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フジメディアHDの投機的検討
今回の試みについて
私はファンダメンタルズ分析に基づいて割安と思える会社への投資を行う様にしている。また、短期的には高すぎる安すぎるという価格の動きを見て売買することもあるが、ニュースの動向などを予想して売買することはない。
しかし、今回は最近世間をにぎわしているフジメディアHDを対象として、投機的にどういうことを予想できるかを考えてみる。
予想するのは以下の3つの論点。
大口スポンサーの動向
ダルトンの動向
インフルエンサーの動向
大口スポンサーの動向
トヨタ自動車やNTT東日本など大手のCM出稿が取りやめられACのものに振り替えられている。契約上差し替えということなので現時点では収入は確保されているようだが、今後の業績を考える上で当然考慮すべき事項だ。
いつ、どこから出稿は回復するのか?
違約金や損害賠償リスクは?
スポンサー各社のTV広告予算はどこに行くのか?
出稿の回復は正直いつになるのか分からない。気が付けばCMが流れているという状況にはなるかもしれないが、何も口火を切ってCM出稿を始めるメリットは大手スポンサー企業にはないと思う。
強いてCM出稿にメリットがあるスポンサーとして考えられるのは、
知名度が低く広告予算も小さい従来はTVCMを思うように流せなかった企業が単価下落に乗じて出稿する場合。
リコールなど極力広い媒体を使い広く周知することが要請される場合。
業績見通しの上昇という観点ではまだ出稿減少が底を打ったとも言えなそうなので、まだ底と見るのは時期尚早に思える。
次にスポンサー企業に向けて違約金や損害賠償が発生するのではないか?という懸念だ。この点については私は法律面の知識があるわけでもないので、確たる判断はできない。ただ、これは良くてもマイナス影響なし、悪ければマイナスという要素なので、買い判断をする上で良い情報にはならない。
また、責任が個人の問題に押し込められたとしてもフジメディアHDが損害賠償等で回収できる金額は十分なものにはならないだろうからこれもプラス要因にはならない。
最後に、スポンサー企業がフジテレビのCMに充てていた広告宣伝費はどこに行くのか?を考えておきたい。
単純な話として、プロモーションミックスの一部としてテレビCMを使うわけで、他局の広告枠を買うというのは1つの動きとして考えられる。
非常に単純化した話だが、フジテレビが選択肢から外れるならば在京の主要なテレビ局は日本テレビ・テレビ朝日・TBS・テレビ東京の4社になる。単純に供給が20%削減されたと考えれば需給のバランスは大きく変わる。端的に言えば需要過多を理由に値上げができるビッグチャンス到来といったところだ。コストもかけずに需要が増えて価格が上げられるという状況が実現するとしたら儲からない理由はない。懸念事項としては、テレビ業界はどこも似たり寄ったりという状況になった場合どうなるか?という所。
テレビ局の他にも受動的に受け取る動画による公告という共通点で見ればYOUTUBE(アルファベット)やabemaTV(サイバーエージェント)などもその恩恵を受けるかもしれない。YOUTUBEについては私の守備範囲外だし、そもそもアルファベットの規模でそれほどインパクトのある話とも思えないので、これを理由に買うということはないが、上述のテレビ局に加えてサイバーエージェントは漁夫の利を得られるかもしれない。
この他にもテレビ以外のメディアに広告宣伝費が流れることも考えられるが、WEBメディアに集中したところで埋没は避けられないし、新聞雑誌のような文字メディアだと広く薄く認知させるのには向いていないように思える。
テレビの様な受動的に受け取るメディアでの露出を増やし、かつ直接的な広告出稿ではない方法を探るならPRにより資源を振り向けるのも1つの方法になろう。念のために補足説明をしておくとPRとはパブリックリレーションズの略で、通常の広告とは違い、出向者が広告費を払ってメディアに掲載させるのではなく、メディアが公表された情報を報じるというもの。
PR関連で有名どころとしては、ベクトルや共同ピーアールなどがある。
大口スポンサーの動向からは、競合他社や代替品の供給者に広告宣伝費が流れることを期待して投資をするというのは1つのアイデアになると思う。
ダルトンの動向
アクティビストであるダルトンが大株主であり今回の騒動においても第三者委員会の設置を要求している。今回の状況を受けてダルトンがどう動くか?は考慮が必要な要素の1つである。
この騒動以前の状況として、2024 年 5 月 30 日に関連会社であるライジング・サン・マネジメントリミテッドより以下の内容をフジメディアHDに要求している。
経営陣による株式の取得(MBO)
サンケイビルの分離
増配及び自己株の取得
経営陣の交代
上記の要求はアクティビストの要求としてはかなりオーソドックスなものだと思う。要するにコングロマリットディスカウントの解消、資金効率の改善、業績不振の責任を取って経営陣を交代すること、それが嫌なら買い取れというもの。いずれも実行可能な資金をフジメディアHDは有しているので投資行動として理にかなったものだった。
これらの要求は今回の騒動を受けて実行可能性はどう動いただろうか?
まず、MBOの可能性が上がったとは考えにくい。現経営陣がネガティブに見られている環境なので、MBOによって広告出稿量が増えるとは考えにくい。実現するとしても、ほとぼりが冷めるまではMBOはないだろう。
反対に経営陣の交代はフジメディアHDから対外的に対応をしたとパフォーマンスするうえで効果的な打ち手になるだろう。しかし、中途半端にフジテレビの経営陣だけの交代でお茶を濁すという様な形になれば不十分な対応とみなされても不思議はない。
このような状況は株主の交代を迫る上では追い風の状況と言えそうだ。
サンケイビルの分離は現在優先課題ではなくなったと思う。実行は可能だが、今はそこに経営陣のリソースを割くということにはならないだろうし、もし実行されても通常時なら得られたほどのプラス効果は得られないだろう。
自社株の取得と増配は、優先度という点でフジサンケイビルの分離と同様に下がったと思う。加えて、直近はメディア事業にネガティブな環境であることは明らかなので、ここでの実施は経営判断としてプラス評価にはつながらないと思う。
こう考えると、ダルトンが株式を保有し続けるとすれば次のように進むのが基本的な成功ストーリーになると思う。
経営陣の交代等によるレピュテーションの回復
↓
広告出稿の回復
↓
サンケイビルや株主還元強化
このストーリーを検討する上で厄介なのは、ダルトンはすでに大株主で外資規制の影響もあり、株価が下がったところで買増すことが難しいということではないだろうか?
レピュテーションの悪化・広告出稿の減少による利益の減少により株価が下落するならば、それを上回る株価上昇をしなければ意味がないので成功のハードルは上がる。
また、すでに大株主であるということは撤退するにしても自らの株式売却により株価を大きく下げてしまうことは避けられない。2023年の年末には大量保有報告書が提出されているので、現時点の株価は十分上昇したなんて言う水準ではない。
このような状況は、前進も後退もいばらの道に見える。
従って、ダルトンの撤退はフジメディアHDに投資をするならば大きなリスクとして考えておかなければならない。
逆張りで買いたいと考えているのなら、需給要因で大きく下がるリスクが軽減されるので、ダルトンが手放したという情報が出るのを待つというのは1つのアイデア。
インフルエンサーの動向
フジメディアHDというかフジテレビは世間でも良く知られた企業であるし、話題としても専門性を要するものでもなく、感情的な反応を引き起こすものであるため、インフルエンサーのネタとしてこれほど扱いやすいものはない。
素直に考えれば今フジメディアHDを買うとすれば大きく株価を下げたところで事態の収束に伴う株価の回復を狙うとなりそうなところだが、現時点で見ると株価が下がったとは感じない。
昨年1年の株価を見ると概ね1700円を少し上回る程度で推移していて、現時点で1690.5円だから別に安いというほどではないし、年末の高い所で1860円今年の最安値1月9日の終値で1599円。ざっくり高い所から低い所で見て下落率14%という所だけれど今年に入って株価全体が下落基調であることを考えれば、それほど下がっていないように感じる。
むしろ、1月17日には4.61%も上昇して現在の株価に落ち着いている。もっともスポンサーが引き揚げだしたのが土曜日以降なので、本格的な下落はこれからかもしれない。
このような状況のもとで、堀江貴文氏、田端信太郎氏、岡野タケシ氏といった方が株式の取得し意見表明をしている。
彼らの視聴者がいくらか相乗りする可能性はあると思うし、現在の株価1700円程度は比較的手を出しやすい金額で、推し活の範囲で買えないことはない金額だと思う。また、昨年、新NISAが始まったこともあり証券口座をもう持っている視聴者も多くいることだろうから、ボタン1つで買えてしまう環境だ。
これは経済合理性で動く話ではないので、どう影響するかは分からないが株価を上昇させる可能性がある。
まとめ
今回は大口スポンサーの動向、ダルトンの動向、インフルエンサーの動向の3つの視点から投資機会の検討をした。
フジメディアHDの株価は総合すると短期的には株価が下落するのが自然な値動きと考える。短期的に上げる要因となるのはインフルエンサーの活動によるミーム化ぐらい。
現在の株価は問題が明るみになる前の水準と大して変わらず、逆張りで買うにしては安くはない。また、インフルエンサーの影響で株価が上昇したという局面が訪れたとするとバリュエーションで評価できない状況になる上にダルトンにとっては撤退の機会となる。株価上昇の要因は根拠に乏しく、下落要因は合理的な行動である。
情緒的要因と経済合理的要因が合わさって価格が形成されるのは通常の話なのだが今回の情緒的要因は成長への期待といったものではなく、フジメディアHDが大きな利益を上げたり、資本効率が良くなったりということを通じて企業価値を上げ、株価上昇するという話ではない。対して株価が下がっていないことと併せて考えると儲かると思って買っている人が多数派とは考えにくい。
多くの人が儲かると思っているから株価が上がり、その上昇に同調して買う。多くの人が損をすると思っているから株価が下がり、安すぎると思えば買う。というのが投資判断だと思うが、どちらにも当てはまらない状況。
結論としては現在の株価から、大きく株価が下がったうえで、世間の注目が集まった状況をキープし続けているようでなければ買いたいとは思わない。
むしろ他局や代替の広告メディア、PR会社の方が需要を吸収できる立場になるので優位にあるように思う。
最初にお断りしたとおり、私は今回行ったような検討を基に投資先を選んでいないので、具体例に挙げたどの会社も多分、買いも売りもしない。
推奨でも何でもないので、投資判断は自己責任で。