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じっくり解説! 令和4年度共通テスト小説第3回~大学受験生応援コラム9月
小説のテーマに触れる
’** 0 はじめに ***
当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。
本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。9月は小説を取り上げています。
’** 1 9月のテーマ ***
今月は過去2年分の共通テスト大問2・小説を取り上げています。古い方から扱っていますので、令和4年度分が終わり次第5年度(前回の試験)を扱う予定でいます。そのため、どうしても長期連載になるかと思われます。よろしければ少し気長にお付き合いください。
そして以下のテーマに沿って考察を試みています。
1 各設問を具体的にどのように解くのかを説明し、そこから実践に役立つ技術を学ぶ
2 各設問が外部識者によってどのように評価されているのかを紹介し、次回共通テスト受験の参考にする
3 小説のテーマのつかみ方を説明し、それが共通テストにどう役立つかを検証する
今回はすべてのテーマを扱います。かなり欲張り=長文必至です。
問題は以下からダウンロードできます。赤本などがあればそれをご覧ください。
’** 2 小説のテーマ ***
いきなりですが、次の図をご覧ください。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/115454716/picture_pc_ae695b3faca863f3b5dd4595c5e2ca7c.gif?width=1200)
作中の人物は、物語中に何かしらの変化を経験するのが一般的です。その変化を促すものが小説のテーマを現している、と考えます。
「変化後」には一般的に人物の最終的な変化が、「変化前」には「変化後」と対照的な情報が入ります。
この作品の場合、「変化後」情報は今回取り上げる傍線部Cです。そこから「変化前」は前回問2で取り上げた、少年に対して不快感を抱いている「私」。「テーマ」=変化を促したものは、看板設置の様子です。以上を基に本文を整理しますと、
変化前=少年に無視と罵言という仕打ちを受けた「私」は、存在を否定されたような不快感を覚えている(前回解答した、問2を利用して作成)
テーマ=設置された看板の様子
・板の表面は硬質のプラスチックに似た物体
・断面は分厚い白色
・裏側には縦横に渡された金属の補強材
・紙を貼りつけただけのものではなく、土に埋められても腐らない
・針金で厳重に固定され、根が生えたかのごとく動かない
→これらの様子から、少年には「未成熟ながらも内に秘めた強い決意や覚悟のようなもの」があるのだろうと推理推測できればいいでしょう
変化後=傍線部C「認めてやりたいような気分」
なお、人物の変化は一度とは限らず、複数回起こるのが普通です。本作でも、
前半部分:
説得できる自信はないが少年に誠意を尽くして頼んでみよう→【 少年の無視と罵言 】→少年への不快感、餓鬼扱い
隣家に侵入した場面:
「案山子」のように看板の男に気味悪さを感じる「私」→【 間近に見た看板の絵 】→気味悪がっていた自分に苦笑する「私」
そして先に書いた変化、と大きく3つの変化が描かれています。今挙げた二つの変化については、次回以降用いることになると思います。
’** 3 2022(令和4)年度、大問2問3を解く ***
傍線部Cのときの「私」の心情を答えなさいという問題です。先に確認した通り、本文後半は、少年の強い覚悟や決意のようなものを感じ取った「私」は、それについては「認めてやりたい気分」になった、という話です。
「テーマ」と「変化後」の記述に沿うものを選ぶならば、答えは③でしょう。選択肢③を見ます。
◆「劣化しにくい素材で作られ、しっかり固定された看板を目の当たりにしたことで」・・・「テーマ」で確認した看板の様子に合致しますし、最後の「~ことで」という表現から「私」に変化が訪れることも分かります。
◆「少年が何らかの決意をもってそれを設置したことを認め」・・・「テーマ」をまとめた部分に合致します。
◆「その心構えについては受け止めたいという思いが心をかすめた」・・・「変化後」決意を認めてやりたいの言い換えです。選択肢末尾の「心をかすめた」は本文末尾「気分がよぎった」の言い換え。
’** 4 問3を、前回の方法で解く ***
第二回コラムにおいて、小説の典型問題(心情そのもの、あるいは心情や行動の理由を問う問題)を解く際の情報整理の仕方を説明しました。
第二回コラムはこちら。
人物が置かれた状況を踏まえて、「出来事→思考→心情→言動」の順に本文情報を整理するというものでした。問3はこれで解答することも、当然可能です。今回は「心情」そのものを問うていますから、解答上の心構えとしては、状況+「出来事・思考・心情」まで視野に入れます。特に「心情」を飛ばさないように。心情の理由を尋ねる問題とは違います。
状況設定=看板撤去を依頼したものの、相手にその気がないと分かった私は、少年の「無視と罵言」による不快感も手伝って実力行使に出る(自分で看板をどうにかしようとする)
出来事=看板設置の様子(’*3と同じなので割愛)
思考=看板を動かすことは不可能、少年には「かなりの覚悟」がある
心情=「認めてやりたいような気分がよぎった」
これでやはり、解答は③と決まるでしょう。ここまで読んでいただいてお分かりでしょうが、’*3とほぼ同じことをしています。
’** 5 外部評価は? ***
今月のコラムでは、問題が外部識者にどう評価されているのかもご紹介しています。例によってリンクを貼っておきますので、興味のある方は是非。
ページを下にスクロールしていくと、教科ごとの問題評価一覧があります。
さて、今回取り上げた問3は、各方面からどのように評価されているのでしょうか。
◆学校関係者
「少年」が時間をかけて看板を用意したであろうということに気付いてから、「少年」に 対する「私」の感情が変化する様子を、文脈から的確に読み取る力を問うている
→その通りでしょう。特にコメントすることはありません。
◆国語の専門家
全体を読まなければ解けない問題。問うべき箇所であるし、選択肢の内容も良い。「私」の 心情を問う問題が連続するため、「少年」の心情などは問えなかったのか疑問。もう少しリード文で方向付けをしたり、言葉の定義付けなどを加えたりするなど、工夫できないか
→「全体を読まなければ解けない」というのは、前半部分で私が少年に不快感を抱いている状況を踏まえて本問を解くということ。「問うべき箇所」であるのは、本文全体のテーマに触れる設問だからでしょう。
「少年の心情」を問うべきだったのではというご指摘は「ごもっとも」だと思います。少年の心情や考えを問う=本文のテーマに直に触れることにもなります。その場合、少年の態度や看板の様子から推測できる程度の解答を選ぶことになりますが、その補助として「リード文での方向付け」などをすればよいとご意見されているのでしょう。テーマこそ設問で問うてほしいものです。
◆問題作成者
「私」の少年に対する心情の変化について、その状況を読み取る力を問う問題であった。正答率は高かった
→心情変化をもたらした状況を読み取らせることで、テーマについて考えさせる問題だったのでしょうか。でもそれなら、上で識者の方が書かれているように少年の心情の方を問うた方が良かったのではないかとも思います。
’** 6 今回のまとめ ***
① 登場人物の最終的な状態や心情(変化後)と、それと対照的な状態や心情(変化前)を押さえ、変化をもたらしたきっかけをつかむ。その「きっかけ」がテーマを含んでいる。
② 上記①のような情報整理は設問解答にも役に立つ。テーマを押さえようとしている以上、設問で「問うべき箇所」となるから。
③ 最後に少年の心情を問わなかったのには、何か理由があるのか(今後の検討課題です)。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。こんな感じで一問ずつじっくり取り上げていく予定です。解ける方には「うざい」くらいくどい解説ですが、どこかに引っ掛かりを感じている方に何かしら得るものがあれば幸いです。また次回です。