銘柄分析_澁谷工業_20241105
第一印象
まず、証券会社の情報と会社四季報からざっと眺めてみる。
概況
取っ掛かりとして、投資指標をざっと見ると下記の通り。
割安感のある株価水準。
株価:3,655円
予想PER:10.99倍
実績PBR:1倍
予想配当利回り:2.46%
事業内容は飲料用充填装置などを手掛けるメーカー。
売り上げ構成はザっとパッケージングプラント57%、メカトロシステム32%、農業用設備11%すべての分野で高い利益率が確保できている。
飲料用充填装置では国内最大手。
本社は金沢市。
収益性
24年6月期決算を見ると売上高1,154億円、営業利益134億円、純利益98億円。ROE10.2%、ROA6.0%。
20年6月期~26年6月期予想を見る限り、売上・営業利益ともに右肩上がりとまでは言えず、ある程度変動があることも考慮する必要がある。
とは言え、営業利益率は10%程度をキープできているし、22年6月期以降で見れば概ね良化傾向で優良企業と言えると思う。
財務
自己資本比率62.4%、有利子負債46億円に対して現金等が469億円、フリーキャッシュフローは前期は70億円程度+だが2期前は‐5億円直近2期だけだと安定しているか否かの判断はできない。
175億円を投じて4工場を建設の計画やインドにも拠点設置とのことで、投資資金がかさみそうだが、現金を十分に持っているので資金面での心配は小さいか。
また、時価総額がおよそ1,000億円に対してネットキャッシュが420億円は少し現金比率が高すぎるようにも思える。
この点は、投資計画を考慮する必要があるので、四季報だけで判断はできない。
四季報の範囲での判断は、現金の保有額が有利子負債、直近2期のフリーキャッシュフローに対して十分に大きく、投資や負債の返済が重荷になるという状況ではなく、成長投資や株主還元を行う原資は十分にあると考える。
株主還元
配当性向は20~30%程度、高くもないが低すぎるというほどでもない。
自社株買いも行っておらず、この点改善の余地があるように思う。
株主構成
公益財団法人澁谷学術文化スポーツ振興財団8.2%、自社取引先持株会4.5%の他に目立つ株主はなし。
第一印象のまとめ
収益性は高い成長を一貫して見せているとは言えないものの高い利益率をキープできているし、ROE,ROA共に高い。財務面も手堅く、成長投資や株主還元の余地も十分にある。
株主還元はやや控えめの水準で、今後拡大の余地もある。
まだ調査を進める必要はあるが、割安株と言っても良いと思う。
追加調査
ここからはIRバンク、有価証券報告書などを基に気になった部分を追加的に調査する。
収益性
過去10年間で赤字はなく、直近数年伸び悩みの感はあるが概ね上昇傾向。
売上原価が80%、販管費が10%といった水準で推移している。
多少のブレはあるものの売上原価、販管費の水準に悪化傾向はないので、原料糖のコストアップ分は価格転嫁できている様子。
キャッシュフローの推移
過去10年のフリーキャッシュフローを見ると-は2回。2回ともその金額は小さく、安定して+の状態を維持できていると言えそう。
同期間中営業キャッシュフローが-になったことはない。
現金残高と併せて考えれば、資金調達が課題となることはなさそうである。
原価管理
先代社長が開発した原価管理システムに特徴があるらしい。
下記の他にも何冊か会計・財務の著書を出されているようで、コスト管理は仕組み的に強そう。
成長
ボトリング充填設備に関しては国内シェア80~90%。
乳製品や茶系飲料等の低酸性飲料の需要拡大。
米国FDA認可取得し北米向け出荷を本格化。
中国、インドを中心とした透析患者の増加による中長期的需要増大。
半導体・再生医療等成長分野への投資なども積極的に行っており伸びしろは大きい。
また、それぞれの分野での成長は単なる成長の計画ではなく一定の実績を伴っているように思う。加えて、過去の実績はM&Aを含めてみても、突飛な事業展開はしておらず、多角化はコア技術をベースにしたもので、地に足の着いた成長戦略だと思う。
株式の保有状況
銀行を除けばそれほど大きな金額の銘柄はない。
有価証券報告書の記載金額でザクっと30億円程度で大勢に影響ない範囲と思う。
株主還元
中期経営計画にて配当性向30%以上、機動的な自社株買いを目標として設定。従来よりも株主還元は強化されることが期待できる。
また、1996年以降減配はない。
買収防衛策
2022年に買収防衛策について議決済み。
買収防衛策は基本的に好ましいと思っていないのでネガティブな評価。
投資家側から見てメリットがあるとは思えない。
取締役会
2022年の有価証券報告書では取締役は24名だったものが2024年の有価証券報告書では10名となっている。
さすがに24名の取締役は多すぎるし、退任された取締役の年齢はかなり高く、この点は良化と見たい。
それでも、特に取締役の若い会社という事はない。
2022年に取締役の年齢上限を社長78歳、専務75歳と設定。これを評価するか否かは難しいところ。会社の分化でいえば思い切ったことをしたようにも見える。
また、社長と副社長は義兄弟。
各取締役の月例の固定報酬の決定は社長に委任。
総合評価
事業・財務の観点から見ればかなり魅力的な企業だと思う。
外部環境的にも低酸性飲料の需要拡大、FDA認証取得による北米出荷本格化など成長余地は大きいし、地に足の着いた成長戦略がとられていると思う。
懸念点は、取締役の若返りはあったものの、買収防衛策などやや古い体質を感じさせる雰囲気があること。
最終判断は現経営体制が機能するか否かしばらく観察してからでも遅くはないと思う。