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銘柄分析_王将フードサービス_20241112
概況
取っ掛かりとして、投資指標をざっと見ると下記の通り。
外食チェーンはバリュエーションが高めになる印象があることを思えば高すぎるという事はなさそう。四季報で上げられている比較会社のPERを見ると、くら寿司37.32倍、サイゼリヤ26.32倍、壱番屋52.53倍と王将フードサービスはかなり低めの水準。
株価:3,070円
予想PER:21.77倍
実績PBR:2.45倍
予想配当利回り:1.63%
収益性
24年3月期決算を見ると売上高1,014億円、営業利益112億円、純利益80億円。ROE12.0%、ROA8.6%と良好。
また、22年3月期~26年3月期予想を見る限り、売上・営業利益ともに右肩上がり。ただ、コロナの影響をもろに受けた業種なので、コロナ前のデータを見ておきたいところ。
財務
自己資本比率75.9%、有利子負債65億円に対して現金等が36億円、フリーキャッシュフローは直近2期ともに数十億単位のプラス。現金には余裕があり、もう少し少なくても問題なさそうではある。
この他に気になったのは直近2年の投資キャッシュフローがともに‐32億円程度あるが、この金額感は適正なものかという所。予想されている設備投資も71億円となっている。
急成長中のチェーン店という事でもないので何に投資しているのか確認が必要だろう。
株主還元
掲載期間中は予測を含め上昇傾向。配当性向は33%ぐらいになることが多い。業績が良く、配当性向も低くないしPERもそれほど高くないと思うと配当利回りが低く感じる。
株主優待として、年2回の優待券もしくは商品と年1回優待カードの贈呈があり。1単元でも優待券は年間4,000円になる。普段から王将で食事をするのなら良い優待だと思う。
直近に株式分割を行った際に優待の拡充を実施している。
この点は、優待目当てで投資するならプラス評価と言えるが、普通に値上がりや配当を目的とするのなら好ましくはない。
最近は自社株買いの実績はなさそうだが、この状況であれば優待コストの低減、配当利回りの上昇につながる自社株買いは一番効率的な株主還元のように思う。
株主構成
自社19.1%、アサヒビール8.8%、ジャパンフードビジネスとアリアケジャパンが合計で10.7%、創業者関連が7.3%。
自己株式持ちすぎでは?消却してほしいところ。
第一印象のまとめ
ここ数年の実績を見る限りかなり好調な業績。財務の面でも安全性は担保できている。本業の状態は数字を見る限り今まで通り続けても良さそう。
ただ、株主優待は過剰に感じる。廃止とまで行かなくとも縮小は勧めても良いと思う。優待の縮小が難しいようなら自社株買いで株主数を減らすのも1つの方法だと思う。
加えて、自己株式の消却を進めて欲しいところ。
比較企業を見てもPER30倍ぐらいであれば異常な高値水準という感じはしない。逆に言うと業績も財務も良いのにPER20倍程度というのは他に問題点があると判断されているように思う。
追加調査
ここからはIRバンク、有価証券報告書などを基に気になった部分を追加的に調査する。
収益性
過去10年を振り返ると次の通りで売上営業利益とも大きく伸びているように見える。
2015年3月期:売上 758億円 営業利益 60億円
2024年3月期:売上 1,014億円 営業利益 103億円
しかし、各年の状況を見るとは横ばいで推移している期間が多く、直近の伸びはインバウンドの増加や値上げなど外部環境が良化したタイミングと一致している。
過去10年以上の期間赤字がなく営業利益率も低い時で7%をキープできていることは評価できるが、成長が内部要因によるものかどうか確認が必要だと思う。
価格帯と品質
競合関係を見ると、中華料理チェーンの中で規模は群を抜いて大きい。売上で見て2番手のハイデイ日高の2倍を超えており、価格は少し高いがそれを納得させられるだけの品質差はあると思う。
王将フードサービスは、ローエンドの中華チェーンとハイエンドの中華料理店の間に位置しているが、ローエンドへの進出は店内調理を行う限り不利益しかないように見えるし、現状のブランドイメージなど考えるとハイエンドへの進出も難しいだろう。
従って、両者の価格帯の間で適切な位置を取り続けなければならず、この地位を維持し続けるためにはコストコントロールを強く意識する必要がある。
店舗運営への投資、セントラルキッチンとの使い分け等中間の位置を維持するために適切な投資がなされているか継続して確認していく必要がある。
主要食材の日本産への切替え
日本産食材の切替えは、対外的に打ち出してしまっているため外国産食材への切替えを制限すると考えられるが、反対に低価格帯の外食チェーン店で食事をするときに日本産食材を使うことにプレミアム価格を払うだろうか。
単価上昇や顧客数の増加要因としての期待に比べるとコストコントロールのドライバーとしての外国産食材を手放すことに見合わないように思う。
新規出店ペース
現時点で国内700店以上を抱え、店内調理という制約がある為、出店ペースの加速は簡単ではないが。年間10~20店程度の出店ペースというのはやや物足りなさを感じる。
現社長に交代後、従業員満足度と平均勤続年数は共に大きく改善しているし、昇給等の待遇改善も継続している。この改善効果を成長につなげて欲しい所。
キャッシュフローの推移
過去10年間で営業キャッシュフローがマイナスになったことはなく、フリーキャッシュフローがマイナスになったのも1度だけ。
気になる点は2021年3月期にコロナの長期化に備えて調達した250億円がほぼ内部に現金として留められていること。これは当時の判断としては理解できるが現状不要な現金に見える。財務体質は十分健全なので、自社株買いにあてるなど資金効率を意識した対応をして欲しいところ。
今期の設備投資計画は以下の通り。
新店投資 17億円
既存店解消投資 28億円
セントラルキッチン投資 19億円
その他 7億円
資産
土地建物は店舗用不動産等で300億円程度保有。
株式としてそこそこの金額になるのはアリアケジャパン約78万株単純計算で42億円。この他の保有株式は金額も小さいので重要性は低い。
また、株式はかなり前に取得したもののようで、配当利回りがかなり高くなっており、そのまま保有していても十分な利益が得られる状態。
原材料価格の推移
原材料価格が上昇傾向にあることは確かだが、価格転嫁が受け入れられており、売上原価は安定した水準を維持している。
現時点で、原材料高が致命的な要因とは考えていない。
総合評価
直近業績と財務の観点から見れば現時点でも、もう少し高いPER水準になっても違和感はない。ただし、現状好業績であるものの、外部要因による伸びの要素も大きいように思う。
現在のPER水準の原因として、出店速度、現金保有の多さ、株主優待拡充、自己株の多さといった要因が悪影響を及ぼしているように見える。
決算説明資料などを読んでいても、戦略のロジックがふんわりしているように感じらる部分は多い。例えば、人材への投資はどの様な効果を出していてどう利益につながっているのか?平均勤続年数が伸び離職率が下がれば採用コスト、教育コストの低減、作業習熟による生産性の安定・向上といった項かが得られているものと思うが、人的資本投資によりどれぐらいのリターンを得られたのかといった点はかなりあいまいに感じる。
他にも「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」や「株主還元方針」には具体的な数値の記載がないなど戦略レベルでの強さは感じない。
PBRは現時点でも2.45倍あることと併せて考えれば、先に述べた現金保有・株主優待・自己株保有を解消するとは考えにくい。
好調な業績なりに株価の上昇は期待できるかもしれないが、評価水準の切り上げまでは期待できなそう。
悪くはないが積極的に買うほど良いとも言えない。
参考資料
今回の分析に用いた資料の内、王将フードサービスが公表している有価証券報告書等の開示資料、会社四季報、IRバンクのデータ以外で参考にしたものは下記の通り。