ショートショート「夏の終わり」
祖母が亡くなった時は今でもよく覚えている。私が10歳になった8月末日の翌朝で、自分は日本一不幸な小学5年生だと思った。
しかし、肺がんと最後まで闘う姿は強く美しく見えた。「人はいつか死ぬ。こうやって抗う苦しむ姿を見とけ」と言われているようだった。
祖母が亡くなって、病院から帰ってきた時には既に沢山の人達が居間に集まっていた。
葬式は厳粛に執り行われた。すすり泣く声が住職の念仏をかき消していた。
ふと窓を見ると、青空を舞う細雪が見えた。
会場のほとんどがチラと横目で確かめた。
祖父だけは外を一瞥することなく、喪主代表の挨拶に立った。
「この季節外れの雪は、妻が【私を忘れないで】と言っているのでしょう」と涕泣(ていきゅう)した。私は、祖父の涙を初めてみたのだった。
【了】