【読書】人新世の資本論〜齋藤幸平〜
18世紀後半のイギリス産業革命を機に始まった資本主義。
数百年間の資本主義のもとでは、
技術の発明、発展が進み、多くのものが自動化され、
私たちの生活はより便利なものに変化してきました。
しかし、そうした資本主義の裏側には、
気候変動、格差の拡大、エッセンシャルワーカーの低賃金…など、
多くの問題があることも事実です。
本書は、経済・社会学者の齋藤幸平氏が、
私たちの未来を守っていくための資本主義との向き合い方を
様々な社会問題と絡めながら教えてくれます。
世界の流れを変えていくためには、
少数派が多数派へと変わっていくことが必要。
このままの世界だと、ちょっとやばいんじゃ…
そんな方は、ぜひ実際に本を手に取って読んでみてください。
このnoteでは、なるべく私たちの生活に近そうな例を用いて、
本の中から3つのトピックを選んで書いてます。
毎日の労働で私たちは豊かになっているのか?
身近な話からまずは書いていきます。
働いているのに
週5日、8時間働く。
社会人になっても、時間にもお金にもなかなか余裕は生まれないし、
むしろ、仕事や人間関係に疲れて帰ったあとも休日も何もできない。
業種によってもその程度は異なると思いますが、
しっかり働いているけれど、生活に余裕がない。
しっかり働きすぎて、体力や時間の余裕がない。
海外旅行に行こうと思っても、
休暇が取れない、お金がない、時間がない…
多くの人が、"しっかり働いている"のに、
余裕がない。
それと似た状況に陥ってはいるのではないでしょうか?
頑張って働いてもなかなか給料は上がらないし…。
なのに物価はどんどん上がって、いいものを手に入れられなくなる。
働いていないのに
一方で、ごく一部の人は、"働いていない"のに、
お金にも時間にも余裕があって、
海外旅行も行くし、美味しいものも食べることができるし、
家族の時間をとることもできる。
残念ですが、これも事実。
労働者の搾取
99%以上の人は自分のことをすり減らして毎日懸命に働いているのに、
働いていない人との格差は日々広がり続け、苦しい生活のまま。
多くの労働者は、強い人たちのルールの中で生きていて、
強い人たちは自分たちに有利なルールを作るから、
弱いものはなかなか報われない。むしろ、搾取される。
資本主義によって技術革新が進み、便利になっても、
私たちの生活は本当に豊かになっているのか。
実は、弱いものいじめ、されてたり、しないでしょうか。
この本の主張
この本の主張の1つは、
資本主義というルールのもとでは、
多くの人は、全然豊かでない生活をしているにも関わらず、
一部の特権階級の人の利益のために、
知らぬ間に私たちはそれに加担し、
地球の資源を食い荒らし、住めない環境を作っているのではないか。
ということ。
手を打てなくなる前になんとかしよう。
私たち市民が一体となって、
資本主義を変えていかないといけないのでは?
ということで、
最初の労働についてはこのくらいにして、
次の章に移っていきます。
ビジネスの成長は、これからも求めるべきことなのか?
GDPとよく言われるけれど
GDPの成長率が〇〇…とよくニュースや新聞が伝えていますが、
GDPの高い国は、成長率の高い国は、果たして幸せなのでしょうか。
2022年のデータだと、日本は3位。
1位はアメリカ、2位は中国、4位はドイツ、5位はインド。
日本の労働人口が減っている中で、
GDPを上げようとすると、1人当たりのする仕事を増やすことに。
つまり、生産性を上げないといけません。
しかし、生産性を上げると、同じ生産に必要な人数が減少するため、今度は、失業者が生まれてきます。
失業者は、資本主義の中ではお金が必要なため、生活ができません。
政治家は、見た目上にも、資金的にも失業者が増えることはマイナスなので、失業者を増やしたくないのです。(=失業率を下げようとするのです。)
だから、政治家は、
GDPの増加も失業率も上がらないようにする方法として、
経済規模を拡張しよう、と圧力をかけることになります。
その結果、どうなるでしょうか。
GDPと失業者が出ないようにするために、
必要とされている以上の経済規模を拡大しようとする。
そうすると、限りある地球の資源を、必要ではないのに使ってものを作ることになる(環境的なマイナス①…必要以上の資源消費)、日本向けの商品ではなく、海外向けに商品を作ることになる(環境的なマイナス②…輸送コスト、エネルギー消費など)、また、製品コストが下がることで、必要十分以上のものを人々が消費しようとしてしまう。(例えば、太陽光発電で増えた電気を新しい別なものに使おうとする、テレビの値段が下がり大型テレビをどの家でも購入するようになるなど。)
必要性を超えて成長する、ということは、
不必要なもののために、限りある地球の資源を使うことになるのです。
しかも、成長を止めない限り、このループはどんどん増大していくのです。
成長するのが良い、という価値観を持ってること、
これは小さい頃からの刷り込みによるものも大きいですが、
こういった負の側面はなかなか気づかないし、教えてもらえない。
本当に成長することがいいのでしょうか。
効率化をどこまでも進めたら、一人一人のやらないといけない仕事が、
同じ時間の中で密度が増えて、より増えてしまうような気がします。
みんなで生産性を上げること、成長することが、
地球にも自分達にも不幸をもたらすのかもしれない。
そうならないようにするためには、
資本主義的考え方から抜け出していかないといけないのでは?
と著者は主張します。
脱成長へ
成長を求めない。
これは、1人だけではできません。
なぜなら、成長を求めないと、潰される世界に住んでいるから。
もし、成長を求めない人が多数になったら、成長は止まり、
成長をしなくても十分に生活できる世の中になることでしょう。
と、著者は晩年のマルクスの主張を解読していきながら、
脱成長について考えていくのですが、ここは実際に読んで確かめてください。
脱成長コミュニズムを作ることが良い、という話と
それを作る方法として、資本主義をやめようとするのではなく、
労働への価値観を変えていくことが良いのでは?という話が書いてあります。
短時間労働の話や、分業体制の話、エッセンシャルワーカーの話など、
いくつかの労働に分類し、各労働への価値観変化の仕方が、説明されています。
本当に価値のあるものに、お金を払っていますか?
最後のこの章は、脱成長コミュニズムを作るにあたり、
必要となる「価値」と「使用価値」の考え方を紹介します。
ブランドのバッグ
ブランドのバッグ。とても高いですよね。
だからこそなのか、
何個も集めたり、使わないのにとっておいたり、
誰かに憧れて欲しくないけれど買ったり。
多くの場合、希少だから高い値段がつくわけですが、
実際に使用する価値(使用価値)は値段ほど、高くはありません。
希少だから高くつく
ブランドのバッグのように、
希少なものは、資本主義の中では、価値が高くなります。
例え、使用価値が高くなくても、です。
また、希少でなくてもお金を使われるものもあります。
流行りの服を買って翌年には捨てることや、
そんなに食べる必要がないのに、
食べ放題で食べられないほどまでに食べる
どれも、本当は必要のないもの、とも、環境にも悪い、とも捉えられますが、
資本主義というルールの中で、不必要な物資的欲求を刺激された結果、
私たちがよくとってしまっている行動です。
使用価値とは?
では、価値ではなく、使用価値が高いものとは何でしょう?
使用価値が高いもの、は、私たちが使用しないと生きていけないようなもの、
例えば、水、電気、医療、介護などです。
使用価値が高くないもの、は、今まで見てきたようなブランドのバッグが挙げられますが、広告などもそうですね。
資本主義の中では、成長が求められ、利益が求められる。
その結果、後者の使用価値の低いものをいかに高い価値に仕立て上げるか、
また、使用価値の低いものをどれだけたくさん売るのか、が
環境に悪い反面、評価され、求められてしまいます。
脱成長のために
脱成長コミュニズムを作るためには、
資本家に任せていてはいけません。
ESG投資なども一時期流行りましたが、
見た目の環境変化はあるかもしれませんが、
それは弱者に負担を増加させるだけです。
私たち市民が、力を合わせて環境を守っていこうと立ち上がることが大事、
と斎藤氏はまとめています。
感想
資本主義の裏側、どれだけ環境を破壊するシステムなのか、
ということは分かったのですが、
具体的な新世の形、その方法については、まだまだ難しいのかなと思いました。
ただ、このような内容の書籍出版によって、
人々に自分達の世界がいかに資本主義の中の井の中の蛙かを啓発する、
資本主義にぬくぬく生きている私たちにその危険性を警告するという意味では、
非常に意味のある議論に思います。
また、マルクスの新たな見方や、気候変動に関する見方を、
反資本主義(脱成長コミュニズム)という形でまとめている点も、
注目されている理由なのかと感じました。
暇と退屈の倫理学と併せて読んでいて、
どちらも2度目の読書。
共通に思えるのは、
資本主義の仕組みによって本当に必要なものが隠されて、
必要のないものを必要と思ってしまっている、
そのことをもっと自覚していこうということ。
無知の知。
このままだと危ないと感じ、新たなことを知り、考え、
人に伝え、仲間をつくり、変えていこうとする、
その態度や行動が大事だと感じました。
学生運動や社会運動って意味あるん?
と思っていましたが、
無関心でいる自分自身の態度に、少し怖くなります。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!!
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