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RIZIN49感想(後編)堀口恭司の衰え?と鈴木千裕の王座陥落に悲しみ

前編に続いてRIZIN49感想です。今回は休憩を挟んでからの5試合のうち4試合について書きます。特に堀口恭司、鈴木千裕の試合は書きたいことが多いので長くなるのをご了承いただきたいです。

AbemaのPPV購入者は戦前予想がありました。自分の予想は次の感じです。メインイベントとバンタム級以外の試合は概ね大衆の予想と同じです。


元谷先生のMMA教室

バンタム級王座次期挑戦者決定戦、元谷友貴vs秋元強真。ノリにノっている秋元選手が、戦前予想でも元谷選手より圧倒的に人気でした。秋元選手自身の人気も勿論ですが、JTT所属なのも人気に関係あるように思いました。秋元選手はプロ戦績7戦無敗で、文字通りスーパーノヴァといって過言ではない18歳です。打撃に関しては正直元谷選手より優っているのではないかと思いました。とはいえ、直前の試合で怪物くん(鈴木博昭選手)に判定勝利だったのは気になる部分でした。怪物くんもベテランなので、気になるといっても多少の範疇でしたが。しかし自分は元谷選手の勝ちを予想しました。格闘技は結果が全てで年功序列ではないけれども、10年以上も頑張ってきた元谷選手に報われてほしい気持ちが強かったです。

試合開始。元谷選手が試合を終始コントロール。元谷選手はやらかすみたいな話も試合前に聞いており、危ない部分があるかなと心配しましたが、間違いなく完勝と言って良い内容でした。できれば太田忍戦のようにKOして欲しかったですが、とにかく勝ててよかったです。ATTで培ってきた技術でしっかりと勝ちきれた、「DEEPのファンタンジスタ」の異名は伊達ではないです。18歳の秋元選手は天才ですし、これからまだまだ強くなるはずです。両親をパパママ呼びしてる疑惑のある可愛らしい一面もあったりと、個人的にも好きな選手です。まだまだこれからだし、将来大成するはずです。

とはいえ、ネットで「JTTはJapan Top TeamではなくJapan Tap Teamの略なのではないか」と揶揄されているように、JTTの選手(※伊澤星花選手を除く)は寝かされるとあまりにもなす術がないと思いました。それは朝倉海、朝倉未来、白川ダーク陸斗あたりの選手のここ最近の結果を見れば明らかです。ビリーとエリーなる謎の外国人トレーナーが無能という論調は某アパレル店員さんがX(旧Twitter)で作り出したような気もしますが、正直その感は否めないです。そもそもATTとかと違って、MAAに必須の技術を体系的に教えてる感じがしないのは気のせいでしょうか。秋元君は嫌いじゃないのでパエストラに戻ってほしいです。それかATTに行って欲しいです。少なくともJTTはないですね。

伊澤星花選手の試合後、タイトルマッチが3つ続きます。

35歳でまだこんなに強くなるのか

ライト級タイトルマッチ、ホベルト・サトシ・ソウザvsヴガール・ケラモフ。ライト級はサトシ選手の絶対王政が敷かれている階級で、挑戦者が誰もいないと思いましたが、このカードは10周年らしいお祭り的な夢の対決でした。ケラモフ予想の人もちらほら見かけたし、フェザー級より明らかに身体の仕上がりも良さそうだったので期待感がありました。しかし自分はサトシ選手が勝つと予想しました。

試合開始。今年はサトシ選手が打撃で仕留めた試合が多かったと話題になっていましたがこの試合ではきっちり寝技で仕留めましたね。相変わらず神速で寝技に持っていくのが無茶苦茶でした。本当に強い。今年は打撃でのKOを2回やっていて、35歳なのにまだ強くなるのかと思いました。観客からの声援から人気があるのもわかったし、RIZINの看板選手であり団体の顔の一人にふさわしい実力者なのだと改めて感じました。打撃のスキルが向上した今の状態でAJマッキー選手と再戦したらどうなるのだろうと気になりました。

堀口恭司について思うこと

ここから2試合は文字数がさらに増えます、先にご容赦ください。フライ級タイトルマッチ、堀口恭司vsエンカジムーロ・ズールー。ズールー選手は試合前から不気味と言われていましたが、対戦カードをみればどれだけ澄んだ目をしているのかわかったので人間的にはなんとなく良い人そうだなぁと思いました。こんなキラキラした目をした人が悪い人には見えません。とはいえ格闘技選手としては得体のしれない不気味さがあります。試合動画も見ましたが、フライ級では高めの身長から繰り出される打撃はなんとなく危険な感じがしました。堀口選手もズールー選手を「いい選手で、ミスすれば負ける」と言っていました。それでも、我らが堀口恭司であれば圧倒してくれるだろうとは誰もが思っていたはずです。堀口が強すぎてフライ級では戦える相手がいないから、ズールー選手が1試合しただけでいきなりタイトルマッチになったみたいな意見も見かけたし、正直自分もそう思ったのは否めませんでした。試合前予想では98%が堀口勝利予想でした。得意の打撃でKOか、肩固めか。嫌な予感はするけども、何ラウンドで決めるのだろうかと見ていました。

試合内容ですが、正直この大会で見ていて一番ヒヤヒヤした試合でした。自分が堀口選手の試合をリアルタイムで見だしたのはBellator対抗戦からなので浅いですが、それでも今まで見た堀口選手の試合の中で一番不安になりながら観戦した試合でした。危なっかしいという表現がX(旧Twitter)でも散見されましたが、悪い意味で見ていてハラハラしました。昨年の神龍戦も簡単に勝ったとは思ってないですが、それは神龍選手が強者だからと楽観していて、今回は圧勝できるだろうとズールー選手を過小評価していたのは否めないです。それでも堀口ならと期待していましたが、実際の試合内容としては安全運転でコントロールしているにもかわらず、打撃を被弾してフラッシュダウンするシーンが何度もあって、想像していたクオリティからは程遠いものでした。ズールー選手の前にはアリベク・ガジャマトフ選手と戦うのが当初の予定だったみたいな噂も出ていますが、ダゲスタン共和国出身のガジャマトフ選手と戦ったらもしかしたら負けていたのではと思う内容でした。

1ラウンド目にズールー選手を身体ごと持ち上げて歩いていたシーンはすごかったと評判でしたが、私にはあれはパフォーマンスに見えてしまいました。叩きつけるにしてもあそこまで歩いて移動するのは無駄なのではないでしょうか。穿った見方ですが、UFCに自分の力を見せつけているようもみえたのです。何も根拠はないので、私の単なる思い込みだと良いのですが。

元谷選手の試合と同じく内容面では完勝と言って良いです。でもやっぱり堀口選手は世界レベルなのだから、他の選手と堀口恭司に求めるクオリティは圧倒的に違うと思うのも正直な気持ちです。でもこの試合の堀口選手からは、Bellator対抗戦の扇久保戦のときやvs朝倉海2のときに感じたような凄まじいまでの圧が全然感じられませんでした。堀口選手は全ての局面で戦えますが、その中でも特に伝統派空手仕込みの打撃が武器だと思っていました。那須川天心選手とキックボクシング対決したときも天心選手に劣っているとは全く思わなかったし、肩固めのフィニッシュもあれど必殺の打撃は今後もしばらくは強みのままだろうと思っていました。

しかし実際のデータでは、vs朝倉海2を最後に4年間打撃でのKOはないのですね。情けない話ですが、この記事を書いていて初めて気づきました。体重が軽くなるとパワーが落ちてKOが難しくなるので、フライ級のKOの難易度はバンタムより上がりますが、とはいえです。それに、34歳の堀口より1歳年上のサトシやクレベルはまだまだ進化しているのに、堀口だけなぜこんなに打撃でのフィニッシュが減り、打たれ弱くなっているように感じてしまうのか。これでパントージャに勝てるのかと正直不安になりました。MMAに詳しい方々や専門家のいろんな意見をいっぱい見てみたいです。

今回の試合の感想のなかで、堀口恭司が衰えているみたいな意見をたくさん見かけました。試合前も特に調子が悪そうには見えなかったので、客観的に見たらそう考えるのが妥当かもしれません。今回はたまたまコンディショニングが悪かったのだとか、相手との相性が悪かったのかとか思いたいですけども。試合直後にYogiboのクッションに座るときもどこか悲しい表情だし、試合後のインタビューもまるで敗者みたいな表情と受け答えに見えました。試合後の堀口選手の表情が今でも忘れられませんし、みていて本当に辛かったです。メインイベント後に、新年をみんなで祝うときにリングにあがったときの表情もどこか悲しそうなのがすごく気になりました。シンヤ・エイオキさんのnoteに「衰えを一番感じているのは堀口さん本人」みたいなことが書いてありましたが、試合後インタビューやYoutubeを見てもそう見える表情でした。

年齢を考えるとUFCへの道は閉ざされたと思っていたのですが、「朝倉海選手がUFCに挑戦したことにより閉ざされた道が開けた」みたいな話を堀口選手がしていて、今回の試合で圧倒できればUFCの可能性もあるのではと期待していました。しかし本人の表情を見るに、それは期待しないほうが良さそうだと覚悟しておきます。全盛期の年齢でUFCを離れてRIZINで戦うのを選んだのは堀口選手自身とはいえ、なぜ堀口選手ほどの最高の格闘家がUFCに再度挑戦できないのかと本当に悲しい気持ちになって泣きそうになりました。自分は昔伝統派空手をやっていたので、伝統派空手ベースで世界基準で活躍する堀口恭司選手を心の底から尊敬しているし応援しています。だから彼のキャリアがどのような結末を迎えたとしても最期まで応援し続けるし、信じ続けたいです。余談ですが「顎貯金」という格闘技用語は今回初めて知りました。

RIZINの顔、鈴木千裕

メインイベント、フェザー級タイトルマッチ、鈴木千裕vsクレベルコイケ。順当に考えればクレベル有利なのかもしれないけれど、千裕タイムさえ訪れてしまえばいくらクレベルでも防ぎようがないと思っていたので、逆張りでもなんでもなく、本気で鈴木千裕が勝つと信じていたし勝って欲しかったです。前回完勝したクレベル選手が、1年半の時を経て成長した鈴木選手のラッシュをどのように凌ぐのか防御も見てみたかったです。さてどうなるか、この試合は今回の大会でも1番の注目カードでした。クレベル選手も素晴らしい選手ですが、フェザー級の日本人のなかではぶっちぎりで鈴木選手を応援していました。なぜそこまで鈴木選手に惚れ込んでいたのか。

鈴木千裕選手を初めてすごいと思ったのは、RIZINを初めて現地に見に行った超RIZIN2で、堀口恭司選手のBellatorフライ級タイトルマッチとライト級グランプリのAJマッキー選手を見に行くのが目的でした。つまり前半のBellatorパート目的で行っただけで、その後のRIZINパートは興味ありませんでした。堀口選手のタイトルマッチはアイポークにより試合が中止、AJマッキー選手は直前で感染症を患ったことによりグランプリの参加を辞退。初めて行った格闘技の大会で自分にとってのメインイベントが2つも消えてしまったのはショックで、この後何を楽しみに見れば良いのかと思っていました。もちろんBellator対抗戦にでていたパトリシオ・"ピットブル"・フレイレ選手が鈴木選手と戦うのも知っていました。鈴木選手がフェザー級で連勝を重ねているのも知っていましたが、それよりもママ活疑惑で話題になっていた印象の方が強かったです。しかも直近の試合ではノーコンテストとはいえクレベル選手に完敗しています。なので前評判から考えてピットブル選手が勝つと思っていたし、鈴木選手は普通に負けると思っていたのでこの試合も興味なかったのです。

ところがです。この大会最大のインパクトを残した試合が鈴木選手の試合でした。Bellatorのチャンピオン相手に1ラウンドKO。場内の観客が総立ち、スタンディングオベーションの嵐。2023年のRIZINで最大のアップセットだったと言って過言ないです。あの史上最大級のアップセットを現地で味わえたのは本当に良い思い出だし、堀口選手もAJマッキー選手も見られなかった自分からしたら鈴木選手のおかげでチケット代の元が取れました。直前になって急遽組まれた試合とはいえ、それは鈴木選手だって同じ条件のはず。もっと言えば、本物の格闘家であればいつでも戦えるように準備しているはずです。真の格闘家は、「いつでも、どこでも、誰とでも」、「どうぶつの森」と同じです。

とはいえ、1回だけだったらミラクルと思われてもしょうがないのも事実。しかしその後のアゼルバイジャンでのケラモフ戦で、ものすごい勝ち方で鈴木選手はついにチャンピオンになりました。今まであんな勝ち方をした選手を知りません。みんなあの踵落としをまぐれだと言ってましたが、鈴木選手本人は狙ってやったもので練習もちゃんとやってきたと言っていました。鈴木千裕が本物だと確信したのはこのケラモフ戦でした。まぐれは2回も続かないからです。だから金原戦で初防衛したときも、当たり前のように鈴木選手が勝てると思っていたので驚きはありませんでした。3代目のチャンピオンだったクレベル選手が王者に返り咲いてしまうと再び時計の針が戻ってしまう気もして、このまま鈴木千裕がチャンピオンのまま世界に向けて突き進んで欲しかった試合でした。

試合の中身は、想像を超える凄まじい試合でした。いつものようにクレベル選手が寝技をかけようとする中、極まったと思っても鈴木選手が気持ちを見せて極めさせずにやり返して上半身だけの状態からでもパンチを連打します。グラウンドでの打撃戦のようにも見えました。文字通りの死闘で、2ラウンド終盤で極められそうになったときも、ケラモフ戦で見せたような踵落としで回避するなど、鈴木選手は万事休すかのような局面を何度も突破していきました。3ラウンドにはクレベル選手が鈴木選手の鉄槌でカットして、白いリングが真っ赤に染まります。クレベル・コイケがこんなに流血してるシーンを見た記憶がないですし、鈴木選手の金髪が赤く染まっているすごい絵面になっていました。赤に染まる金髪のあの美しさといったらもう。判定のときの鈴木選手の表情や髪色を見て、絵面的にも10周年を締めるのにふさわしい作品だし、この作品を作り上げた二人はすごい仕事をしました。試合終了後に鈴木選手が気を吐いているシーンなんかもすごく絵になっていた。

この試合だけは5分5ラウンドで見たかったです。金原戦で見せたパンチの暴風雨、嵐のような怒涛の連続攻撃の通称”千裕タイム”をこの試合でも見たかったです。でもクレベル選手が上手くて、打撃に入らせないようにタックルで切りながら、得意のグラウンドに持ち込んでいました。鈴木選手も気迫を見せて極めさせずに抵抗していましたが、ほとんどの時間をクレベル選手が主導権を握っていたので3-0の判定結果も妥当です。グラウンドでもクレベル相手に極めさせずに、パウンドや上半身だけのパンチで応戦していたのには確かに成長を感じましたが、あれは相手の土俵であって鈴木千裕のやりたかったスタンドでの攻防ではありませんでした。

負けたのはショックだったけども、不思議と落ち込みはしませんでした。1年半前の戦いより確実に成長していたし、やれるだけのことはやったのだからとサッパリした爽やかな気持ちがあったからです。試合後のインタビューを見ても落ち込んでる感じはしないし、本当に1年で王者に返り咲いてくれるのではないかと期待感をもてました。何より感動したのは、負けた直後にクレベル選手にボンサイ柔術の教えを乞う心意気です。堀口選手に負けた神龍選手がATTには絶対行かないと言っていましたが、負けた相手に学びに行くのもまた1つの決断ですし、この素直さが鈴木選手らしいです。まだまだ強くなれるだろうし、これが本当の格闘家なのだと感動しました。鈴木千裕の打撃にボンサイ柔術が加わったら鬼に金棒ですし、そうなればいよいよ真の意味でコンプリートファイターになれるので、今後も楽しみです。

試合以外の虚言で騙せるのは馬鹿なファンだけで、面白い試合を魅せるのが真の格闘家なのだと改めて感じました。大事なのは試合内容で、試合外での言葉はあくまでオマケです。「シェイドゥラエフもダウトベックもクレベルも余裕」「俺はUFCに行く」と言っているくせに年間1試合しかせず、格闘技の練習よりもSNSでの誹謗中傷に勤しむ口だけの服屋さんから出た虚言と鈴木千裕の言葉は重みが違います。今回は宣言通りの1ラウンドKOはできなかったけど、これまで何度も有言実行してきたし、王者になってからの貫禄や立ち振る舞いはサマになっていました。ポペガーキャンセル界隈には頑張って欲しいです。とりあえず今後は鈴木千裕さんはパチンコ屋さんの来店イベントをやめてほしいです。

総括:キック勢隆盛ならず

総評として現実的な話も最後にしておきます。フェザー級タイトルマッチをやる前からわかっていたことですが、どちらが勝ったとしても次の防衛戦がシェイドゥラエフなのは避けられないので、誰がチャンピオンでも短期政権に終わるのではないかと思っていました。鈴木選手は負けましたが、クレベルはもちろんシェイドゥラエフ相手にどう戦うのかもチェックしていきたいです。シェイドゥラエフを止めるのは誰なのか、あるいは止まらずに王者になるのか。混沌としたフェザー級の行く末はそろそろ近そうです。

昨年の大晦日のRIZIN45からキックボクサー勢の台頭が話題でしたが、今回の結果をみると立ち技出身の選手たちは軒並み負けています。テイクダウンディフェンスさえ身につければMMAファイターにもスタンドで打撃勝負できる、みたいな論調は無意味だとわかった大会でした。キックボクサーの幻想は「暴かれてしまった」と言っても良いでしょう。改めてMMAがいかに複雑で難しい競技なのか感じさせられた大会でした。

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