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【ゾーっとする話】愛犬レオの話
8年前に再婚した妻の間に子宝を授かる事ができなかった為、たまたま行ったホームセンターのペット売り場で衝動買いしたミニチュアダックスのクリーム色、オスの仔犬レオ。右眼がブルーで左眼が茶色で、異常に可愛く私に懐いてくれて、仕事から帰宅する度に玄関まで迎えに来てくれ、家に居る時は常に膝の上に乗ったり、私の後をついてきたりとベッタリで溺愛していた。その様子を見て妻もヤキモチを焼くほど。
友人達の間で、子宝に恵まれない時はペットを飼ったら恵まれたと言うジンクスがあると言うので、妻は諦め半分、わずかな期待もあってか買う事に。名前はクリーム色でライオンと似た色もあってかレオと付けた。レオが一才なる頃に幸いにもそのジンクスが当たって第一子が産まれてきた。
レオは産まれて来た長男をちゃんと人間の赤ちゃんである事を認識しており、長男がゼロ歳の時から兄弟の様に戯れ合っていた。
そんな時に妻が、私との子育ては大変で、レオに構ってあげられなくなったので、レオが可哀想と考え、ペットショップから同じ犬種のミニチュアダックスの同じ色の仔犬を買って来て、最初はレオとは仲悪かったのだが、そのうちに気を許したのか仲良く遊ぶ様になりホッとしたのを覚えている。
でも二匹目の仔犬は私には全く懐かず、相変わらずレオだけが私を独占していた。
二匹とも同じ大きさになった頃は、同じ犬種で同じ色の為、見分けるのはレオが右眼がブルーで私を見る目でわかるぐらい。
レオの可愛らしさと従順な点で仔犬が大好きになった私は、その後更にミニチュアダックスの違う色を衝動買いして、合計三匹と生活する様になった。
だが、三匹のうちレオだけが私に懐いて、後の二匹は妻に懐いていたので、引き続きレオを溺愛していた。
レオの顔の表情は喜怒哀楽が眼に出る事がわかるほどだった。嬉しい時、悲しい時、あの右眼だけがブルーの顔を見ていると愛おしくて仕方なかった。
私が仕事から帰って来て、冷蔵庫に直行してビールを用意して晩酌をしていると、レオが食事を済ませてソファーに座る私に一直線で尻尾を振りながら走って来て、手前で飛び上がり、身を預ける様にいつも飛んで来た時に膝の上に着地した。
そんなある日、いつもと同じ様に晩酌していると、レオがいつものように飛んできた。その日は前日に出張で家を空けていたので、いつもよりも勢いよく飛んで来た。だがその日は膝に着地後にいつもと違う音がした。それは私が良く指や足の関節を鳴らす音と似ていた。
「ポキッ」
と言う音だった。
あまり気にせずにいつもの様に尻尾を振るレオの首や顔を撫でて、レオも笑ってる顔が確認できた。その後も暫くは歩いてついてきていたので心配は払拭できた。
私はトイレに行きたくなってレオから離れ、トイレに向かうと後ろをついて来るレオが後ろ足を引きずりながら
「キャン!キャン!」
とそのまま伏せてしまった。
あれっ、おかしいな?
と思った私はレオに近づき、
どうした?
と言わんばかりに後ろ足を撫でてみると、また
「キャン!キャン!」
と痛がる仕草を見せた。
ん?なんかおかしいと思った私は、心配になり、掛かりつけの獣医に連絡し、直ぐに連れて行く事にした。
車の中でも助手席に座り込んで痛そうな寂しい眼をし
「クーン」
と泣いていたレオ。
今までに見たことない悲しそうで痛そうな眼で運転する私の顔をジーッと見ていた。
他の二匹は全然懐く事も無く、相変わらず私にソッポを向く。それもあってか異常なくらいレオだけが好きだったので物凄く心配になった。
車を飛ばし動物病院に着くや否やレオを抱っこして駆け込んだ。
しかし、そこの動物病院では原因がわからず、小一時間車で移動が必要な提携の動物病院でMRIを撮って骨に異常が無いか検査する事になり、獣医は色んな可能性を模索してくれたが骨の状態など詳しく検査しないとなんとも言えないと言う回答だったので、とって返してMRIが置いてある動物病院に向かった。
その間もレオは痛そうで悲しげな顔でジーッと私の顔をブルーの右眼で見ていた。
二軒目の病院に着いて緊急にMRI撮影をした結果、私の膝に飛び込んだ時に背骨が折れていた事を知り、緊急手術をし、全力を尽くしたという獣医は、手術は何とか成功したが、体力と運に任せても今夜が山場で奇跡的に助かっても後ろ足だけは神経が行き届いてないので後ろ足に車輪を着けて飼うことになると言う。
これから先もまだ5才なんで犬人生長いと言われ、今夜が山場と知って、動物病院で様子を見る事となった。
後足に車輪を着けてもレオはレオなので一緒にいて欲しい思いから、レオは片時も離れなかったが、病室に横にして祈る様に頭を撫でてあげた。
あの時のレオの顔は脳裏に刻まれるほど眼に焼き付いている。ブルーの右眼が
「帰らないで一緒にいて」
と私に訴えるように刹那そうに見ていた。頭を再度撫でると、尻尾だけが動いた気がした。その眼に
「頑張れ!明日迎えに来るからな!」
と話しかけ動物病院を後にした。
翌朝、動物病院から電話があった。
恐る恐る電話に出てみると、いつも明るい獣医が暗い声で
「残念ながら今朝レオ君は息を引き取って旅立たれました」
と言われた途端に涙が止まらなくなり、
「色々ありがとうございました」
と獣医に返答し、迎えに行く旨を伝えた。電話をいつ切ったか、何を獣医と話してたか覚えて無いくらい頭の中が空っぽになり、溢れ出る涙が止まらなかった。
レオと離れる時のあのブルーの右眼が焼き付いていた。
動物病院に迎えに行くとレオが診察台に横たわっていて首まで白いシーツを掛けてあった。
眼は開いたままで、まだ身体が暖かかった。ブルーの右眼は私を見たままの姿で私を見ている様に見えた。
「レオ」
と堪えていたものが崩れて号泣した。
まだ暖かい身体を抱いて頭を撫でながら車で帰宅した。涙で道がボヤけていたがやっと帰宅出来た。
レオは死後硬直が始まって徐々に身体が硬くて冷たくなっていった。
帰宅後レオ専用であるキャリーベットに寝かせてシーツを首まで掛けて、花や好きだったオモチャなどを添えて一晩過ごす事にした。
相変わらずブルーの右眼は私の方を見ている様に見えて、帰宅してからは何故か笑っている様に見えた。
長男は死と言う事があまり理解出来て無いのか、レオが帰って来たと言いながらはしゃいでいたが、動かない事を不思議に思い、死について説明してあげると子供ながら理解していってシクシク泣き始めた。
つられて家族で号泣した。他の二匹もレオの死に気付き、顔をペロペロ舐めていた。
翌日、動物病院の紹介でペット専門の葬儀場で荼毘に伏せた。まだ5才のレオ。
忘れもしない桜舞い散る4月の上旬だった。
レオの死後一ヶ月近く会社を休み、心にポッカリと穴が開いた様になった。
妻とはレオが亡くなる前から喧嘩ばかりで、仲裁でレオが喧嘩してると吠える事が多々あり、私の味方をしてくれていた。
それも無くなった事もあり、次第と夫婦仲も悪くなる一方で、遂には辛抱しきれずに双方弁護士介入で泥沼の離婚調停まで発展した。
レオの死から一年、何とか弁護士同士の和解案で離婚となったのだが、レオの居ない広い部屋で思い出すのはレオの事ばかり。
新しい彼女が出来た事で少し心の穴が塞がった気がして、割と穏やかな日々を送る事ができていた。
ある日、彼女と子供欲しいと言う話になり、私の歳ではもう子宝は無理かも知れないが、昔のジンクスを思い出し、ペットを飼おうかと彼女に言われ何回か色んなペットショップを覗いたことがあった。
私はレオの事でもうペットであんな思いはしたく無いと考えていて、なるべく仔犬は見ないようにしていた。
そんなある日もうレオの事は忘れてしまおうと思った矢先、会社の従業員が詐欺事件で逮捕されてしまい、その従業員の虚偽の供述で私まで逮捕されてしまう。完全な冤罪である。
一年八カ月の間黙秘してようやく釈放されたのだが、勾留中にレオのブルーの右眼が何回か夢に出てきて、汗だくで涙まで流し起きた事があった。
釈放され一年八カ月振りに再会した彼女はガリガリに痩せて髪の毛は抜け、せっかく心の穴を埋めて貰ったのに不幸にして申し訳ないと言う気持ちと、再起を約束して再び2人で幸せな生活を約束する事を誓った。
釈放されて8ヶ月、やはり子供が欲しいと言う話になり、再びジンクスを思い出す。
何気に日用品を買いにホームセンターに行ったところ、ペット屋さんが拡大していて、昔レオを買ったところが広くなって仔犬の数も増えていた。
彼女が仔犬見ようと言うので一緒に回ったら何やらミニチュアダックスのクリーム色が三匹いた。
見て行くと一匹だけ私の姿を見つけるなり、さっきまで寝てたらしいが檻に齧りつきで私にワンワンと吠えていた。
その子に寄って行き、檻の隙間から指を入れたところペロペロ舐めて、首のところや頭のところを押し付けてくる。
可愛いなぁ、
と思った私は店員に言って抱っこさせて貰おうと檻から出してあげて抱っこした。尻尾をおもっいっきり振ったその子は私の首をペロペロ舐めながら、私が頭を撫でるとクーンクーンと言いながら私の眼を見て来た。
そこで私はその子の眼を見て驚愕した。なんと右眼だけがブルーだった。
レオ……。
その眼はあの動物病院でお別れしたレオの眼そのものだった。
彼女がこっちに来て、
「あらー、可愛いわねー!貴方の犬好きが分かってるのかしら?」
と言って、この子飼う?と言い出したので、
「少し考えよう」
とゲージに戻してその日は帰宅した。
釈放されて八カ月だが、身体の不調が続き、ほとんど一日おきに病院に通う日々が続く中、離婚した元嫁が近くに住んでいると言う噂を聞いた。
弁護士や士業など使い、居場所を特定しとかないと、バッタリ鉢合わせとなると一問題あると弁護士に言われていたが自治体や行政に秘密保持の訴えをしていて移転先ほか何を使っても居場所がわからないので、ビクビクして生活するのも憚れたので、知り合いに探偵を紹介してもらい住所特定他を調べて貰った。
約一ヶ月の調査での報告書が送られて来た。
中には25日間の尾行や散歩の写真、子供の写真とかあった。
離婚の条件で月一回子供と会えると言う条項があったはずなのに会わせて貰っていなかったので、子供の写真は嬉しかった。
何枚か写真を捲っていくと、仔犬と散歩している写真があった。
それを見た途端、私は崩れ落ちた。
元嫁が散歩に連れていた仔犬が、なんとホームセンターに居たミニチュアダックスのクリーム色で、ブルーの右眼でカメラを睨んでいた。
完
(色んな意味を想像して下さい)