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嗜好は人を雄弁に語る - 私のお勧めするアニメ一覧

はじめに

人によって好みは違うので、映像作品や小説などの評価に対し不特定多数の平均や多数決は無意味だと思っている。価値があるのは1個人のなかでの評価の文脈だけ。以下はベータが好きな作品をみんなに知ってもらいたく、強くお勧めしたい順に並べたもの。この人はこの観点でこれを評価するのだなと、履歴書を見るような気分で読んでいただけると幸い。

メイドインアビス

長らく推して来た攻殻機動隊SACと肩を並べる衝撃度だった。可愛い絵柄と度し難い描写のギャップで話題になったが、本作の魅力の本質はそこにはない。
作品の根底に流れるのは安全より憧れを求める登山家の思想。しかしそれは第一層の理解。作者であるつくしあきひと氏は、そもそも人生を一つの旅と考え、価値は目的達成ではなく行程にあると考えている。
若者は合格・結婚・就職などゴールを価値と捉えがちだが、年齢を重ねるにつれ万人の最終的なゴールは死である事実を嫌でも意識することになる。ゴールが価値ならそれは均しく無なのだ。
となれば必然、行程にこそ価値を見出すことになる。焦がれる道を進んでいるなら、例え道半ばで倒れようともそれは幸せなのだ。死は悲しいだけで不幸ではない。不死のミーティが不幸の象徴として描かれる事からも自明である。
本作の解釈はボンドルドやワズキャンを単純悪と解釈するか否かでも分かれるだろう。善悪は評価する立場によって変化する。貴方の物差しと大統領の物差しは異なるのだ。そして主人公のリコは視聴者が想像していたより、ずっと彼らの近くにいる。
アニメ第2シーズンは本当に悲劇だったのだろうか。貴方はエベレストに挑んで果てた登山家の人生を「可哀想」の言葉で評価するのだろうか。私は走りきった後の自分の人生を「可哀想」なんて単語で置換されたくない。

攻殻機動隊Stand Alone Complex

物凄く雑に概略するならSNSのバズりが現実世界に何を引き起こすのかを描いた作品である。常にネットと接続される我々の正義感は必然的にバズりに左右される。いいねする脊髄反射の速度で我々は緩やかな洗脳を受けているのだ。
これらを近未来SFの形で描き、生命のボーダーを取り上げ、名作映画へのオマージュで彩った本作の脚本はTVアニメの歴史上屈指である。
特に生命のボーダーについては、ありがちなAIに人格を認めるかという問題に留まらず、人の機械化を進めた際のテセウスの船問題や認識論、更には上述のネットというサブブレインとの境界線など幅広く取り扱っていて興味深い。これはSACに限らず攻殻機動隊シリーズに共通したテーマでもある。
影の主人公が持つイノセンスとそれに対する周囲の認識の歪みにサリンジャーのキャッチャー・イン・ザ・ライと笑い男を採用した点も美しい。私は攻殻機動隊が好きすぎてキャッチャー・イン・ザ・ライの英語原作を一冊まるごと和訳したことがあるぐらいだ。
実は10年以上前に他のサイトで一話ごとの解説を書いたことがある。途中で更新止まってるけど、多分まだググると見つかるはずなので興味があれば…。

魔法少女まどか☆マギカ

実は1〜2回しか見ておらず、そんなに詳しいわけでも無いが敢えて挙げた。それぐらい魅力のある作品だからだ。ホントに?と思う人は最後までとは言わない。せめて主役が初めて変身するシーンまでで良いから見て欲しい(罠です)。
まどマギは魔法少女物というジャンルに、特大の楔を打ち込んだ問題作。善意が裏目に出る脚本も、SFとしての構造も素晴らしいし、ほぼ完璧な最終回を迎えたTVシリーズに追加されたにも関わらず、映画の構造も視聴者の悪い期待を裏切らないドギツい物だった。感服。
誰かのTweetで読んだが、長らくキュウべぇのぬいぐるみを可愛がってきた子供に、初めてアニメを見せたら「てめえ!」と投げ捨てたそうである。さもありなん。

トップをねらえ!

エースをねらえのパロディロボットアニメの皮を被った骨太SF作品。大抵の人は第一話のお姉様の姿で挫折するので我慢して3話まで見て欲しい。富野イズムを継承したかのような容赦のない展開に打ち震える筈だ。
本作の魅力はケレン味の塊のようなザ・スーパーロボットな演出と、当時としては珍しい相対性理論の取り扱いにある。最終話の演出と歪んだ音響に当時私は号泣した。OVAでたった6話の作品なので未履修の方は是非トライして欲しい。そもそも当時も古い作品をオマージュした絵だったので、今見るとかなり古い絵だけど…。

エヴァンゲリオン

どのスペルで書くのが正しいとか言うツッコミはしらん。あえて新世紀とかもつけない。今更紹介する必要あるの?って気もするが、それでも一言いいたい作品なのだ。
本作品の魅力は多角的にいくらでも語れる。キリスト教モチーフの深掘り可能な世界観。SF的ループ構造。同じ場面の表層と心象という旧劇場版の構造。兵器オタク的描写の正確さ。惣流が式波になった理由とかも語れといえばいくらでも語れる。
しかしここではあえて庵野監督の映像センスについて語ろうと思う。あまり語ってる人がいないので。
彼は実相寺監督の後継者と読んでも差し支えのない人で、実相寺監督特有の手前の遮蔽物経由での覗き見のような構図をよく使う。単なるオマージュといえばそれまでだが、そうでない場面でも、彼は徹底的に画角に拘り、視聴者の視線を意図的に限定している。シン・ゴジラを見ればわかる通り、画角とカット割りで演者の演技をコントロールしてしまう程の才が彼にはあるのだ。
彼がセンスを発揮するのは画角だけではない。色、描写する対象、全てにおいて彼は抜群のセンスを発揮する。使徒を倒したときの赤い液体も映像的快感を目的として設定したものだという。シンジが逃げ出したときの里山の風景。特報画像などにも多用された電線や電柱のシルエット。今、日本の美しさを映像化させて彼を超えられるものは居ない。捉える望郷の時代が数十年ズレているだけで、彼以外に宮崎駿と同じレベルで日本の里山を描けるアニメ監督は居ないと思う。
なるほど、エヴァは設定の坩堝だが、一旦設定から外れて、映像をゆっくり見てほしいのだ。こんなに映像的快感を提供してくれる作品はそうはないはずだ。ぱっと見の彩度とかに誤魔化されてはいけない。



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