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銘柄分析_日本電解
安全性を確保する
日本電解が倒産とのこと、上場企業の倒産はあまりあることでもないので、倒産企業を避けられるかを考えてみる。
財務
まず、最初に考えるのは継続前提の疑義・注記だ。
そもそも上場企業は4,000社近くある。何もわざわざ難しい状況にある会社を投資対象にする必要はない。よほど特別な狙いがある場合を除き、継続前提の疑義・注記がある会社はスルーで良いと思う。
日本電解の場合この段階で振るい落とすことができた。
次に、投資キャッシュフローが手持ちの現金・営業キャッシュフローに対して大きすぎる。理想を言えば必要な投資を事業から得られるキャッシュで賄えれば資金調達の心配をしなくて良い。
投資が先行する場合など営業キャッシュフローで投資が賄えないなら手持ちの現金から投資に回したり資金調達を行う必要がある。
こちらについても日本電解は明らかに投資キャッシュフローが大きく、外部からの資金調達が避けられない状況。
さらに、有利子負債の額、日本電解の有利子負債は145億円、何と比べてみても良いと思うが、手持ちの現金をすべて返済に充てても110億円の有利子負債が残る。四季報に掲載されている中で最も大きな利益が出た22年3月期の純利益8.5億円を基準にしても有利子負債をすべて返済するには15年以上かかる。どちらもあり得ない想定だが、こうやってみればどれだけ有利子負債が大きいかわかると思う。
存続するためだけでもどこかから資金調達が必要だがさすがにこれ以上は難しいだろう。
後知恵なので何とでも言えると言えばそれまでだが、昨日今日状況が悪くなったわけではないので、少なくともこの2年は買うか迷うことはなかったろうと思う。
また、それ以前に取得していたとしても、損切のタイミングは何度もあった。22年の良い所から見ると今現在の株価は1/8程度まで下がっている。ファンダメンタルズに照らして高い低いと言いたいところだが、さすがにこれだけ下がったとあっては株価だけを見て判断してもミスとはならなかったろう。
途中で買い増しをすべき理由はなさそうなので、50%も下がったらいくらなんでも損切して良かったのではないだろうか?
業績の回復
業績の回復を期待するとして、長期の視点を考えられる状況にはないから、短期で何とかせざるをえない。となると最初に考えるべきは赤字事業の切り離しだ。
赤字やフリーキャッシュフローのマイナスの原因が特定の事業にあり、事象の縮小や売却によって出血を止められるか?を最初に考える。
*赤字やフリーキャッシュフローのマイナスと書くと長いので以下では単に赤字と書く。
もし、事業の縮小や売却により当面事業を継続できるだけの現金が確保できればゾンビ企業にはなることができる。そもそも生存できなければ次を考えることはできない。
この際、重要な点は赤字事業とその他の事業で工場などを共有していて、赤字事業の縮小によりその他の事業で固定費を負担することになり、今まで黒字に見えていた事業が赤字に転換してしまうこと。
例えば、昼夜営業している飲食店で昼営業が不振だからやめることにしても家賃はこれまでと同じ額掛かるので夜営業で昼営業のコストとしていた家賃も負担しなければならなくなった。というケースを考えると分かりやすいだろうか?
幸運にも赤字事業を切り離すことができるのであれば次の手を考えることができる。うまく行けば、赤字事業の切り離しによって次の打ち手のための現金を得ることもできる。具体的な業績改善策がなかったとしても、生存のためにどう対処するかにリソースを割かなくてよくなるので相当大きなプラスだと思う。
これができないのであればかなり厳しい。
日本電解の場合は、これは難しそうだ。となると赤字事業を再生させなければならない。
25年3月期の予想を見ると売上213億円、営業損失3億円、純損失は12億円。
売上は前期比で30%程度上昇する見立てで、まだ営業赤字。
売上がそれほど増えるというのは楽観的では?直近数年の売上減少からいきなりの上昇というのはすんなり受け入れられるものではない。その上で、22年3月期の実績が売上206億円で、営業利益10億円、純利益8億円だから、かなりコストが上がっている。
安全に考えると売上は会社予想を下回ると考えておいた方が良い状況だろう。ならば当然損失はより大きくなる。減価償却費の影響が大きそうだから、キャッシュフローは営業損失ほど悪くはないかもしれないが、焼け石に水といった感じ。業績回復についても期待できなそうだ。
まとめ
財務の安全性、業績回復の可能性どちらを見ても手を出せる状況ではなかったことが窺える。ここまでの分析は会社四季報に掲載されている情報だけに基づいている。
倒産なんてそうそうあることではないが、倒産のような状況に巻き込まれないためには、今この価格で買いたいと思わない株はさっさと手放すべきなのだろう。
どれも当たり前の話だけれど、今回の内容をまとめると次の4つの条件に当てはまる場合は投資対象に含めないのが安全だろう。
継続前提の疑義・注記がある
資金調達に課題がある
赤字事業からの撤退が難しい
業績回復の予想が楽観的である
また、保有銘柄が上記の条件に抵触した上で50%も下がったら「ここまで下がったらもう一緒」などと思わず損切すべきだろうと思う。