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【ドローンとAiが国民を不要にする】その2:ドローン革命で近代国家は解体する。
以前のnoteで、近代国家は「国民軍」という軍隊のために作られたという話をした。そして原爆、核兵器の開発で、近代的軍隊の軍事的能力は既に無効化されていることにも触れた。
軍隊を支えるために登場した近代国家は、第二次世界大戦後に”冷戦”という疑似戦争で莫大な軍事費を浪費しつつ、本来は兵士として養成した国民に余剰生産物を消費させる市民国家に鞍替えした。
そして東西冷戦という疑似世界大戦が西側陣営の勝利に終わったことにより、リベラル民主主義と消費主義がグローバリズムの名のもとに世界を席巻することになった。
しかし米国のトランプ現象や欧州での極右の台頭、インドやブラジルなどで構成されるグローバルサウスの台頭による米国の相対的な力の低下など、このリベラルデモクラシーと大衆消費社会が結びついたグローバリズムも曲がり角に差し掛かっている。
そこに登場したのがAiとドローンの組み合わせによる軍事革命だ。この軍事革命は、世界の政治・経済・社会を根本的に作り変える力を秘めている。
50年前のマイコン革命
冷戦期のたけなわの1970年代に、それまでの数万個のトランジスタを利用した箪笥大の大型のコンピューターに代わって、指先に乗るICと呼ばれる集積回路が登場した
このICや後のLSIの開発により、マイクロコンピューター革命が始まった。あらゆる家電製品に”マイコン”が組み込まれると同時に、兵器にもマイコン化の波が押し寄せた。
因みに1980年代に日本企業がウォークマンやVTR、携帯型ゲーム機で世界を席巻したのも、このマイコン革命の副産物だ。
TV誘導爆弾
兵器へのマイコン利用の嚆矢となったのが、ベトナム戦争で初めて利用されたTV誘導爆弾だ。
ベトナム戦争中にアメリカ軍は、北ベトナムのハノイに対する北爆を行った。その北爆の最大のターゲットの一つが、ホーチミンルートの北端にあるハノイ郊外を流れる紅川(ホンガワ)に架かる鉄骨で出来たトラス橋だった。米軍は、この橋を破壊しようと数百回に及ぶ爆撃を行った。
しかし、ソ連から供与された防空ミサイルであるSAMに守られたこの橋の防備は固く、数百回にも及ぶ爆撃でも破壊することが出来なかった。この橋への爆撃だけで米軍は数十機の戦闘機や爆撃機を失った(そして多くのパイロットが捕虜になった)。
そこに最終兵器として登場したのが、TVカメラ付きの元祖”スマート爆弾”だった。米軍のベトナム撤退直前の1972年に初めて試験的にテレビ誘導爆弾による空爆が行われ、そして見事命中させることが出来た。このTV誘導爆弾の登場こそが、第二次大戦中のナチスによる初期のラジコン爆弾以来、本格的なスマート爆弾の登場した瞬間だった。
湾岸戦争
兵器のマイコン化の集大成と呼べるのが、1991年の湾岸戦争だろう。この戦争では、TVに替わってレーザーで誘導される”スマート爆弾”が大量に使用されるとともに、マイコンのプログラムで自立飛行する”トマホーク巡航ミサイル”が初めて実戦で使用され、世界に衝撃を与えた。
特に高度30メートルの超低空をジグザグに飛行し、自らターゲットの画像を確認しながらピンポイントで命中する巡航ミサイルは、まさに今のドローンの元祖と呼んでいい画期的な兵器だった。
ドローン登場
そして21世紀に入り、ドローンが本格的に登場したことにより、世界中で新たな軍事革命が本格化し始めた。
特に9・11同時多発テロ後のアフガニスタンでの戦いでは、従来の有人軍用機に替わってプレデターという名の偵察ドローンが大量使用されることとなった。
また程なくしてより大型のリーパーという誘導ミサイルを搭載した本格的な攻撃ドローンが登場した。この攻撃ドローンは、衛星回線を通じてアメリカ本土からパイロットがリモートコントロールすることで運用された。
このドローンの軍事利用は、ブッシュ政権を引継いだ民主党のオバマ政権時代に更に拡大され、一時はアフガニスタンを中心に100機以上が運用されていた。
また2003年に始まったイラク戦争などでは、携帯電話を利用したIED(即席爆発物)が、イラクの反米勢力により大量に使用され、米軍に甚大な損害を与えた。
このIED自体が、携帯電というマイクロコンピューター技術の副産物と言えるだろう。
そして、これらのIEDを処理するために、初歩的なリモコンのロボットが使用され始めた。今では家庭の掃除ロボットで有名な「ルンバ」も、元をたどれば爆弾処理ロボットだ。
ディープラーニング
さらに2010年代に入るとディープラーニングという本格的なAiが出現し始めた。
2015年には、Google傘下のDeepmind社が開発したアルファ碁と呼ばれるディープラーニングシステムが、囲碁の世界チャンピョンを破った。そしてそれから僅か7年後にの2022年蔵には、OpenAIからChatGPTという生成Aiがリリースされて世界に衝撃を与えた。
また中国や米国などでは、自動運転車の実用化が試みられている。
このディープラーニングとドローンが組み合わさることにより、人間を介さない「完全自立型の兵器」が俄然、現実味を帯びてきた。
軍の無人化
このAiとドローンの組み合わせによる軍事革命により、軍事の無人化が本格的に進展し始めた。
既にウクライナ戦争では、大量のドローンが戦場に投入され、戦車や装甲車、そして生身の兵士までもがドローンに追い回される事態となっている。
またイスラエルでは、アイアンドームとう防空システムが、ほぼ無人でハマスやヒズボラが発射したロケット弾を撃墜している。
一方で紅海では、イエメンのイスラム武装勢力であるフーシー派が、海賊対策で紅海に展開している西側諸国の軍艦に対して、多数のドローンを用いた所謂「スウォーム攻撃」で脅威を与えている。一隻数百億円する先進国のイージス防空巡洋艦が、たかが数十万円から数百万円のドローンによる攻撃に晒されて苦戦している。
今後も世界各国でAiとドローンによる軍の無人化が急速に進むことは疑いのなないことだろう。
もはや大量の生身の兵士は不要になりつつある。なにしろエリート軍人の象徴であるパイロットさえ不要になりつつあるのだ。
そして、軍の本格的無人化と自律型兵器の戦場への本格的導入は、フランス革命以来続いた国民軍と近代国民国家の組み合わせの終焉をも意味するだろう。
PMCによる国防の民営化
Aiとドローンによる軍の無人化が急激に進むに従って、もう一つのトレンドが出現する可能性がある。それが軍の民営化だ。
既に世界の多くの紛争地域で、PMC(民間軍事会社)が活発に活動している。また紛争だけでなく、国連の人道支援などでもPMCが警備やロジスティック、通信の確立などの分野で活躍している。
人材難
Aiドローンにより軍の自動化が進むに従って、各国の正規軍はITやAiなどに強い人材の確保に苦労するようになっている。
以前なら、軍では偏差値50程度の平均的知能の体の丈夫な若い兵士が求められた。30キロの背嚢を背負い20キロのライフルと弾薬を肩に担いで一晩で20キロ行軍する体力が第一条件だった。
しかし時代は変わり、軍に必要なスキルは変化してきている。
今後、軍事分野で必要となるITスキルのある人材は、産業界でも引っ張りだこだ。高スキルの人材には、グローバルIT企業は、年収数千万円を躊躇なく支払う。
結果として政府は、Ai軍隊に必要な人材を確保できなくなるだろう。
人件費の上昇
また以前なら、機関銃に向かって突撃する文字通り使い捨ての駒だった国民軍の兵士も、現代国家では、国家公務員として、退職すれば恩給(年金)を、戦死した場合でも遺族に十分な遺族年金を支払う必要がある。正規軍は、途轍もなく高コストになっているのだ。
人材難と人件費の上昇を解決する手段は、世界共通だ。そう”民営化”だ。
民間委託
既に世界各地の紛争地帯で、多くのPMCが活発に活動している。イラク戦争で有名になったアメリカのブラックウォーター社などに加えて、最近ではウクライナ戦争でロシアのワグナーグループが話題になった。
今のところ世界で活動しているPMCの大半が、退役軍人などを使った所謂”傭兵部隊”の域を出ていない。
しかし戦争の主要な手段が、従来型の兵器からAi化されたドローンやロボット兵器になった場合には、現在のITプラットフォーマーのような企業がPMCの主流になるかもしれない。
そして、一度戦場の主導権が民間企業に渡ると、むしろ既存の政府機関より最新鋭の兵器を効率的に開発、配備そして運用できるようになる可能性が高い。
既に多くの国で、ネットを使った情報収集やサイバー戦の分野で、民間企業が業務委託の形で軍事分野で活動している。そのなかには、大手の企業も多数含まれる。また一部の国では、軍の側のITやサイバーに関する知識が、民間に追いつかなくなってきている。民間企業が行っている業務内容が”ブラックボックス化”しつつある。
以上の状況を勘案すると、近い将来の何れかの時点で、人材や知識の不足から民間企業のサイバーでの活動内容を政府や軍の側が把握しきれなくなり、主客が逆転する現象が起きるだろう。
兵士=国民が負担に
従来型の多数の兵士で構成される国民軍が、PMCが運用するAiとドローンを主体とする民間軍事サービスに置き換わると、若くて体力だけが取り柄の頭の悪い大量の兵士は不要になる。
そして不要になるだけでなく、国民(=兵士)自体が、「負担」になるだろう。
人口の急増
200年前起きた国民軍と近代国家の成立による副産物の一つに「人口の急増」があげられる。国家により公衆衛生が普及すると、まず乳児死亡率が急激に下がった。また各国とも巨大な軍隊を編成し、軍を支える大量の兵器を生産するために大量の労働者を必要とした。
そのため、各国とも人口の急増を歓迎した。日本でも「富国強兵」、「産めよ増やせよ」と人口の増加を奨励した。
また第二次世界大戦中にペニシリンなどの抗生物質が開発されると、それまで不治の病だった結核などの感染症の死亡率が急減することで、成人死亡率も急減することになった。
核兵器により近代的な国民軍が無効化された後でも、この大量の国民は、労働者かつ消費者となり、国家経済に寄与し続けてきた。
しかし今や、急増した国民は、多くの国で高齢者となり、国家を圧迫し始めている。
有り余る老人
21世紀に入ると日本をはじめとする一部の国で高齢化が急速に進むことになった。特に日中韓の東アジア諸国、また同じ東アジア系の台湾、香港、シンガポールでも急激に高齢化が進んでいる。
特に日本では、21世紀に入ると高齢者の急増が財政を圧迫し、国家予算の実質的に半分が、年金や国民健康保険、介護などに消える事態になっている。
また高齢者が、実質的に有権者の半分を占めるようになっていることから、有権者の抵抗で政治が停滞し、変化に対応した改革が不可能にもなっている。
今のところ多くの国で高齢者が資産の大半を保有していることから、政府も企業も高齢者を優遇している。しかし将来、資産を持たない貧困高齢者が街に溢れれば、高齢者への年金と医療の負担から国民国家自体が瓦解する可能性が高い。
財政破綻
先進国では、押し並べて高齢化が進行している。このため近い将来の何れかの時点で、膨れ上がる年金や医療、介護の費用を既存の政府が負担しきれない局面が到来するだろう。
既存の政府や官僚機構は、富裕層や若年層に対する課税を強化することで、何とか高齢化の費用を賄おうとするだろうが、すぐに限界に達するだろう。
後に待っているのは財政の破綻だ。
一部では生産にAi化されたロボットを大量導入し、高齢化と労働力の減少に対処しようとの案もあるようだが、上手くいくかは未知数だ。
国民の脱出
多くの国では高齢化による財政の圧迫が進行する。当然のことながら現役世代に対する負担が増加することになるだろう。
高齢化が世界一深刻な日本では、既に税と社会保障費を合わせた実質的な国民負担率が50%を超えている。そして近い将来、その比率は6割を超えるとも言われている。持続不可能なのは明らかだ。
しかし一方で、高齢者も含む国民一人一票の現行の民主制では、高齢者に不利な政策を実施することも不可能だ。
そのような場合に考えられるのが、若者と富裕層の国外脱出だろう。
既に日本でも、一部の富裕層が税率の安いシンガポールやドバイに脱出し始めている。
このような高い税負担を嫌った海外脱出は、以前から欧米では一般的なことだ。有名なモナコやスイスだけでなく、カリブ海諸国やマルタやキプロスなどのタックスヘブンの利用が、富裕層の間では常識だ。
またアメリカでは、デラウエア州やネバダ州などの低税率地域や信託を利用した相続税を無税化する手法が富裕層の間では一般的だ。
日本でも、高齢者への社会保障の財源を確保しようと税を引き上げると、若くて優秀な国民から海外脱出してしまう可能性があるだろう。
近い将来多くの民主制を採用している国家が、税金の引き上げと国民の海外脱出の板挟みにあうことが予想される。
ビットコイン
海外脱出までしなくても、高齢化による負担を逃れる手段が存在するかもしれない。その一つがビットコインに代表される仮想通貨(または暗号資産)と呼ばれる無国籍のデジタル通貨だ。
理論的には、ビットコインなどの無国籍暗号資産を利用することで、近代国家による課税を回避することが可能だ。
高齢化による社会保障費の増大で国家財政が破綻した暁には、暴落した通貨に替わって暗号資産が日常の経済活動に利用されるようになるかもしれない。
もちろん政府や官僚機構は、税務署や場合によっては警察権力を行使して暗号資産を利用した取引に対する課税を試みるだろう。
しかし財政が破綻し、公務員、特に警察官などへの給与の支払いが滞る状態になった場合には、効果的な課税が不可能になるかもしれない。
当然、治安も急速に悪化するだろうが、その場合には、正に既存の警察に替わって、ドローンで武装した民間の警備会社が治安の維持を担当するようになるかもしれない。
また富裕層が多く住む自治体などでは、自治体が民間の警備会社と契約し、税務署や警察など既存の国家機関をバイパスする荒業に出るかもしれない。
国民軍の敗北と近代国家の崩壊
近代国家(というか全ての国家)の権力の源泉は「暴力の独占」だ。そして、暴力を独占できるかは、国家の構成員から効果的に税を取り立てられるかにかかっている。
もし国家の税収を脅かすほどの大量の富裕層や若者が、税の支払いを拒否し海外脱出した場合には、既存の国民国家は、最終的には軍事力を使った差し押さえや富裕層の身柄の構想など暴力による強制徴収を行おうとするだろう。
しかし富裕層に人気のあるドバイのような都市国家は、既存の国民国家による税の徴収、財産の没収に抵抗するだろう。
そして、場合によっては都市国家と既存の国民国家の軍事衝突もあり得る。
今までなら大量の兵力と資源を有する国民国家の圧勝だったろうが、Aiとドローン兵器が主体となる未来の戦場では結果は分からない。
また国家同士と言わず、国内の富裕層が暗号資産と民間軍事会社の組み合わせで既存の国民国家による支配に対抗した場合にも、国民国家側が確実に勝利できるかは不透明だろう。
21世紀のベニス
中世からルネッサンス期にかけて、ヨーロッパで最も栄えていたのは、北イタリアのベニスやミラノなどの都市国家だった。
近世になり強大な国家となったフランスや英国は、当時は野蛮な田舎の貴族の集団に過ぎなかった。
近い将来、Aiとドローンが軍事力の中心になり、大量の兵士を主体とする国民軍が時代遅れになるとともに既存の国民国家が衰退した場合、替わって21世紀のベニスと言えるような都市国家が世界各地に勃興するかもしれない。
そして私自身はこのような都市国家のことを”メガシティー”と呼んでいる。
次のnoteでは、この新しく勃興する可能性のある”メガシティー”を中心とした世界について考察してみたい。