スネークオペレーター〜特別諜報捜査官〜#7
【前回までのあらすじ】
合宿免許で知り合った今井ミミから実は新人女優であることを打ち明けられる。一方ヤスは社長の矢崎の正体を知る事になり、自らも特別諜報捜査官としての活動を余儀なくされる。相棒としてアルフレッド中渡瀬、通称アルと海外から国に侵略している諜報組織を捜査し排除する役割を担う。拳銃の所持が認められ階級は警視での活動となり、体を鍛え捜査の準備をする。心の中で叔父貴である矢崎の復讐が始まっていたのだと知る。
〈第四章〉
ヘッドホンをして空のマガジンに弾丸を込めていく。ヤスの拳銃にマガジンを装填。スライドを引き安全装置を外して、10m先の人の形をした紙に目掛けて、まずは両腕で連打する。弾が無くなったらハッチが空いたままになるので、両腕を降ろして机の上にあるボタンを押す。人の形をした紙が10m先からワイヤーでこちらに返ってくる。頭と左胸に何発も命中している。紙を変えて、ボタンを押して10m先に送り込む。今度は右手だけで連打する。ボタンを押す。紙が返ってくるの繰り返しをしていると、
「お見事ねぇ〜!」
手をパチパチ言わせて、他のおもちゃも全部完璧らしいじゃない。体も立派になったわ。アルと変わらないくらい・・・と言うエリーがいた。
あれから、1ヶ月近くなる。朝から晩までセットの筋トレを繰り返し。アルフレッドを相手にMMA(総合格闘技)で何でもありでタップしたら負けの勝負を毎日やった。アルのクセを見抜いていたので勝てるようになったが、他の格闘家なら勝てるか分からない。しかし、アルより強い奴は、そうはいかないと思う。自分でも自身が付いた。
「そろそろ任務に入ってもらわないとね。」
と言いながら、ツカツカ隣の部屋へ歩き出すエリー。
「こっち来て!」
何とかどっかで見た光景だなぁと思ったら、希江ちゃんに似ている。希江ちゃんよりエリーさんの方が背が高い。ショートボブまでそっくりだ。着いて行ってテーブルに着くとレポート用紙をアルと俺に各々渡し、80インチくらいの大きなモニターにスイッチを入れた。ファイルが見えてクリックしているみたいだ。画像ファイルをjpeg-1から写していく。探偵が撮ったような振り返ったような男の顔が写ってる写真を見せながら
「こいつが花田会の本部長上田公二。花田がヒットマンに狙われた時に助手席に乗ってたの。新橋の現場の中華料理屋の防犯カメラの映像がこれよ!」
と言って動画を再生する。高級ミニバンが信号待ちをしたところから始まる。ミニバンが停まると、助手席の窓が全開で本部長が左腕を出してだらりと下げている。良くその手の輩がやる。でも良く見てみるとだらりと下がった手が動いている。
「これどういう意味が分かる?」
とエリーがヤスに聞く。
「あー、誰かに手招きをしてますかねぇ」
「that's right! 本部長がこの事件を画策したのは間違いないでしょう。」
とエリーが呟く。続ける。
「ヤスはどう思う?」
「これを見ると、花田を殺そうとしたのは本部長の上田で間違いなさそうですね。自分の親を殺そうとしてます。なぜ親を殺さないとならない理由があるのでしょう?」
とヤス。
「本部長の上には、花田だけじゃなくて、もう一人いない?」
あーっ、そうか黒沢。自分はジギリ(組の為に体掛けること)かけても逃亡中。良い目見れんのは、出頭し服役後の出所した後になる。こんな大きな抗争事件でヒットマンなら15〜20年は打たれることになる。
その間、花田があのカメレオンじゃあヒヤヒヤして安心して服役できないかぁ〜。今、誰がやったか分からない様に殺しとけば、直参かなんかになって安心して懲役いけるってか。
いずれにしても黒沢は暗殺したのに今のところ何も無しだしな。花田がだらしねーからだろうな。なんてったって、木下の親分と一緒に極桜組を割って出た旗振り役の一人だったからな。指一本ぐらいじゃ干されても仕方無いよなぁー。
他に割って出た矢﨑の親分もすぐ堅気になったし、言い出しっぺで帰参したのは花田だけだからどうしようか迷うのは分かる気がする。
「黒沢が気になりますねぇ。本部はどう考えてるんでしょうね。」
まぁ、それも含め調査しなきゃね。とにかく本部長の動きが気になるから、その辺から調べるべきよ。それとコカインも関係してるから、そっちの面からも調査して。分かった?」
「了解しました。」
とヤス。
アルは、目立つから俺一人で先に調べに出る。何かあったら連絡する。そう言うのを見届けエリーは退室した。
「了解。車使うならどれでもどうぞ!」
あ、そっか。車だな。目立たないのがいいけど、ここには目立たないと言えば、ベンツのSクラスしかない。仕方ないか。とりあえず、六本木に繰り出すんだから、全日空のシャラトンホテルを駐車場付きで予約してもらってベンツのSクラスでいいや。
「じゃあアル、内藤でホテル駐車場付きで予約お願いします。」
「このカード使ってください。名前書いてないけど領収書は〝K〟でいいらしいです。」
とアルが黒いチタン製のクレジットカードを渡す。
「おー、これがブラックカードかぁ〜。これ出すと信用絶大でモテまくるみたいだよ。何かニヤけちゃうな〜」
とヤスがはしゃいでいると、
「そうですけど、これは任務ですから考えてやってくださいね。任務が成功すれば、もちろん文句言われませんが、長々と任務やってたり失敗すると、一生タダ働きにされますよ。」
とアルが制する。
「タダ働きは嫌だなぁ、住むところはあそこでも良いけど・・・。」
とヤスが笑って言うと、
「嫌ですよぅ、バッチ持たされたままタダ働きって危険なことしかやらされませんよ・・。」
とアルが言うと、疑問に思ったことを聞いてみた。
「あっ、そういえばこの仕事、いや任務が成功したらいくらもらえんだ?」
と直球で聞くと、
「今までの任務遂行した人、報奨金をもらってましたよ。文句言えないほどの。」
とアルが教えてくれた。
「だよなー。体かけて任務やるんだもんなぁ。期待してもいいかなぁ〜。」
とヤス。
「いいんじゃないですかぁ〜。きっと夢みたいな世界が待ってますよ。ブラックカードにベンツ、高級スーツに高級時計、全て借り物ですけど、夢みたいじゃないですか。これが本当になるかもしれません。ほら、007のジェームズボンドみたいに・・・。」
とアルが現実的なことを言うと、
「おー、かっこいいけどあんな危険なことは無理!」
と言いつつ、衣装室へ向かう。アルも連れて行く。
「六本木のキャバクラにラリった嬢がいるらしい。その辺から追って、売人から何か情報聞いた方がいいな。」
とアルに言うと、
「急にその辺から探りますか。俺なら本部長さらって直球でヤスさんなら聞くかと思った。」
とアルが言うから驚いて、
「辞めたカタギが、しかも元在籍してた同僚になんで親父殺そうとした?って聞けるか?コカインの方から固めていった方が良さそうだと思う。」
うんうんうんとアルは頷く。さらに
「もう一回、花田の親分狙うんじゃないかと思うし、しかも他組織だと被せないと意味ないからな。そう考えるとコカインの方で本当に揉めてるかどうか調べないとな。」
とヤス。
「あっ、そうか。コカインで揉めて他組織がシノギの邪魔して欲しくないから狙ったと今は思ってるからね。本当は全く揉めてなく分け与えている可能性ありますねぇ。さすがヤスさん!なら、ヤスさんが言うようにコカインからですね。じゃあ、キャバクラからだわ。俺も一緒に行こうかな。」
とアルも行きたそうに言う。アルは外人顔なのでめっちゃ目立つ。
「だから、目立つから!!」
とヤス。アルも分かった分かったと衣装準備する。
「六本木のキャバクラだから、スーツでなくても軽くジャケットで腕時計とかアクセサリーで金持ち風でいいんじゃない。ヘアメイクもいるんで。」
湾岸スタジオからヘアメイクも呼んである。衣装は何でもある。ある程度、チョイスして靴も揃え、ヘアメイクもバッチリだ。
時計もダイヤの巻いたロレックスデイトナだ。ヤスも親分の形見でロレックスデイトナならターコイズのダイヤ巻きを持っている。査定本を見たら4,000〜5,000万円するらしいが、本当かどうか分からない。さぁ、準備OKだ。ベンツに乗り込みアルに
「じゃあ、夢見に行ってくるわー!」
と言うとアルから
「貧乏性がつい出て偽物ってバレないでねー!」
と笑って見送ってきた。
出発して湾岸警察署の裏から出て、レインボーブリッジ通って六本木方向へ。
「そうだよなぁ〜。根っからの貧乏性なんで、ちゃんと演技しなきゃだな。」
〈第五章〉
六本木の近くにあるシェラトン全日空ホテルの駐車場の地下スロープを降りて行く。矢印に従ってホテルの入り口のプレートの近くに空きを見つけたので手慣れた感じでバックで駐車する。運転席から出やすいように少し右に寄せて停める。
降車してセカンドバックを持って、ホテル入り口のプレートへ向かって歩く。今回は危ないところへの突入ではないので、拳銃と手帳はベンツのグローブボックスに置いてきた。午後10時を過ぎた頃なので、1階のフロントでチェックインする。内藤の名前で無事チェックインできた。車のキーを預けろと言うのでスペアキーを渡しておいた。いざ、何かあったらすぐ武器を取り出せるようにだ。
フロントで手続きが終わり部屋のカードキーをもらった。デポジットでクレジットカードを出すよう言われたので例のブラックカードを出したが、一瞬、手が止まった程度で平静を装っていた。アルがスーペリアルスイートルームを予約してあったので、15階の部屋を指定された。スイートルームの格付けが全く分からないので、そのまま部屋へ向かう。開錠して部屋に入ると真ん中にダブルベットがドカンとあって、多少広い感じの部屋だった。1人で泊まるにはもったいないと思うような気がする自体やっぱ自分の心の中に貧乏性があるんだなぁと実感する。
それを振り払い置いて行く荷物は今のところないので、トイレで小の方をしてアルからもらったウコンの錠剤と内ポケットに入れてあるボイスレコーダーのRecボタンを押す。360時間録音も電池も切れずに動作するそうだ。
さぁ、部屋からフロントに電話してタクシーを予約する。すぐにでも準備できるらしいので、そのまま入り口の車寄せに向かう。
フロントを通る際にいってらっしゃいませ。と3人の男女フロントスタッフに挨拶された。タクシーに乗り、六本木のドンキホーテ前へと指示すると、
「承知しました。シートベルトをお願いします。」
と形式的に言うので俺はちゃんとシートベルトをする。すると運転手は、
「ご協力ありがとうございます。」
と形式的なお礼の言葉を言う。ドンキホーテの前に付けるなら六本木交差点の方から行かないと付けないようになるため、直接六本木通りに出て、六本木交差点から左折した。沢山のタクシーが同じことを考えていてお客を降ろしているので、二重、三重駐車して支払い降車していた。俺も同じで領収書をもらい素早く降車した。
歩道に入ると六本木交差点方向に歩き、ドンキホーテをすぎる頃に人が混んでいて前へ進めない。ドンキの隣のうどん屋となりにキャバクラのビルがあるからだ。
柄の悪そうな若い輩や外人がたむろしている。まだ午後11時にもなってないのに、ミニスカートを履いた女性が泥酔してパンツ丸見えで座り込んでいたりする。そのビルの2階まで階段で上がり、エレベーターに乗り込む。既に4階を押してあったので、そのまま上の他の店を見ていると、キャバ嬢らしき女性が
「何階ですか?」
と聞いてきたので、
「あっ、4階なので大丈夫です。」
と言うと、女性は、
「あっ、Piano行くんですか。私、そこのキャストです。」
と笑顔で返された。自分の客を見送った帰りなんだろう。ブスなら、あっそって塩対応するんだが、なんなかの美人だったので、
「あー、後輩の守って奴の紹介だけどな。初めてなんだ。」
と言った。
「守さんの紹介なんですね。守さん一緒じゃないって事はVIPのお客様ですね。」
えっ、どうして?って思ったけど、よく考えるとキャッチされたら一緒に連れてくるはずで、フリーで守のことを知ってる人ってことになるから、VIPってことだろう。でも、一度紹介してもらってリピーターという可能性だってあるのに・・・。あっ、紹介だって言って初めてだし守って呼び捨てだし。洞察力凄いなこの美人さん。使えそうだ・・・。
「あっ、あー、そうだ。よろしく頼むよ。」
なんか、急に恥ずかしくなってきた。見透かされているような気分になる。
「こちらこそ、ネネって言います。」
と言いながら腕をからませ、メロンみたいな胸を押し付けてくる。悪い気はしない・・・。アルの顔が目に浮かぶ・・・。
チンッと4階へ着くと何人か客が降りた。他の客も皆んなPianoだったらしい。羨ましそうに睨まれた。
「いらっしゃいませ。」
と何人かの黒服が4〜5人の客を1人ずつ捌いて行く。ネネが
「他にも誰か待ち合わせ?」
と聞くので、
「いや、一人だよ。」
開口一番ネネは言う。
「じゃあ、ネネ指名でVIP行こ。だめぇ〜?」
って下から見て、お願いするように言う。
「全然いいよ!これも縁かもしれないしね。」
って気に入ったように装う。もしかすると、色々聞けるかもしれないから。
「やったー!じゃあ、VIP席お願いしまーす!」
と黒服に少し大きな声で言ったら、
「VIPのお客様、こちらです!」
と奥からペンライトで手招きをする。
今ちょうど暗くなってショータイム中だ。3人ぐらいの子がポールダンスを踊り始めている。ネネに手を引かれながらVIPルームに案内される。
たまたま暗いので顔を見られずに済む。これ幸いだった。VIPルームは個室だった。VIPルームの扉を開けてこちらへどうぞ!と大きなソファーに案内された。L字型のソファーっていつもどこに座っていいか分からないので、L字型の曲がっているところの手前に座る。続けてネネが密着して座ってくる。密着して座るのが癖になっているんだろうか。この手の子は必ずそうする。
離れて座った子いたかなぁ?あっ、ミミがそうだった。遠慮して離れて座ってたと思い出した。でも、大阪のスミレは密着して座ってたような気がした。ミミは今日も連絡はしてある。他愛もない話をして、来週に久々に会うことになっている。
あの日からテレビを見るたびにコマーシャルやバラエティ番組とかテレビに出ている。あまり見る時間が無いけど、ミミをテレビで見ると化粧をしていて着飾っているので少し違う子に見える。実物の方が可愛い。そんな事を考えていると・・・ネネが
「何考えてるの?」
「いや別に。飲み物は泡でいいよ。ロゼで。」
と言うとネネが、
「マ、マジでー?!まさかグラスじゃねいよね?」
と苦笑いしながら聞く。
「お前も飲みたいだろう?ドンピン持ってこいよ。」
と小さい声で軽く言う。ドンピンとは、ドンペリピンクロゼのことだ。
「うわっ、ネネ今日ついてる。ノルマ同伴を強引に引っ張ってきた客にドンペリ白入れて少しオコで帰ったから・・やったー!!」
ネネはすぐ黒服に伝えた。
黒服が一度俺の顔を見る。インカムですぐ準備してシャンパングラス2本とドンピンをシャンパンバケツに氷が入れられて三角にした大きな布ナプキンを持ってきた。付き合わせは皿に色んな種類のチーズだ。
シャンパングラスは、2本黒服が持ってきたが、テーブルにもシャンパングラスはゲスト用が何本も置いてあった。何人かのキャストが来るんだろう。さぁ、怪しげな奴が発見できれば良いが・・・。
黒服がナプキンで包んだドンピンの栓を開ける。
ポンッ!とゆっくりあけたので泡は溢れない。その音と同時に4〜5人のキャスト(嬢)がVIPルームに入ってきた。飲み物を見て
「いや〜ん、ドンピン!!キャー!」
ってほぼ全員が言う。そんなに飲みたいのか?それとも客をヨイショしているのかは分からない。全員に注ぐとネネがグラスを上げて
「内藤さん初来店、いらっしゃいません。かんぱーい!!」
と大きな声で言うと、皆んな声を揃えて、
「いらっしゃいませー!」
とグラスを俺に向けてカチンとグラスをぶつけてくる。
全員の顔とスタイルを見たが中の上、下ぐらいまでだ。ミミより可愛い子はいないと自分の中では思うが、テレビにあれ程出てるってことは国民も認めているということなんだろうな。でも、ミミがこんなところで働くのは嫌だな・・・と思いながらグラスを見ているとネネが、
「また何か考えてる?今日何かあったの?私が悩み聞いてあげるわよ。」
とネネは仕事をする。さすがキャストだ。
ドンピンも既に空っぽだ。ジャンバンばかり続けてもいいけどお腹が膨れるのでワインの赤を飲みたいとネネに言った。またも嬉しそうに黒服におすすめ赤ワインを聞いたらワインリストを持ってきてくれた。
だいたい、ドリンクリストを見ると店の料金が分かる。メニューを見て六本木のキャバクラではほどほどのようなので、いつもは辛口の濃いめが好きだけど、今日は任務なので、軽くピノ・ノワールあたりにしといた。
ボトルで持ってきてもらい、ワインが飲めない人は好きなのを飲めと振る舞う。各々カシスソーダとかレッドアイ、嬢が飲みそうなゲストドリンクを皆んな飲む。ネネは係になりたい為に一緒にワインを付き合った。
「内藤さん、改めまして私はこの店でチーママをしているネネです。」
と名刺を渡される。若く見えたがチーママと言うことは30才を過ぎているだろうから、俺より年上だ。それに驚いていると
「今、私のこと年上か?とか、ババアか?とか思ったんでしょ?」
こいつ読心術を持ってるのか。本当に思った事を当てた。
「あー、年上かぁ〜とは思ったかも・・・。」
わっはっはっと手を叩きウケる!と笑っているネネ。
「でも、チーママって言っても30才超えてないのよ。」
とネネが言う。でもよく見ると26〜27才に見えなくも無い。また話が止まってのでネネが
「27才だよー!同級生くらい?」
じれったくなってネネが自らバラす。
「あたり。同級生だわ。ダメ?」
するとネネが
「内藤さんって下の名前は何て言うの?」
と聞くので隠す必要ないから
「靖って書いてヤスシと言うんだ。」
「じゃー、同級生だからヤスって呼び捨てにしても良い?」
え、今日会ったばかりで友達になってもいないのに、ずうずうしいなこの女と思ったらネネが
「ずうずうしい女だなぁ〜って思ったでしょ?」
とじーっとこちらを見つめて言ってきた。このネネって女は洞察力も読心力も持っていやがる。
「お前なんか俺んこと知ってるような女にしか見えなくなってきたわ!」
とネネに乗ってみる。
「ヤスってなんかエレベーターの中で初めて見たけど、どっか私とタイプが似てるっていうか、何て言うか分からないけど、双子の兄弟みたいなオーラが出ていた・・・。」
でたでた。キャバ嬢がよく使う手を出して来た。おっとこれも読心術されてるかも。
「あっ、今、キャバ嬢がよく使う手だって思ったでしょう!」
お互い爆笑する。ネネに黒服が耳元で何か言う。他の客に呼ばれたのだろう。
「大丈夫?俺なら他の子と遊んでるから気にしないで。」
とネネに少し気を遣うと、
「うん、いいのいいの少し待ってね。」
と言うと、着物の女性が現れて
「わたくし、この店のママでカレンと言います。少しネネちゃん席を外してよろしいでしょうか。」
えっ、ママがわざわざ来てネネを抜いて行くとは太客の来店だな。それも気になるけど、ママとも話したいので、全然大丈夫と答える。ネネはあとでまた来ると言うと退席して行った。ママが
「ごめんなさいね。ネネちゃんとお話はずんでる時に・・・。私もあんまり年変わらないのでお仲間に入れてください。」
とママの顔をよく見ると、さっきまで言うレベルの中の上である。ネネと対して変わらないくらいの美人である。
「あっ、遅れました内藤です。ネネちゃんとは同級生なんです。と言っても同じ年と言うだけで入り口のエレベーターで初めて会いました。」
と今までの経緯を話すと
「あらっ、そうなんですね。黒服から初見とはインカムで聞きましたが、仲良くしていたし名前を呼び捨てにしてたから、知り合いかと思いました。」
「あの子、洞察力がすごくて人の心を読めるっていうか、俺が何考えてるか当てるんです。凄いですよ。」
とヤスがママに言うと、ママも
「ネネちゃん他のお客さんからも良くそう言われてて顔見ただけで今日何かあったな?とか、今日はそっとしてあげよう・・・とか雰囲気でお客様のことが分かるんです。不思議な力というか気が利く人に多いタイプですよね。」
ネネってそうなんだ。もっと話して仲間に入れて色々聞いても良さそうだな。逆もありえるから注意しないとスパイだったら目も当てられないからなぁ〜。まぁ様子見だ。
「ところでママは毎日着物で来てるの?良く似合ってる。」
ママは満更でもなさそうに、
「ありがとうございます。実は月に1〜2回しか着物は着ないんですよ。元銀座でママをやっていたときは毎日着ていました。」
と言うので、ドレス姿を見てみたいと思いながら、それは次回の楽しみに取っといて、
「あっ、すみませんママ。お飲み物何かどうぞ。」
名刺をもらったっきり、飲み物も進めてなかった。紳士でいろとアルが言ったのを思い出した。
「ありがとうございます。では私もこの赤ワインをいだきますわ。」
たいがいこのクラスはお客様のボトルとかワインを飲むのがルールだ。ここでウーロンハイとかカシスオレンジとかカッコ悪い・・・。ビールを頂きますわと言うママクラスも多い。
赤ワイン用のワイングラスが運ばれてくる。赤ワインなので、冷やさないでその辺に置いてある。それを俺が取ってグラスに注ぐ。ワインの場合は手に持たないで置いたまま。手を添えるのがルール。2cmぐらい注いでボトルを置いた。ワイングラスを持ち上げ
「いらっしゃいませ。」
と着物の袖を手で抑えてグラスをこちらへ向ける。俺のグラスよりやや下へカチンと乾杯する。俺も
「よろしくお願いします。」
と答える。周りの4〜5人の女の子は二人の話を聞いて、頷いたり笑顔を見せたりしていた。決して、他の席を見たり女の子同士話をしない。いくら客が話してくれなくても。係が用事で立ったりトイレに行ったときぐらいしか話しかけるチャンスが無い。客がその中に気に入った子がいれば当然話したがるので、係のお姉さんやママに隣に座りなさいと言われる。なので、アピールが必要だ。VIP席みたいに一人の客に5〜6人のキャストだと全く話をしなかった子も少なく無い。ヘルプはそれでも時給でお金もらえるから良い。ママはさっきの話が気になったらしく
「着物好きなんですか?」
と聞いてきた。俺も昔にと言ってもヤクザの時に銀座のママと付き合っていたから着物好きだし、なんだったら着付けまで出来る。着付けは毎日自分で着て行ってたので手伝ううちに覚えたと言っても良い。
「どっちかと言えば好きですが、ドレスの方が素敵な人もいますし、こればかりは分かりません。その人が似合うか似合わないかによりますよ。」
とヤス。
その通りだと思う。いくら美人のセクシーな人でも着物が全く似合わない人もいる。
「まぁ、私はどちらなんですかぁ〜?着物似合います?」
と参考書通りの質問が来た。だから俺も
「もちろん、似合いますよ。」
と参考書通りの回答をした。ママが
「ありがとうございます。でも、絶対嘘。」
なんか変な空気になった。取り繕うと余計変になるので他の話をしようと考えた。するとママが座り直してヤスの太ももとくっつくぐらい寄って来て
「こう見えてもネネちゃんと同じ年。内藤さんと同級生よ。ふんっ、私もヤスって呼ぼうかしら・・・。」
おっ、どうしたんだ。さっきの雰囲気が少しネネに嫉妬したのか?ネネとママの対応が違うから女心は良く分からん。
(つづく)