和歌が「わか」るための百人一首攻略5(大学受験生応援コラム7月)
同音反復をいかに処理するか
’** 0 はじめに ***
当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。
本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。
先月から、「古文」の「和歌」を取り上げています。百人一首を題材に、和歌を口語訳する練習をしてみよう、という主旨です。
’** 1 百人一首No.51 再び ***
今回取り上げる和歌は、前回に引き続き、この歌です。
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
藤原実方朝臣
’** 2 「えやはいぶ…」の攻略1:掛詞 ***
和歌の第二句及び第三句、「えやはいぶきの さしも草」この部分に残された問題を今回は扱います。
今回のテーマは、まず「掛詞」です。今風に言えば、ダジャレです。辞書の説明を見ましょう。
「同じ音で、意味の異なる語の全部または一部を用いて、表現に二様の意味を持たせる方法」(小学館『全文全訳古語辞典』)
一つの語に二つの意味を持たせるという技法です。和歌中のほかのどの語句と結びつくかによってその二つの意味が決まります。
今回の和歌では、「いぶ」が掛詞になっています。一つは前回指摘しました。
第三句の「さしも草」とつなげて考えると、「いぶ」き山=伊吹山のさしも草、となります。
もう一つは、第二句の「えやは」とつなげて考えます。
えやは「いぶ」=言ふ、となります。なお、掛詞では濁点(゛)は無視することが許されています。
今回の和歌は、先の辞書中の説明の「語の一部」を用いるパターンです。このパターンには他に、「おもひ」=「思ひ」と「ひ=火」の掛詞、というのがあります。
一方、語の全部を用いる掛詞としては、例えば「まつ」=「待つ」と「松」の掛詞、というのがあります。今、例だけをさらっと挙げていますが、掛詞は作者が独自に作るものではなく、長い歴史の中で受け継がれてきたもので、パターン化されています。したがって、どちらかといえば暗記事情に属するものです。
まずは、問題で出会った掛詞について、しっかり覚えていくことから始めるのがいいでしょう。
’** 3 「えやはいぶ…」の攻略2:反語表現 ***
ここで、前回の内容を思い出していただきたい。あと一つ残った問題があります。
前回のコラムはこちら。
https://note.com/nice_lilac907/n/n5b3f1d5b5668
「え」は、後ろに打消表現を伴って、「~できない」と訳させる副詞です。しかるに、今取り上げているかたまり、
「えやはいぶ(言ふ)」
には、打消表現が見当たりません。これをクリアしておきましょう。
ポイントは、「やは」という反語を作る表現(「や」も「は」も係助詞)です。反語というのは、表面上は疑問形なのだが、実は答えは「ノー」である、というものです。例えば、「この酷暑の日に、どうして出かけようか」といえば、言いたいことは「出かけたくない(ノー)」である。このような表現法を反語といいます。
これを踏まえて、先の表現に「ノー」の答えを追加してみますと、こうなります。
えやは言ふ、いや、え言はず(言うことができるか、いや、言うことはできない)
本当に言いたいことは、上の太字部分です。これで残された問題はクリアされました。
’** 4 口語訳を完成させる~同音反復をどう処理するか ***
では、以上を組み合わせて和歌の口語訳を完成させていきます。3つの部分に分けて考えていきます。
① かくとだに えやはいぶ…
「かく」は副詞で「このように」、「だに」は副助詞「~さえ」が定訳。残りは前項で説明済み。「このようにさえ言うことができるか、いや、できはしない」。指示語が何を指すかが問題ですが、前回も述べましたようにこの歌は激しい求愛の歌ですので、そこからわかる範囲で「このように私はあなたを愛しているとさえ…」と、言葉を補っておくことにしましょう。
② …いぶきの さしも草
前回説明済み。「伊吹山のモグサ」
③ さしも知らじな 燃ゆる思ひを
これも前回説明済み。「そのようであるとあなたは知らないでしょうねえ、この私の燃えるような恋心を」。
…どうでしょうか。なんか、②に違和感がありますよね。②は前回も述べましたが、自然・景色描写として挿入された序詞です。その挿入のために、「さしも」という同音反復を利用していたのでした。ここで問題になるのは、その同音反復語の処理です。
一般的に、同音反復を訳す場合は、仮に反復語を〇〇と表記すると、
「…〇〇…、その〇〇ではないが、」
くらいで処理します。取り敢えず、試してみます。第二句途中から第四句のはじめまでです。
「伊吹山のモグサ、そのモグサではないが、そのようである…」
なんのこっちゃ? ですね。こうなる原因は、「さしも」という語が現代語にないからです。「さしも草」も「さしも知らじな」も現代語にしてしまうと、どうしてもこうなります。
そこで苦肉の策、「さしも」をそのまま使ってみます。
伊吹山の(モグサ、すなわち)「さしも草」、その「さしも」ではないが、「さしも」つまりそのようである…
*( )は、あれば丁寧ですが、なくても大丈夫だと思います。
このくらいしか処理の仕様がありません。ホンマに苦肉の策です。実際、同音反復を用いた序詞は無理に訳出しなくてもよいとする説明をされる方もいます。その場合、先に「違和感がある」と述べた②「いぶきのさしも草」の訳を丸々カットすることになります。どちらを採るかは試験場での判断です。
最後は少し難しかったかもしれませんね。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。また次回です。
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