転んじゃった(涙) タダでは 起きないようにしないとね
比喩ではなく、転んでしまった。
駅の階段を下りている途中、電車が来ているのが見えた。
その電車に、乗りたかった。
暑さゆえ、次の電車までの数分をケチった。
階段を一段飛ばしで降りようとしたところ、着地したつもりがサンダルの底が滑った。
足首がぐにゃっとなって、ズザザザザーーー(涙)
…………しばし、茫然自失。
え……折れた?
折れてないよね??
「―――大丈夫ですか!」
まず若い青年が駆け寄ってきてくれた。
すぐあとに、同世代くらいの女性も。
みんな、優しいよね。ありがとう。
しばらくはカラダが痛くて動かせず、オロオロした。
暑さゆえか、冷や汗か、恥ずかしさゆえか、体中の汗という汗が一気に噴き出した。
とにかく立ち上がらねば。
どうにか立ち上がって、残りの階段を降り、一歩二歩と脚を動かしてみる。
「ありがとう……なんとか歩けそうです、大丈夫です」(←ウソ)と伝え、見守ってくれたお礼を伝え、二人と別れた。
うおーーーーー。
ああ、バカ!!!
ホント、バカ!!!
さっきまで、スタスタ歩けていた脚が、今はもうない。
一寸先は闇とは、このことよ。
両足が信じられないほど痛く、なんとか駅のホームまで歩いて、地面にしゃがみこんだ。サンダルを脱いで足の甲を見ると、青く内出血を起こし、早くも腫れはじめている。
なんで、両足の甲を負傷しとるんだ??
どんなコケ方したんだろう。
カラダのあちこちに、ただ激痛が走っている。
ああああ、マジでバカ!!!!
どうすりゃいいんだ、このまま家に戻ろうか?
今日は母の代わりに、母の病院の予約を取りに行くところであった。
今、家に帰ってしまうと、再び病院に行けるのが、いつになるか分からない。しばらく歩けなくなるかもしれない。
このまま、行くしかねぇ……!!
ズルズルと牛歩のように脚を動かしながら、次の電車に乗り、病院まで行った。
本来なら、母の病院の予約をサクッと済ませて帰る予定だった私。しかし現実は、杖をつく高齢者に追い越されながら、壁づたいに歩く私。シュールすぎた。
イヤ、私は、さっきまでは、健康体そのものだったんですよ!! ホントなんです!!
と、誰かにナゾの釈明をしたかった(笑)
数年前、医師から乳がんを告げられたとき、数分前まで健康だった私が、いきなり「ガン患者」になり、世界のステージが変わったのを感じた。
「当たり前に想定していた未来が来ない、らしい……」
知らないパラレルワールドに、突如移動させられたみたいだった。
そのことを、脚を引きずりながら、思い出していた。
……そう、いつだって、不運は不意をついてやってくる。
不運のレベルも質も、さまざまだろうが、いつだって不意打ちなんである。
抗がん剤中、あまりにカラダがしんどくて、「ただ普通に歩ける奇跡を一生涯忘れるな」と、私は自分にかたく誓っていたが、すっかり忘れていた。
診察の順番がやってきて、ズルズル脚を引きずりながら、診察室に入ると、消化器外科の男性医師に挨拶をする。
ギクシャク、ロボットみたいに椅子に座る私は、挙動不審のあやしい人物である。
(センセーー。助けてくれ―――い!)
……と言いたいのを堪えて、母の次回の検査の書類を受け取り、検査日程や時間の確認をする。
母の食道ガンの治療から、もうすぐ5年であるな……などと感慨にふけっている場合ではない。
母の予約の確認を終えた私は、おもむろに医師に話しかけた。
「それでですね、先生……実は私、さっき転んじゃって」
駅の階段の一件を、先生に説明し、足の甲を見せた。
「シップかなんか、もらえたりしませんか。先生にお願いするようなことじゃないかもしれませんが……今、シップを処方していただくことは可能ですか」
と泣きついてみた。
消化器外科の医師は、私の脚を見て、「あららら」と同情を示し、「大丈夫です、処方できますよ」とシップの他に、痛み止めなども処方してくれた。
よかった、「別の科に行け」とか面倒なことを言われずに済んだ。
先生、ありがとう。
よし、苦労して病院に来た甲斐があったぞ(笑)
私は会計を終え、もらったシップをその場で両足の甲に貼り付けると、またずるずると脚をひきずって病院を出て、今度はタクシーで帰宅した。
高い出費となった。
そんなわけで、
「真夏の大冒険」となりました。(オリンピックにちなんで……)
……とか言ってる場合じゃなくて、みなさん、私みたいなバカなケガをしないよう、どうぞ気を付けてくださいね。
私としては、このバカなケガを、「普通に歩ける幸せを思い出せ」との啓示だったと受け止めることとしよう。
そうでも思わないと、やってられないんである(笑)
転倒から数日経ち、幸い骨は折れていないようだし、激痛も和らぎつつある。不幸中の幸いであった。
外出はまだできないが、家の中でひょこひょこ歩きながら、「普通に歩けることのありがたみを、すっかり忘れててすみません」と天に向かって謝る日々である。