じっくり解説! 令和6年度共通テスト国語漢文(第2回)~大学受験生応援コラム2月
漢詩に添えられた資料を読解する回
’** 0 はじめに ***
当コラムに目を留めていただき、ありがとうございます。大学受験国語の勉強に資する内容提供を目的に書いています。
前回から、先月行われた共通テストの漢文解説をしたためています。前回は漢詩の解説を行いました。
前回記事はこちら。
今回は、漢詩に添えられている資料文を読解していきます。
’** 1 資料文Ⅰ、Ⅱの読解 ***
資料Ⅰ:
語句・・・
「嗜」ふりがながありますから勿論「たしなむ」と読むことは分かります。そしておそらく、聞いたことがある言葉でしょう。ただ、意味を説明しろと言われると案外できないものです。古典の復習では、こういう語句をこそ意味を調べたり読み方を確認したりしてほしいものです。「好む。芸事などについて、その技芸を身につけている」の意。熟語では「嗜好品」(珈琲やお酒、葉巻など)などがあります。
「致」かつてセンター試験で問題になったことがある語です。「送致」のように「おくる」がそもそもの意味。今回もこの意味です。また「極致」のように「きわめる」の意味にも転じます。
「百姓」漢文では「ひゃくせい」と読みます。「百」はたくさんであることを示します。「万」なども同様の使い方をしますよね(「万緑」とか)。「姓」は「かばね」、歴史用語ですが、とりあえず名字のようなものだと言っておきましょう。「いろいろなかばねを持つ公民=一般庶民」の意です。私たちは「ひゃくしょう」という読み方に慣れているため、つい農民と思い込みがちですが、幸い今回の設問ではそのような紛らわしい選択肢はありません。
資料の内容・・・楊貴妃はライチが好きで、ある地方から早馬で貢物として送られてきた。ところが七日七晩駆け続けて運んだものだから、人も馬も多く途上で倒れて死んでしまった。庶民はこのような状況に苦しんだ。
庶民の苦しみを鑑みない、なんと横暴な妃だ・・・こんな解釈になるでしょうかね。
なお、これで問2の(ア)が解けます。「百姓」の意味でした。答えは①です。
資料Ⅱ:
語句・・・
傍線部:毎度おなじみ、返り点をつける問題です。とっつきやすいポイントは「有」でしょうか。この語は下に主語を伴います。従って読む際には、まず「有」の下の語句を読み終えてから、返読して「あり」と読みます。
今回は「有所不顧」の語順。「所不顧」のうち、所も不も返読文字です。「顧(かえり)みざる所(ところ)」。その後で、「有り」と続けます。「過ぎたことや他人のことを、振り返って考えないところがあった」くらいの意味。過ぎたことや他人のこととは、傍線部前半にあるような、ライチを運ぶのにマンパワーをしこたま使い、その結果死人が出ていることを指します。
なお、返り点を付ける問題は、「選択肢に頼らず自分でつける練習をする」という対策が最も有効です。詳しくは以前書いたこちらを参照してください。
資料の内容・・・玄宗皇帝は、都から離れた地にある特産物などを楊貴妃に贈り、喜ばせていた。その結果多くの人力を用いようが、死人が出ようが、一切構わなかった。
Ⅰにあった楊貴妃の横暴さの原因は、元を正せば玄宗皇帝のご機嫌取りだったということでしょうかね。
なお、これで問3(返り点を付ける問題)は答えが④、問4(漢詩の3行目の解釈)も答えが④と決まります。着々と解けていきますね。
’** 2 問6を少々検討する ***
以上で【資料】Ⅰ、Ⅱの読解を追えました。そして前回、漢詩の口語訳を行いました。これを踏まえて問6の選択肢前半の検討を行います。
問6の選択肢は二文または三文で構成されており、どちらにせよ最後の一文が、詩と資料とを踏まえた玄宗皇帝と楊貴妃への評価になっています。それ以外の文には詩の内容と資料の内容とが混在しています。そこで、この段階で各選択肢を一度検討し、間違いだと判別できるもの(2つあります)を明らかにしておこうと思います。
① 漢詩と資料Ⅰの内容、そして注9から考えれば、第一文の記述は、ある一点を除けば妥当だと考えられます。公文書を運ぶべき早馬がライチを運ぶというのはおかしいですから、「常軌を逸した」という指摘は必ずしも誤りとは思いません。
問題になる「その一点」とは、詩の書かれ方が「謎めいた描写が重ねられた」と言えるかどうかです。私は別にそうは思いません。
1行目、山が美しく見える以上は太陽が出ているのでしょうし、2行目、朝になれば開門するでしょう。3行目、早馬が来ることが分かっていればなおさらです。3〜4行目、楊貴妃が笑ったのはライチが届いたからです。全て詩の内容から解釈可能です。この点で①を切っておいても別に支障はないとは思います。
一方で、ライチが届くというのは漢詩の最終行を読んで初めて分かることであり、3行目まででは分からないようになっています。だから、楊貴妃が何故笑っているのかは3行目の時点では分かりません。ただ、それを「謎めいている」というとしても、それ以外には別に謎はありません(先に書いた通り)。だから、描写が「重ねられている」と指摘するのは誤りだと私は判断します。よって、この選択肢は誤りとして切っておきます。
② これも、第一文が漢詩及び資料Ⅰと注9を踏まえた記述です。漢詩の内容説明について別に誤りはありません。ライチについて「不適切な手段で運ばれる」とあるのは、早馬が公文書を運ぶという目的外のことで、いわば私的に使われているからでしょう。この選択肢は残ります。
③ 門などの配置を詳しく描く、ライチを写実的に記述する、などの指摘は当たりません。✖です。
④ 第一文の検討のみですが、特にツッコミどころはないように思えます。この選択肢は残します。
⑤ 第一文、「玄宗が楊貴妃とともに賞味する」が妥当かどうかは何とも言えません。資料Ⅱによれば、玄宗は楊貴妃のためにライチを取り寄せているようです。まあ、多分一緒に食べるんじゃないの? とは思いますが、推測の域を出ません。正しいとも何とも判別不能なので、この選択肢も残します。
これで、問6は②④⑤の3択になります。
次回で残りの資料の検討を終え、問6も終わらせます。
’** 3 今回のポイント ***
1 自分で意味を説明できない語句は。例えば復習の段階で調べたり読み方を確認したりする。この手間を惜しまないでください。
2 返り点を付ける問題は、「選択肢に頼らず自分でつける練習をする」という対策が最も有効です。
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