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LSEのウェルカム・ウィークで胃を痛める(その3・単位登録で裏技を決める)
※「その2・LSEという獣」から続く
London School of economics and Political Science (ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカルサイエンス) のウェルカム・ウィークの最大の山場は、単位登録(時間割決め)だろう。大学全体のサービスから学科・科目説明会までありとあらゆる情報を詰め込んだ1週間の後半、つまり木曜日の午前中に、「それでは決めてください」と言わんばかりに単位登録のウェブページがオープンした。しかも講義(大教室で教員の話を学生が聞く授業)に付随するいくつかのセミナー(小教室で15人前後の学生が講義の内容を議論する授業)は早いもの勝ちだというから、時間になったらすぐにウェブページに入室し、全て英語で書かれた指示文を読んで、ミスすることなく確実に自分が希望する曜日・時間帯のセミナーを選択しなければならない。もしミスをしたり、希望する日程のセミナーがすでに満員になっていたりした場合、時間割を一からつくり直さねばならない。この単位登録を巡って本当に神経がすり減った。
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▽時間割が決まらない
単位登録のウェブページがオープンする数日前から、学科の必修科目と履修したい選択科目に目を通し、それらの講義とセミナーが開かれる曜日・時間帯を大学が公開している時間割で確認し、自分独自の時間割をつくっていった。まず、私の学科の単位構成であるが、0・5単位の必修科目が三つ、選択必修科目が二つ、選択科目が一つの計3・0単位を履修する必要がある。そこに1・0単位の卒業論文が加わり、単位は全部で計4・0となっている。
必修科目は選択の余地がないが、選択必修科目は三つのうち二つ、選択科目は他学部のものを含む40以上あるリストの中から一つを選ぶことになっている。複雑なことに、三つの選択必修科目は選択科目のリストの中にも入っていて、選択必修科目として取らなかった一つの科目は、敗者復活的に選択科目として履修できるのである。
私は選択必修科目と選択科目の計三つが選びきれないという問題と、もしうまく取捨選択したとしても、それぞれの開講日程の都合上、秋学期がかなり忙しくなってしまうというジレンマを抱えていた。しかし在学中に何を学ぶかを決める重要な単位登録である以上、妥協はできない。ここで相談相手となるのはアカデミック・メンターのダニエル教授(「その2・LSEという獣」参照)であるはずだが、なんと彼は単位登録のウェブページがオープンする木曜の午前中まで、オフィスアワー(学生が教員に対面して学業や生活のことを相談するために設けられた時間)がふさがっていた。つまり、この悩みを相談する相手がいなかった。
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▽一石二鳥の解決策
助け船を出してくれたのは、学科のプログラム・ディレクターであるマシュー教授(「その2・LSEという獣」参照)だった。彼は、私と同じように単位登録の開始日までにメンターに相談できない学生たちに、救いの手を差し伸べていた。さすが、ディレクターだけあって責任感がある。私は早速、彼のオフィスアワーを予約し、水曜日の午前中にオンラインで15分間、1対1で面会した。相談内容は大まかに言って、以下のとおりである。
・選択必修科目の二つのうち、一つは人道危機の問題を扱う科目で決めているが、もう一つを難民問題の科目か、NGOの発信力を扱う科目にするかで迷っている。
・NGOの科目が捨てきれないのは、私がジャーナリズムに魅力を感じ、人道危機の問題におけるNGOの発信力に関心があるからだ。それではその科目は選択必修科目としてではなく、選択科目の一つとして取ろうかと思うが、そのリストの中でそれ以上に魅力を感じているのはジェンダーと平和の問題を扱う科目であって、ここに葛藤がある。
・しかも、どちらも秋学期に開講するので、どちらを履修しても忙しくなってしまう。
この複雑な悩みに対するマシューさんの解は素晴らしいものだった。彼は、「人道危機の問題とジャーナリズムに興味があるのなら、君にぴったりの科目がある。メディア・コミュニケーション学部に」と言って、他学部の科目を紹介してくれた。自分の学科が提示する選択肢の中で苦しんでいた私にとっては、目から鱗の解決策である。しかも調べてみると、その開講は冬学期だった。これでNGOの発信力に関する科目を履修する必要はなくなり、秋学期が忙しくなる問題も解決する。見事に一石二鳥だ。
▽裏技を決める
さて、次の問題は、ジェンダーと平和の科目についてである。マシューさんは「その科目は例年、かなり人気が高くて履修するのが難しい。選考から漏れた場合のBプランを用意することをお勧めするよ」と助言してくれた。そうなのである。この科目はジェンダー学部が開講しているもので、他学部の学生に割り当てられる席数はおそらく10前後。履修するためには200ワードの声明文を担当教授に提出して、選考を通らなければならない。うーん、がんばってみるか……と考えていると、マシューさんは「でも、もし今話している二つの科目を履修するとしたら、選択科目の単位数がオーバーしてしまうよ」と不都合な事実を知らせてくれた。確かにそうだった。選択科目は一つしか選べない。でもメディア・コミュニケーション学部の科目もジェンダー学部の科目も諦められない。
「コンサルタントプロジェクトを落とすしかないな」。マシューさんの提案に、私は耳を疑った。必修科目の一つである人道コンサルタントプロジェクトを落とす? そんな裏技聞いたことがない。しかもこれは彼が手がける、この学科の“目玉”科目であって、国際機関やNGOと現場で持ち上がっている政策課題に共同で取り組めるチャンスである。「もし、ジェンダーの科目に応募してダメだったら、コンサルタントプロジェクトに戻ってくればいいよ。君のための席はいつでも空いているから」
マシューさんの激励はとてもありがたかったが、新たな葛藤の始まりだった。でも、ジェンダーの科目は競争率が高すぎて入れる可能性はわずかだ。ダメもとで応募して、落ちてからコンサルタントプロジェクトに戻ってくればいい。そうすれば後悔はない。そうして応募したら、なんと合格してしまった。
結果として、私の時間割は理想的なものとなった。後日、必修科目の一つを取らないこと、また、他学部の2科目を履修することに対する学科の承認手続きのため、マシューさんにメールを送ると「素晴らしい!」と褒めてくれた。
これで怒涛のウェルカム・ウィークは幕を閉じた。閉じた矢先、緊張の糸が緩んだせいか、夜中に激しい胃痛が襲ってきて、記念すべき第1週目はドロドロの寝不足状態でスタートした。