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人間の領域の外
世の中には知らないほうが良いことがある。
知らない方が良いじゃなくて、知ってはいけないこともある。ソレは人間のとなりに存在しているけど、もし何かの偶然が重なってカケラだけでも視えてしまったら、それ以上視てはいけない。偶然視えてしまったもの以上のことに興味を持ってはいけない。そしてさらに自分から視に行ってはいけない。おそらく視た瞬間にあちらへ引きずりこまれてしまうだろう。
若いとき、人間の領域の外の『モノ』を感知してしまったことがある。
ソレに会ったのは冬の夜、午後9時頃だった。普段は午後6時に帰れるのに仕事が長引いてかなり遅くなった帰り道でのことだった。
道路の左側には畑が広がっていて、右側には一軒家の住宅が立ち並んでいる歩道がない普通の道路をいつものように自転車で走っていたときのこと。
街灯の明かりがとぎれて次の街灯まですこし距離がある暗闇にさしかかったとき。
いきなり身体の右側に得体のしれない気配を感じた。次の瞬間、本能的に(ヤバイ!!)としか表現できない圧倒的な恐怖に襲われた。全身の毛穴がブワッと開いて冷や汗が一気に噴き出して
(これダメだ! 絶対見ちゃいけない! 見たら連れていかれる!)
だれかにそう教わったわけじゃないのに、そうなる確信があった。
自分の右腕、右肩、胴体の右側に、皮膚の表面から異質なモノが強制的にもぐりこんでくる感じだった。身体の右側半分をゾワゾワした感覚に浸食されていくと言えば分かるかな?
明らかに人間じゃない感覚を感じていて、顔や目線をそっちに向けて
「見る」「視る」みてしまったら人生が終わることを本能的に直感した。
そのとき感じた得体の知れない恐怖は人生で初めての経験だった。
人外のなにかがそこにある、もしくはそこにいる。明らかに人間以外の存在でソレを視てしまったら、一瞬であちらへ引き込まれて、こちらには二度と帰ってこられない確信があった。それぐらいソレは圧倒的な存在感でそこにいたとしか表現できない。
だからソレが何だったのか、どんな色でどんな形で幽霊なのか神様なのかも分からないままだ。だけどそれを知ってしまったら、その瞬間から私はもうこの世にいないことだけはハッキリ分かる。これは理屈じゃない。理屈なんかじゃない。人間に生まれつき備わっている生き物としての本能的な恐怖を無理やり引きずり出されるような感覚で、かってに足や身体が震えて力が抜けてしまうような感覚だ。そんな恐ろしいものに人間なんてちっぽけな存在が決めたルールなんか通じない。
あのときは恐怖に凍りつきながら、自転車の推進力にまかせて通り過ぎるしかなかった。だから、ただの通行人には興味ないと見逃してもらえたのだろう。結果的に助かった。 ・・・たぶんね。 助かったんだと思うよ。
それ以来、同じような恐怖も感覚も感じていないから。
わたしは霊感を持っていないし、幽霊が見えたこともない。
無害な気配みたいなもので、真夜中に朗らかな雰囲気でこんばんわと挨拶に来るおかしなモノに会ったことはあるけど、それ以外はちょっと勘が強いだけのただの人間だ。
死んだ人より生きている人間のほうが怖いと思うタイプの人間だ。だって生きている人間はバカだし、怒鳴るし暴れるし、ワガママで傲慢でかんたんに壊れるくせに、明確な悪意をもって他人を攻撃してくるヤツもいるし。
最後は溶けて腐って大地に還るしね。
そんな人間どもよりも上記の「ソレ」の方がはるかに怖い。
父親がよく言ってたこと。
「人間の範疇を超えることを無理に知ろうとするな。」
なるほど、こういうことだったのかと痛感した。父親はとんでもないほど鋭い直感力を持っていたから、おそらく上記のような経験をしたのだろう。
だからなんとなく分かっていたんだろうな。いつか自分の子供も同じような経験をするかもしれない、人外の存在を感知してしまう危険に遭うかもしれないと分かっていたんじゃないかと今になって思う。
ホラー漫画に描かれている描写で、主人公が危険な存在に出会ったときあまりの恐怖に(ヤバイ!ヤバイ!)としか思考できないときがあるでしょ?
あれって現実世界でもその通りなんだって分かった。
圧倒的な恐怖に押しつぶされて、危険とか警告とかそんなものを吹っ飛ばすぐらいの圧倒的な恐怖に押しつぶされすぎて、危険なことは理解しているんだけど、日常の言語が出てこないというか的確な言葉が出てこなくて、ただひたすら(ヤバイ!)しか出てこない状態になってしまう。
これを読んだ人も万が一、人外の領域が視えてしまったらすぐに逃げたほうが良いですよ。間違っても興味本位や好奇心で、あちらをのぞいてはいけませんよ。二度と帰ってこられなくなるかもしれませんからね。
おわり