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恒大集団が破産申請・・・意外に知らない中国不動産バブルの実態

8月19日㈮に中国不動産大手の恒大集団が米国で破産申請したとのニュースが飛び込んできた。日本でも、このニュースを受けて株式市場が一時下落するなどの影響があった。
このニュース以外にも最近中国経済の不調を示すニュースが多くなってきた。不動産バブルの崩壊を懸念する意見も多く耳にする。
しかし度々話題に上る中国の不動産バブルの実態を正しく理解している人は少ないのではないだろうか。そこでこのnote
では、中国不動産バブルの実情を筆者が知る範囲で解説してみたい。

不思議な中国不動産市場

マンション代金は前払い

日本と中国の不動産市場の違いでまず思い浮かぶのがこれだ。中国で一般庶民がマンションを購入する際には、物件が完成する前に契約段階で全額支払う必要がある。
契約段階では頭金だけ支払って、物件が完成して引き渡す時に残金を支払う日本とは大きな違いだ。
タイやフィリピンなどの新興国の不動産市場でも、建物が完成する前から建設段階に応じて支払いが発生する国は多い(通常プレビルドと呼ぶ)。しかし、建物が全く建っていない時点で、全額を支払う仕組みは中国独特だ。
これは膨大な需要に対して、供給が圧倒的に不足していた中国不動産市場特有の現象だ。当然ローンも建物が建っていない状態で組むことになる。
直ぐに思い浮かぶだろうが、もし建築が途中で中断した場合(これは結構頻繁に起きる)、ローンだけ残ることになる。この場合でも多くの場合に支払いは免除されない。
中国の不動産関連のニュースで暴動紛いの騒動が起きているのは、ローンだけ抱え込んだ購入者が怒って騒ぎを起こしたものだ。

土地の所有権は無い


中国と日本の不動産で一番大きな違いは、「土地の所有権がない」という点だろう。
中国は、建前上は今でも共産党が指導する社会主義国家だ。なので土地は全て「公有」だ。ようは国家のモノだ。中国で売買されている土地の権利は、あくまで日本で言うところの「借地権」にすぎない。しかも期限付きだ。通常は住宅は70年、商業地は50年間は利用権が保証されている(ことになっている)。
だが、地方などでは、実際には政府肝いりの開発プロジェクトなどがあると、二束三文の保証金で土地を没収されることも多いらしい。

地方政府が土地を売却


中国の土地は「公有」だが、実際に土地を管理しているのは、上海市や北京市などの地方自治体だ。
地方自治体は、定期的に土地の借地権を競売にかけている。恒大のような民間デベロッパーは、この競売に入札して、開発用の土地を手に入れる。そしてこの土地にマンションを建設して販売している。
この土地の借地権(リース権と呼ぶ場合もある)の売却代金が中国の地方政府の収入の半分近くを占めている。
地方政府は、この土地売却代金を使って日々の行政を行っている。道路や上下水道の整備から社会保障まで、支出の多くを土地の売却代金で賄っている。
日本でも土地や建物に対する固定資産税が、地方自治体の税収の大きな割合を占めている。しかし同時に支出の大半が、地方交付税として国から交付されている。
日本では考えられないが、中国の地方政府は一種の自給自足で運営されているのだ。
この仕組みは、元々シンガポールや香港の政府が行っていた開発手法を模倣したもで、1990年代初めに上海で初めて導入された。今の上海の中心街である南京路や新天地近辺などの開発で香港のデベロッパーが持ち込んだらしい。そして他の地方政府も真似しだした。
この土地売却収入もあり、一時は上海や広州などの都市は、中央政府を上回る資金力を誇っていた。中国の政治で”上海閥”という言葉が頻繁に聞かれるのもこのためだ。そして江沢民など上海閥の権力の源泉は、この巨額な上海近辺での土地に絡んだ利権だ。
また上海市政府は、土地を売却するだけでなく、開発プロジェクト自体にも出資している。オフィスビルやショッピングモールの大家にもなっているのだ。この賃貸収入だけでも莫大な額になるのは想像に難くない。
一方で地方、特に農村地帯は金欠に喘ぐことになる。大都市と地方の農村を比べると極論だが、生活レベルに日本とアフリカの例えばソマリアぐらいの差が出ている。凄まじい格差だ。また財政力のある地方政府は、北京の中央政府の言うことを無視するようになりがちだ。

農民から地方政府が土地を奪う

地方政府が土地を競売にかけているのは分かったとして、地方政府は土地をどこから仕入れているか疑問に思った人もいるかもしれない。
実は、土地の多くは「農民から奪って」調達している。中国では1970年代の文化大革命の時代までは、農地を「人民公社」が所有していた。農民は人民公社にサラリーマンの様に所属して農作業を行っていた。個人の所有物は、着ている洋服と寝るための布団、あとは箸ぐらいで、食事も共同食堂でしていた。完全平等の共産主義体制だった。
その後、1979年に改革開放が始まると、人民公社が保有していた土地は、分割されて各農民に分配された。農民たちは決められた税金と土地の利用料を払う代わりに、自由に耕作することが許された。これが有名な「個別請負制」だ。
この個別請負制の効果は凄まじく、やる気を出した農民の努力もあり、農業生産が数年で6倍に増えた地方もあったそうだ。
しかし、この以降も土地の所有権は国家が保持したままだった。農民は僅かな土地使用料を地方政府に支払うことで、ほぼ自給自足の農業を行ってきた。
ところが経済発展に伴って地価が上昇し始めると、地方政府は手のひら返しで「農民の立ち退き」を要求するようになった。そして二束三文の僅かな補償金で、農民は土地を追われることになった。もし抵抗でもしようものなら地元政府に雇われたヤクザ紛いの怖いオニイサンから難癖を付けられたり、場合によっては、公安警察までやってきて土地を追われることに。最悪公安に逮捕されて行方不明になるケースもあると聞く。
そしてこの農民から半ば「強奪」した土地の使用権を地方政府は、マンションデベロッパーに高値で売却するようになった。

前払い金で自転車操業

以上を前提にすると中国の不動産業の輪郭が浮かび上がってくる。
まず恒大の様な不動産デベロッパーは、投資家からの出資や銀行借り入れで最初の土地を競売で手に入れる。
次にこの土地にマンションを建設する計画を発表して、全額前金で販売を行う。
マンションが完成するまでには通常は2年から3年は必要だろう。建設資金の支払いは都度払いとすると、前受け金の多くが浮くことになる。
この「前受け金」の浮いた分を利用して、別の土地を競売で落札する。
そして2番目に落札した土地のマンション計画を発表して、全額前金で販売を行う。
以下繰り返し・・・。
以上が中国の不動産市場の構造の一端だ。
マンション販売代金の前払いを利用して、理論上は永遠に自転車操業を行うことが可能だ。
日本でマンションを手掛けるデベロッパーのやり方とは順序が逆なのが肝だ。
当然ながらバブルが崩壊した場合の危機の伝わり方も日本とは異なる経路をたどることになるだろう。

リスクの大半は消費者が負う

日本の不動産市場では、デベロッパーが銀行から借入をして土地を仕入れ、マンションを建設した後に購入者から代金が振り込まれる。販売が完了するまでの資金繰りや土地の値下がりリスクなどは、あくまで不動産会社と融資した銀行が負担することになる。ところが中国では、リスクの大半は前払いした消費者が負担することになる。
ちなみに中国では「胡麻信用(チーマー信用)」などのネット信用スコアが普及している。就職から結婚、ホテルや飛行機のチケットの優先予約まで、胡麻信用のスコアが参照されている。信用が高いとホテルの保証金が免除されたり、当然ローンも組みやすくなる。
しかし、もしローンの支払いがと滞ると、たちまちに信用スコアが低下して、生活に支障をきたすことになりかねない。
デベロッパーの破たんなどで、マンションの建設が途中で中断しても多くの購入者は泣き寝入りしてローンの返済を続けざるを得ない。
日本のバブル崩壊では、リスクの大半を企業が負担した。大企業が反社紛いの地上げ屋を利用して土地を買収し、金融機関がバックファイナンスを提供した。
土地投機に関係していなければ個人は蚊帳の外だった。
しかし中国では、個人が不動産バブルのリスクの最大の担い手だ。この相違点が、こん後のバブル処理で吉と出るか凶と出るかは、実際になってみないと分からない。

土地開発の伏魔殿

汚職が蔓延

不動産がバブル化し始めると、各地の地方政府は土地の売却だけでは飽き足らず、自ら不動産開発に乗り出すようになる。その時に出てきたのが有名な”融資平台”などと言われるノンバンクだ。
各地方政府は自らの出資と不動産会社などの合同出資でノンバンクや開発会社を設立して銀行から多額の融資を調達する。そして競売にかけた土地を自ら落札して不動産会社とJV(ジョイントベンチャー)で開発を行うようになった。
当然ながらこの仕組みは不正の温床になる。土地の入札自体が不正に行われる場合だけでなく、工事代金が水増しされたり、意味不明のコンサルタント契約が結ばれるなどし、役人や関係者が資金を抜いていくことは想像に難くないだろう。
実際に中国の地方政府では、この手の腐敗が蔓延して手が付けられなくなっていた。2010年代の初め、胡錦涛政権末期になると、地方の役人が数百万円もするスイス製の腕時計をして、数億円のマンションに住み、ベントレーやフィラーリなどの高級車を乗り回すようなレベルまで腐敗が公然と行われるようになっていた。
有名な例をいくつかあげてみよう。
胡錦涛の腹心の部下だった令計画という高級官僚の息子が、北京市内でフェラーリに乗っている時に派手な交通事故を起こした。このバカ息子は、コカインを吸いながら裸のモデル数人と一緒にフェラーリに乗っていたらしい。この一件が原因か、令計画はその後失脚している。
一時は、次期共産党書記長の声も出ていた重慶市の薄熙来市長の妻が、海外への不正な送金に絡んで、協力者だったイギリス人のコンサルタントの殺人容疑で逮捕された。また薄熙来の息子は、親のコネでハーバード大学に留学、ボストン市内に高級マンションを借りて、これまたフェラーリを乗り回していたのを暴露されている。
北京にある外資系超高級ホテルの敷地内にあったVIP向けの会員制KTV(カラオケクラブ)が、当局に摘発された。このKTVでは、北京市内にある女優や音楽家を養成する国営大学の女子大生が、共産党の高級幹部やビジネスマン相手に売春を大規模に行っていたそうだ。
これはほんの一部で、カリフォルニアのパサデナ市には、中国の高級官僚の愛人たちが100人以上住む、中国愛人村という場所がある。この中国人女性の愛人たちは全員妊娠しているそうだ。アメリカで出産をすれば、仮に両親が中国国籍でも、子供にアメリカ国籍が与えられる。そして親にも永住権やビザが与えられる。アメリカのビザ狙いで中国の高級官僚たちが妊娠初期の愛人を計画的にアメリカに送り込んでいたのだ。
こうした状況の元、2008年の北京オリンピック、そして上海万博が開かれる頃になると、中国全土に似たようなマンションやショッピングモールが林立することになった。
当初は、純粋な開発目的だった土地売却が、最後の方になると、土地売買を利用した汚職と公金横領が目的になり、意味もない高層マンションやオフィスビルが林立することになった。

融資平台とは日本の三セク

実は、融資平台などを利用した仕組みの元になったのは、1980年代のバブル期に日本で流行した「第三セクター(略して三セク)」だ。当初は、バブルによる土地高騰対策として、公共工事用の土地を事前取得する目的で設立されていた。ところがバブルが崩壊し始めると不良債権化した土地の「ゴミ捨て場」となった。地元の政治家関係の建設会社や不動産会社、果ては反社の地上げ屋が売り抜けに失敗した土地などが、政治家やブローカーの口利きで三セクに吸収されていった。資金は地元の地銀や信金が「地方自治体の暗黙の保証」のもとに融資していた。
三セクのその後の展開はご存じの通りだ。取得した土地を処分できないまま、融資の利払いだけが嵩んでいった。ちなみにバブルピーク時の銀行融資の金利は8%台だ。三セクは数年もすると出資金である自己資本を使い果たして債務超過になり、破綻処理が避けられなくなった。そして各地で地方自治体の暗黙の保証を要求する金融機関と、保証などしていないと逃げる地方自治体の間で訴訟が頻発した。その中でも一番有名なのが「お台場」と「豊洲市場」の土地を持ていた東京都関連の三セクだ。
中国で不動産バブルが崩壊すると、1990年代の日本と同じことが起きるだろう。不動産市況の低迷で土地売却収入が枯渇した地方政府は、ノンバンクを利用して自分で土地を落札して開発を続けようとしているようだ。当面はなんとかなるだろうが、実需が付いてこない場合には、利払いが自己資本を喰いつくして、最終的には債務超過からの破綻処理は避けられなくなるだろう。今はその初期段階だ。

中国発、金融パニックが起きる場合

今後中国で不動産バブルが崩壊した場合には、危機が発生する経路がいくつか存在する。一つずつ検討してみよう。

住宅ローンのデフォルト

一つ目はマンション購入者が住宅ローンを踏み倒す場合だ。問題になっている恒大集団の場合、負債総額が48兆円と伝えられている。通常はマンションの前払い金は、不動産会社の負債の半分程度だそうだ。そうなると20兆円から30兆円程度の前払い金があることになる。中国のマンション価格は都市部では1億円を越えているが、地方では3000万円程度だ。中間をとって5000万円とすると、住宅ローンを借りて前払いをしたマンション購入者は、50万人程度になるだろう。
中国市場全体では、不動産会社の負債が400兆円程度と言われている。同じ方式で概算すると、200兆円の前受け金があることになる。すると400万人のマンション購入者がいることになる。もちろん全てのマンション建設が途中でストップする訳ではないだろうが、100万人単位のマンション購入者が返済ができずに破産に瀕する可能性がある。
住宅ローンの滞納が一定レベルを超えた場合には、ローンを提供している地方銀行の経営を揺るがす可能性が高い。
以前であれば、中国では、銀行の破産や清算、ましてや預金のペイオフなどは、公的資金を投入して回避されてきた。しかし共同富裕を掲げる習近平政権が前例に従うかは未知数だ。場合によっては、今まで採られたことのない厳しい政策がとられるかもしれない。
ただ、この場合でも破綻や清算に瀕するのは、住宅ローンを提供している地方都市レベルの銀行にとどまるため、国際金融市場を揺るがすような事態には発展しないだろう。
恒大集団の破綻処理では、マンションの建設中断による社会的な混乱を避けるために、地方政府が建設が中断したマンションを接収して工事を継続させているようだ。

融資平台の破綻

次に考えられるのが地方政府が設立した融資平台などのノンバンクや、その関連会社、子会社などの開発会社が破綻する場合だ。この場合には、日本の三セク破綻と同様に、多額の融資を実行した地方の銀行などが不良債権の山に喘ぐことになるだろう。
最終的には、日本のバブル処理と同様に中央政府が公的資金を投入することになるだろう。しかし同時にモラルハザードを防ぐ意味から、関係者の処罰や破たん処理が行われるだろう。もし腐敗が明らかになった場合、中国の処罰は類を見ない厳しいものだ。終身刑や死刑になる場合もある。今はないようだが、20世までは、広場で腐敗官僚の公開処刑が行われていたほどだ。

不動産会社の接収、国有化

その他にも不動産会社を国有化してしまう場合や、土地やマンションを接収してしまう荒業も共産党独裁で社会主義体制の下ではあり得なくない。
よく考えれば、不動産会社の不良在庫も、元々「国有」だった土地を競売にかけたものだ。接収して再度売り出せば、ある意味政府は二重に儲けることができる。安値で買い取っても一緒だ。

処理の基準は共産党と社会の安定

いずれにしても、不良資産の処理は「社会の秩序の維持」と「共産党独裁の安定」を基準に決められることになるだろう。西側諸国のようにマスコミと選挙民の顔色を伺いながら右往左往するということはない点は留意しておいたほうがいいだろう。
またいずれの場合にも、中国の金融市場と人民元が、国際金融市場から遮断されているため、中国国内での破綻処理が、リーマンショックの時のように、直接世界の金融市場を揺るがす事態は想定しずらいだろう。

中国の国内経済への影響

中国では、政府の公式な統計でも、不動産業が国内GDPの13%程度を占めている。関連産業を含めた実態としては30%以上だろう。
もし不動産バブルの崩壊が本格化すれば(既に本化しているかもしれない)、建設業など以外にも広告などかなり広い業種に影響が及ぶことは避けられない。GDPが数%減少しただけで大不況になることを考えると、大規模なバブル崩壊は、一種の恐慌状態を意味する。

大規模な救済の悪影響

予想される金融パニックの項目でも述べたが、中国経済全体としては、巨額の経常黒字を維持しており、過去の黒字の累積も数百兆円はあるだろう。またCPIが足元でマイナスに転じていることからも、中央政府が数百兆円規模の大規模な救済策を実施しても、マクロ的な問題は起きないだろう。

失業率の増大と社会不安

中国経済は輸出依存度が高いとは言え、不動産バブルが崩壊すれば、家電や家具、自動車などの耐久消費財の売上に大きな影響が出る可能性が高い。そうなると失業率の上昇はさけられないだろう。既に若年層の失業率が、公式統計の倍以上の40%台に達しているという報道もある。
失業率が上昇するに従い、社会不安が高まる可能性はある。一方で、中国政府は、豊富な資金力を背景に大胆な対策を実行する余地もある。中国共産党の独裁を揺るがす事態にまで発展する可能性はそれほどないと考える。

モラルハザードの回避

不良債権処理での問題は、むしろ救済によるモラルハザードの回避だ。責任追及が中途半端な状態で大規模な救済を実施すると、結局のところバブル経済を生んだ経済社会構造を温存してしまい、近い将来また同じようなバブルが生じかねない。実際に過去30年近くに渡って、中国ではバブルと崩壊が繰り返されてきた。
この点では、市場経済の福音を唱えてきた西側諸国も同じだ。当初は日銀のゼロ金利政策は、日本だけの例外とされていた。しかし、西側諸国も結局はリーマンショックで超低金利政策だけでなく、量的緩和政策の導入に追い込まれた。ある意味資本主義も既に死んでいると言えなくもない。
中国が、モラルハザードを回避しつつ不良債権の処理を行う新たな方法を開発するか見ものだ。もしかしたら10年後には中国の方法が世界標準になるかもしれない。

世界経済への影響

次に仮に中国で不動産バブルが崩壊し、大規模な金融危機が発生した場合の世界経済への影響を考えてみたい。

資源価格の下落

まず最初に予想されるのが資源価格の下落だ。例えば鉄に関しては、中国が一国で世界の50%ほどを消費している。中国で建設が止まると鉄に対する需要が世界的に10%以上消滅する可能性がある。
また鉄以外にも電線などに使われる銅やステンレスに使われるニッケルなどの非鉄金属もかなりの量が中国で使われている。

船舶市況への影響

資源価格に関連して予想されるのが、船舶市況の低迷だ。特に鉄鉱石や石炭などの輸送に使われているバラ積み船が余剰になることが予想される。コロナ禍からの回復過程で海運業界は今のところ絶好調だが、中国でバブル崩壊が本格化すると、この海運バブルも終焉を迎えるかもしれない。

輸出への影響

対中輸出依存度の高い日本にとって一番心配なのが対中輸出の急減だろう。結論から言うと、輸出への影響はそれほど大きくならないだろう。不動産バブルが崩壊すると、家具やテレビなどの大型耐久消費財の需要が減少することが予想される。しかしご存じの通り、いま世界で売られている家電や家具の大半が中国で製造されている。不動産バブルの崩壊したとき影響が一番大きいのは、皮肉なことに中国になるかもしれない。
また、対中依存度の高い企業を見るとコマツなどの建機や空調のダイキン、資生堂などは中国市場での売り上げが高く悪影響が出るだろう。
しかし村田製作所やTDKなどは、中国で組立を行い再輸出しているスマホの部品が輸出品の大半を占めると思われ、影響はそれほど受けない可能性が高い。対中依存度の高い企業といっても事情は様々であり、個別に検討を要する。

インバウンド

そもそも十三億人の中国人民のうち、海外旅行に気軽に行けるのは、まだ少数派のアッパーミドル以上の富裕層だ。そして不動産バブルの崩壊の影響を一番受けるのも、このアッパーミドルの階層になりそうだ。
最近は中国の内陸部の2線級都市からも、LCCを使った観光客の訪日があるようだ。上海などの大都市と違い、内陸区部の都市などは、不動産バブル崩壊の影響をより強く受ける可能性が高い。インバウンドへのある程度の影響は避けられないだろう。

国内外の不動産市場

最近は、日本国内でも中国人による不動産の爆買いが話題になる事が多い。しかし国内外の不動産市場への影響も未知数だ。素直に考えれば、中国国内の不動産で出た損失を穴埋めするために海外の不動産を売却したり、新規の投資を手控えたりすることが予想される。
しかし強権的な習近平政権のやり方に恐怖感を抱いた中国の富裕層が、もてる資産をあらゆる方法で海外に持ち出そうとするかもしれない。そうなると海外逃避資金のかなりの部分が海外での不動産取得向かうかもしれない。意外にも海外不動産は上昇することも有り得る。

安い中国が戻ってくる

中国は2022年から人口減少局面に入っており、21世紀に入ってからのグローバル化を支えた「安い中国」は、過去のものになったと思われていた。最近の世界的なインフレも、その背景には中国の人手不足があるとの見方もあった。
しかし不動産バブルが崩壊して中国国内で人と物が余るようになれば、再び「安い中国」が帰って来るかもしれない。
そうなれば、インフレに喘ぐ世界にとっては、むしろ歓迎すべきことになる。

習近平頭の中、現代の毛沢東

現在、中国のトップを務める習近平共産党総書記は「共同富裕」とのスローガンを掲げている。これは、それまでの改革開放路線のスローガンの一つだった、先に豊かになれる者から豊かになれと言う鄧小平の「先富論」を正面から否定するものだ。習近平が、前任の江沢民や胡錦涛とは、まったく異なる方針を掲げていることが良く分かる。
それでは、習近平は如何なる思想の元に政策を勧めているのだろうか。以下は一つの仮説だ。

度重なる政治闘争

習近平の思想の元になっていると考えられているのが、今の中国を作った毛沢東であることは言を待たない。
その毛沢東は、存命中に度々「政治闘争」を仕掛けている。
反右派闘争から始まって最後の文化大革命まで、10年置きぐらいの間隔で政治闘争をしている。
この度重なる政治闘争の目的としては、もちろん自分の権力基盤の強化もあるだろう。だが根本にあるのは、只の権力欲とは別の理由だとの説もある。
それは「権力が必ず腐敗する」という問題だ。当初は農民や労働者など一般庶民が先導した革命や改革も、一旦ある組織が権力を握ると、最終的にエリート層が権力を握り、庶民を搾取して腐敗していくという確信に近い思いだ。
今の人民解放軍が、まだ「紅軍」と呼ばれていた1930年代、毛沢東は兵士が農民から食料などを略奪することを厳しく禁じた。そしてこの禁を破った者は、銃殺刑を含む厳しい処罰を受けた。
この紅軍の清廉潔白な行動が、高い税金や搾取に苦しんでいた貧しい農民たちの心を捉え、自主的な共産党への協力を引き出した。中国共産党が近代兵器を備えた遥かに強力な中国国民党軍に勝利できたのは、この農民たちの支持のおかげだ。
腐敗を防ぎ、政府や党、その他の組織が農民や労働者など社会の底辺にいる人民に奉仕する存在で居続けるためには、絶えず”政治闘争によるエリート層の浄化”が必要と毛沢東が考えていたとしても的外れではないだろう。もちろん毛沢東を批判する側の人間からすれば、毛沢東自身が、あたかも現代の皇帝の様に振舞っていたのは間違いない。しかしそれでも、腐敗に対する連続した政治闘争が革命を浄化すると考えていたとしてもおかしくない。

新たなる政治闘争

今中国で起きている未曾有の不動産バブル崩壊も、ただのバブル潰しや経済政策と見るのは間違いである可能性が高い。
むしろ高いのが、毛沢東が度々仕掛けた「政治闘争」の新バージョンである可能性だ。
その目的は、過去40年の改革開放で腐敗しきった中国共産党を浄化し、貧しい農民や労働者などの底辺にいる人民に奉仕する初心に立ち返らせることかもしれない。
もしそうであるなら、西側の人間が考える合理的な方向に中国が向かう保障はどこにもない。




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