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じっくり解説! 2016年度センター試験評論問3~大学受験生応援コラム1月

問5を解く…前に問3を解く。評論用語を侮るなかれ。


’** 0 はじめに ***

当ブログに目を留めていただき、ありがとうございます。大学受験国語の勉強に資する内容提供を目的として書いているブログです(不定期更新なのが玉にキズです)。

前回の解説編で「暫くの間、取り上げる」と書いた16年度のセンター評論ですが、多分今回と次回とで終了します(あくまで「多分」です)。この2回で最終問題・問5を解答します。前にも述べましたが、書き残す価値があるか否かで検討した結果、こうなりました(見通しなく書いているとこういうことが起こる)。

問5は、頭のお出来のよい複数の生徒たちが、本文をテーマに真面目に話し合っているという、そんな現場がどこにあるんだ系の設問です(いや、ホントにあったら申し訳ないんだけどね)。すぐ後で述べるように、本問はあくまで「傍線部とはどういうことか」と問うているにすぎないのですが、このディスカッション形式にされると何故か正答率が落ちるという現象が観測されています。

そこで今回と次回とで、この「正答率が落ちる謎」に自分なりの回答と処方箋を提示したいと考えました。

*今回のトップイラストは「アイデンティティ」で検索したら出てきたものを拝借しました。字が切れてしまっていますが、「格好だけじゃアイデンティティは確立されない」と掲げられています。今回の本文の内容にも合うなと思いました。

’** 1 問5の解答方針 ***

問5は、本文最終文にして傍線部Dでもある一文の趣旨を正しく説明できている選択肢を選ぶという問題です。設問がやや冗長ですし選択肢も口語体で書かれてはいますが、要は「傍線部Dはどういうことか」と問われているのと同じだと判断していいでしょう。

設問にはヒントとして「誠実さ」が話題であると示されています。となれば当然、誠実さについての論証を追えばいいことになります。

「誠実」という単語が本文で最初に登場するのは、第7段落冒頭です。「不誠実で」という形容動詞の形で出現します。この文は「では」という話題転換の接続詞から始まっていますので、基本的にはこれ以降の展開をつかまえれば問いは解けることになります。

ただ、いきなりこの文をひょいと見ると、「外キャラ」などという見慣れない単語が目につきます。

この語は実は、問3を解答する過程で浮上してくるものです。実際の問題解答の現場では、問5を解こうとする時点で既に把握できているはずの語ですから気にするものではありません。本ブログのように、いきなりひょいと見るからこういう目に遭うのですね。。。

そこで問5を解く前に、「外キャラ」の意味を把握するために、問3を解答したいと思います。問3は「大きな物語」(これについては後述)が近代人にどのような影響を与えたかを読み取って解答する問題です。第4~第6段落の情報を整理して解きます。整理の仕方は前回作成した、キャラクターからキャラへの「変化前→変化後」の図式がそのまま利用できます。

’** 2 評論用語を侮るなかれ ***

まずは第4段落から。

第4段落第3文:「…、キャラクターのキャラ化は、…「大きな物語」が失われ、価値観の多元化によって流動化した人間関係のなかで、それぞれの対人関係に適合した外キャラを…演じ、複雑になった関係を乗り切っていこうとする現代人の心性を暗示している…」

この一文は、本文の内容を語るうえで極めて重要なものだと考えます。リカちゃんの話から現代人の話へシフトしていることもそうですが、本文のテーマや結論をも暗示しているように思われるからです。

前回やったように、変化前と変化後で現時点での情報を整理してみます。なお、( )は本文にある語句の対比項ですが上に引用した文には含まれていないものです。


変化前:大きな物語、(一元的価値観)/(関係は固定的で単純)/(近代人)/(内キャラクター、演じるものではない本当の自分)

変化後:(小さな物語)、多元的価値観/流動化・複雑化した人間関係/現代人/外キャラを各場面に応じて演じ分ける

そして本文の結論は、おそらくこのような現代人の状況に対しての評価ではないか、という見通しが立ちます。もちろん、まだ第4段落ですから、この見通しは外れる可能性はあります。しかし少なくとも、このビフォーアフターを踏まえて話の展開がなされることは間違いないでしょう。

評価・結論としては、そんな現代人を「けしからん!」と喝を入れるか、社会が変わったのだから「しょうがないんじゃない?」と受け入れるか、とりあえずこの二択が考えられます。もちろん第三の結論もあるかもしれません。

このように見通しが立ったので、私たちはこれ以降、現代人の状況に対する筆者の評価がどうなのか、それはどのように論証されるのか、これを確認しながら読み進めることになります(問5を解くために、ということですが)。

なお、「大きな物語」という語句は、例えば共産主義のようなイデオロギーなどを指します。「世界を総合的に把握し再構成しようとする思想や歴史的叙述や文学」(『ちくま評論選』改訂版、59〜60頁の脚注より)。一方、「小さな物語」は「個別の事柄に対する個別の意見や主張」(同書61頁脚注)。今はたまたま手元にあった本から引用しましたが、「大きな〜」の方は百科事典にはちゃんと載っている、れっきとした評論用語の一つです。お手元に電子辞書のある方は試しに百科事典を呼び出して引いてみてください。今回は文章を読めば「大きな物語」の意味は分かるようになっています。ただ、普段の学習の中で接する様々な評論用語(用語集にあるものから掲載のないものまで)については、きちんと消化・理解しておくことをお勧めします。知っている方が、文章理解は早いに決まっています

私は、特に初対面の高校生を相手に授業をするときに、よくこんな質問をします。

「今まで授業で習った評論の中で、内容を覚えているものはいくつありますか?」

すると、大半が「ゼロ」と答えます。もったいないですよ。教科書や授業で使う問題集は、今が旬の評論、あるいは高校生として理解しておくべきものが厳選されているはずです。それらの文章で何がテーマとなり、どんな結論が出されていたかを知ることは、あなたの評論読解に必ずプラスになります。知識のストックはあればあるほどあなたの読解を助けます。

話が長くなりました。問3を解くために、情報のピックアップを続けます。

第5段落~第6段落

第一文:「『大きな物語』…のなかでアイデンティティの確立が目指されていた時代…」

アイデンティティは、先の★の中で「(内キャラクター、演じるものではない本当の自分)」と記したものに該当します。また、この文で述べられている「時代」とは、同じく★の中の「近代」のことです。

以下第6段落末尾まで、近代的なアイデンティティ(自分自身がそうありたいと願う「本当の自分」「あるべき自分の姿」の意。これ以上深入りしませんが、これも立派な評論用語です)と現代的なキャラの比較が続いていきます。第5、第6段落から説明を順にピックアップしますと…

➡近代的なアイデンティティについて

「外面的な要素も内面的な要素もそのまま併存させておくのではなく、揺らぎをはらみながらも一貫した文脈へとそれらを収束させていこうとするもの」「一貫したもの」
「いくども揺らぎを繰り返しながら、社会生活の中で徐々に構築されていくもの」

➡現代的なキャラについて

「付き合う相手や場の空気に応じて表面的な態度を取り繕うこと」
「外面的な要素も内面的な要素もそのまま併存」
「断片的な要素を寄せ集めたもの」
「対人関係に応じて意図的に演じられる外キャラ」と「生まれ持った人格特性を示す内キャラ」がある
外キャラも内キャラも「あらかじめ出来上がっている固定的なもの」「変化しないソリッドなもの」

以上を踏まえて、先ほどの★を少し書き直してみましょう。本文の記述と少し食い違う部分も出てきたのでそれも修正して…

★★
変化前:大きな物語、(一元的価値観)/(関係は固定的で単純)/(近代人)/アイデンティティ=内面外面を時間をかけて統一させたもの、一貫性

変化後:(小さな物語)、多元的価値観/流動化・複雑化した人間関係/現代人/キャラ=内キャラと外キャラは別、初めから出来上がっている、外キャラは複数存在し、各場面に応じて演じ分ける

このように整理できるかと思います。そしてこの二項整理を前提として、いよいよ第7段落に入ります。

第7段落冒頭で、いよいよ「誠実」が登場します。

「自分の本心を隠したまま、…外キャラを演じ続けることは、…不誠実…なのでしょうか」

変化後の現代人の在り方が、不誠実なのか否かという問題提起をしているわけですね。
問5を解くためには、先にも述べたように、この問題提起についてどのように論証しどんな結論を出したのかを読解していけばいいことになります。ただそれは次回のブログに回すことにして、今回は問3を解答して結びとしたいと思います。

’** 3 問3を解く ***

問3は先にも書いた通り、「大きな物語」と「人びと」との関係を問うています。「大きな物語」は変化前の情報ですし、選択肢を見る限りアイデンティティの形成を説明しているようですので、やはり変化前の情報だけを基に解答すればいいことになります。

アイデンティティの情報を再掲します。

➡自分自身がそうありたいと願う「本当の自分」「あるべき自分の姿」(語句知識)
➡内面外面を時間をかけて統一させたもの、一貫性(本文情報の要約)

この内容に合いそうなのは②と⑤でしょうか。

②は「内面…と外面…との隔たりに悩みながらも、矛盾のない…イメージを追求」。時間をかけて徐々に構成されていくニュアンスはこちらの方が表現できています。

⑤はそのニュアンスが読み取りづらいのと、「個別的」という語が引っかかります。

本文情報には「個別的」及びそれを連想させる語句はありません。

また知識としても、アイデンティティと言えば個別的っぽいですが、例えば「○○人としてのアイデンティティ」などと表現する場合は、必ずしも個別的=各人で異なるものではありません。これで⑤を消去、でしょうか。しかし、よくできたダミー選択肢だと感心します。

’** 4 引き続き、知識について ***

知識は読解を助けてくれますが、時に私たちを迷わせもします。

以前、『徒然草』の基礎的知識なしに、本文から仏教的無常観を読み取る方法を教えろと尋ねられたことがあります(こういう言い方ではなかったですが、乱暴に要約するとこういう質問でした)。作者が兼好法師であること、彼が出家していたことは文系理系問わず学習しますし、何なら『徒然草』は中学校で習うので義務教育レベルの知識です。

言い方は悪いですが、頭を空っぽにして文章から全てを理解できると、この人は考えたのでしょう。そんなのは無理に決まっています。だからこそ学校の勉強は大切ですし、語句知識も当然必要です。

ただそれが故に、今回のように迷う場面も出現します。今回であれば、出題者は「アイデンティティ」の知識だけで解こうとする受験生を迷わせるために⑤を作ったのだと想像します。

そういうときは本文に戻ってどちらかを選ぶしかありません。今回であれば、②と⑤に絞った上で、「どちらが本文の記述に近いのか」「どちらかに本文にない要素はないか」と比較検討をしっかりしましょう。本問は焦って解くと間違えるタイプの問題です。前回取り上げた問2のようにさくっと解けるものは手早く終えていいですが、これは少し時間を掛けて正解を選ぶ(または誤りを切る)手間をかけてください。

なお、前回の記事はこちら。

ちなみに残りの選択肢も見ておきます。

①「臨機応変に複数の人格のイメージを使い分ける」のは、変化後の情報です。
③「社会的に自立した人格」という情報は本文にありません。
④「生まれもった人格のイメージを守る」という情報は本文にありません。

’** 5 今回のまとめ ***

今回のポイントは、以下の3つです。

(1)普段の学習の中で接する様々な評論用語については、きちんと消化・理解しておくこと。知っている方が、文章理解は早いに決まっています。

(2)教科書や授業で使う問題集は、今が旬の評論、あるいは高校生として理解しておくべきものが厳選されているはずです。それらの文章で何がテーマとなり、どんな結論が出されていたかを知ることは、あなたの評論読解に必ずプラスになります。

(3)選択肢選びに迷ったときは本文に戻ってどちらかを選ぶしかありません。時間を使って「どちらが本文の記述に近いのか」「どちらかに本文にない要素はないか」と比較検討をしっかりしましょう。

今回はこれで以上となります。次回で問5を解答します。


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