ショートストーリー「元・世界一位」
親戚の宇宙(ひろし)おじさんは元世界一位らしい。その正式な称号が世界第一位なのか、はたまた世界チャンピオンなのかはハッキリと分からない。
去年夏に勇気を振り絞って訊いてみた。
「おじさんって何の世界一位なの?」
おじさんは怪訝な顔をした。
「紳助君知りたい?」
僕は目を輝かせてうなずいた。
「・・・おじさんは何の世界第一位か忘れたよ」
こう言うと頭をポリポリと掻いて、苦笑いをした。おじさんは年だから忘れたのだろうか。
「秘密なの?」
僕はさらに目を輝かせてもう一度訊いてみた。
「おじさんはね、世界一の夢を語る人間なんだよ」
その昔、『夢を語る世界一決定戦』というイベントがあったそうで、おじさんは記念すべき第一回大会の優勝者らしい。
「当初は注目度も高かったんだけど、視聴率があまりにも低く、たった一回だけで終了したんだよ」
おじさんは遠くを見て、淋しそうな顔をしていた。僕は、聞いてしまったことを深く後悔していた。
「そこでおじさんは何を語ったの?」
「子供達が憧れる仕事を沢山作ろう、と話したよ」
おじさんは得意げに身振り手振りで僕に話してくれた。地味なおじさんに、突然オーラが降ってきたようだった。
「ところで紳助君には夢はあるの?」
僕はウーンと考える振りをした。おじさんは僕をジーっと見ていた。
「僕の夢はおじさんのように世界一位になることなんだ」
「紳助君、何に?」
おじさんはまるでいじわるをするようにすぐさま訊いてきた。
「分からない・・・。分からないけど、人が出来ないことをやりたいんだ。鳥のように空を飛んだり、魚のように海を泳いだり」
本当は夢など無かったのだ。
僕はドキドキした。
おじさんさんから訊かれて突拍子も無く言ってしまったのだ。
おじさんは僕を見て優しく微笑んでいた。
僕はそんなおじさんの笑顔を見て笑った。
今度おじさんに会った時は、おじさんの夢をまた聞いてみたいと思った。
【おしまい】
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