BR robbins」とあるが、モスクワで見る看板は「BR and ICE」である。ロゴに使っている色もピンクとブルーなので、うっかりしていると変化に気付かない。しかもコーンの台紙をよく見るとロゴが「baskin BR robbins」のままだから、思わず「隠しきれてない!」と叫んでしまうほどだ。最も驚いたのは、ポピ子が日本でよく食べていたコットンキャンディ味が名前を変えてそのまま残っていたこと。まさかモスクワでそれを楽しめるとは思わなかった。
ここまで見てきて思ったが、もし今後、制裁が解除されて各企業が戻ってきたら(いつになるか全く見当がつかないが)、これらのファストフード店はただちに看板を元に戻すのではないだろうか。つまり、商品の呼び名は変われど立地や味、サービスは変えず、マックやスタバ、サーティワンに戻れる日を待ち続けている、ように思う。これもまた勝手な想像だが、そうだとすると、なんか切ない。
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