「死んだふり」は地域によって時間と頻度が変わる!
「死んだふり」は地域によって時間と頻度が変わる!
◆ 熊に遭遇したときの「死んだふり」は効果なし?
「熊に出会ったら死んだふりをするといい」という話を耳にしたことがあるかもしれませんが、実はこれは誤りです。
熊に遭遇した際には、死んだふりは全く効果がなく、むしろ危険を招くことがあります。
熊との対峙では、目を合わせて少しずつ後退するのが正しい行動です。背を向けて逃げるのも避けるべき行為です。
しかし、この「死んだふり」という行動は、実は多くの動物が捕食者から逃れるために使う戦略であり、専門的には「擬死(タナトーシス)」と呼ばれています。
オポッサムやヘビ、クモ、カエル、さらには昆虫までがこの戦術を駆使して命をつなぐことが知られています。
今回は特に、虫の「死んだふり」に焦点を当てて、その地域ごとの特徴を掘り下げてみましょう。
◆ 死んだふりの進化―岡山大学の研究より
岡山大学の研究チームは、2016年から2021年にかけて日本全国38ヶ所で「コクヌストモドキ」という虫の死んだふりを観察しました。
この虫は、コイン精米機の近くに生息しており、捕食者に対する防御策として死んだふりを行うことで知られています。
研究者たちは、この死んだふりの行動が地域によってどのように異なるのかを調べました。
◆ 地域で異なる「死んだふり」の時間
研究の結果、緯度が高い地域に住むコクヌストモドキほど、死んだふりの時間が長いことが判明しました。
平均すると死んだふりの時間は約115秒ですが、長い個体では1時間以上も死んだふりを続けることが確認されました。
また、緯度が高くなると死んだふりの頻度も増加していることが分かりました。
◆ なぜ高緯度地域で死んだふりが増えるのか?
高緯度地域で死んだふりが長く、頻繁に行われる理由は、捕食者の密度とその行動に関係しています。
緯度が高いほど、捕食者の数は減少しますが、個体のサイズが大きくなり、捕食者によるリスクが高まります。
このため、被捕食者であるコクヌストモドキは、より慎重に、そして長時間死んだふりをすることで、捕食者の目を逃れようとするのです。
◆ さいごに
このように、死んだふりという行動は、単なる偶然ではなく、地域ごとの環境に応じた戦略であることが分かりました。
虫以外の動物や他の地域でも、死んだふりの違いがあるかもしれません。
観察の目を向ければ、自然界の多様性がさらに楽しく感じられることでしょう。
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参考文献
Latitudinal cline of death-feigning behaviour in a beetle (Tribolium castaneum)
https://royalsocietypublishing.org/doi/abs/10.1098/rsbl.2023.0028