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#0021 一冊の書籍との付き合い方は、一人の人間との付き合い方と同じ(本を読み通し、知を定着させ、活用するために)

おつかれさまです。坪谷つぼたにです。

今回は、私の読書法をお伝えしてみようと思います。実施した「ビジネスパーソンの読書実態調査」によれば、人事の皆さんは、読書後の知の定着と活用ができずに困っているようでした(人事千壺#0020参照)。

私も仕事柄、本をたくさん読み、その知を使いこなす必要があります。困ったことに、重要で読むべき本ほど、難解なことが多いのです。知の定着や活用の前に、そもそも読み通せない。途中で投げ出してしまった本がたくさんあります。読んだ方がいいんだよなあ、と思いながらも積まれていく本たち。そこで見出したコツは・・・

「本と仲良くなる」

・・・おかしなことを言っていると思われるかもしれませんが、私は一冊の書籍との付き合い方は、一人の人間との付き合い方と同じ、だと考えています。

心理学者ロバート・ザイオンスによれば、人の心というのは関心がない相手であっても、何度も会ったり目に触れたりしているうちに、だんだんと好きになっていく特性あるのだそうです。これを「単純接触効果」と言います。

本もまた同じ。とつぜん、深く分かりあうことはできないのです。はやく知を定着させて活用しようと焦らずに、なんども接点をもって距離を縮め、じっくりと仲良くなっていく。これがコツなのです。

さて、では仲良くなるために、どうすれば良いのでしょうか?5ステップあります。


Step1.まず本を買う(お迎えする)

まず本を買いましょう!
あなたの家に、または職場に、お迎えしましょう!

仲良くなるために、つまり単純接触効果を狙うためには、接触の回数をあげなければなりません。いつでも目に入る、すぐに触れることができる、それが何よりも大切です。

また、Step4で後述するように、本は「書き込む」ほど仲良くなれます。借りてきた本には書き込むことができません。本屋さんで立ち読みしたり図書館で読んだりして「これぞ!」と思った本、「仲良くなりたい!」と思った本は必ず買いましょう。古本でも問題ありません。線を引いたり書き込んだりできるのならば電子書籍でもOKです。

お金を払ってお迎えした本には、愛着が湧きます。逆に、無料で手に入れた本は、どうしても粗雑に扱ってしまいます。仲良くなりたいときは自分のお金で買いましょう。

どんな素晴らしい名著であっても、多くは数百円から数千円、どんなに高くても数万円で手に入ります。しかし、その中身は作者が人生を費やし、魂を込めて書いたもの。まさに知の結晶なのです。仲良くなったあと、あなたにもたらしてくれる価値を考えれば、めちゃくちゃコスパが良いと思います。

2000年以上前のアリストテレスの知が860円!なんというコスパの良さ

Step2.積ん読する(背表紙が見えるように)

本を積んでおくこと、俗に積ん読つんどくと呼ばれるこの行為は、ふつう悪いことだと考えられています。「積ん読が増えてしまって•••」という人はたいてい情けない顔をしています。しかし私は積ん読は、その本と仲良くなるための大切なステップだと考えています。「積ん読が増えているって?それは素晴らしい!」

「積ん読も読書」なのです。

積ん読のコツは背表紙が見えるように積むことです。本棚にならべてももちろんOKです。背表紙が見えて、毎日そのタイトルが目に入ることが重要です

そうすると無意識のうちに、その本との接点は増え続け、単純接触効果によって、あなたはだんだんとその本を好きになっていきます。知らず知らずのうちに高まった「この本を読みたい欲求」は、何かのきっかけで臨界点を超えるのです。

あなたはその本を手に取って、読み始めてしまうことでしょう。「読まなければ」という切迫感や脅迫観念はまるでなく、むしろ自然なワクワクする行為として

私(坪谷)の机に置かれた読むべき本たち。コツは背表紙が見えること!

Step3.表紙の写真をSNSにあげる(自慢する)

さあStep2までで、もうその本を読みたくてたまらない気持ちになったあなた。ちょっとまってください。本を読む前に、表紙の写真を撮り、SNSにアップしましょう。

読んでいないのにSNSにあげるの?普通は読んだあとに感想をあげるものじゃないの?と思われたかも知れません。

そうです。読んでいなくても、あげるのです

SNSにあげるとなれば、あなたはその本を読むことを自慢したくなるでしょう。つまらない本を読んでいるとは周囲に思われたくないはずですから。

写真に何か一言添えましょう。その本に出会った馴れ初めが一番簡単です。さらに「はじめに」や「あとがき」や「帯のキャッチコピー」や「ネット上の情報」などから、いま時点でわかっているその本の魅力を書いても良いでしょう。そして「これから読む」ことを宣言しておきます。自慢げに。得意げに。「こんな素晴らしい本を読むんだよ!」と。

この時点で、あなたは本に対して、かなりの親しみが湧いているはずです。表紙の写真を見ても好ましいと思うのではないでしょうか。そんな気持ちが湧いて入れば、しめたものです。

まだ読んでいない井筒俊彦「言語と呪術」をX(Twitter)にアップ!魅力的な表紙ですねえ

Step4.たくさん書き込む(自分色に染める)

さてStep1~3によって、あなたは「読まなければ」という他人行儀な関係だった本と、すでに「魅力的だ」「読んでみよう」というかなり仲良しな関係まで進めたことと思います。

さあここからが勝負です。どんなに好きになっていても、読み進めていくと難解な箇所も出てきますし、何よりも時間がかかるため、気が付くと疎遠になっていた・・・ということもあり得るわけです。そこで、読み通すために重要なコツをお伝えします。

それは、たくさん書き込むことです。

躊躇せずにガシガシと書き込みましょう。新しい本にペンを入れることは、慣れないうちは緊張するかもしれません。また、古本として売れなくなるというデメリットも感じられるかもしれません。しかし本とは「書き込めば書き込むほど仲良くなれる」のです。それは人間と、なんども会話を交わすことで仲良くなれるのと同じです。古本屋さんに売ることは諦めてください(十分に元が取れるコスパの良さですから)。

書く内容は、なんでもOKです。「大切だな」と思ったことに線を引く、マーカーで色をつける、ペンがなかったらページの端を折る(ドッグイヤー)だけでもかまいません。慣れてきたらキーワードを抜き出してページの空白に書き込みんでみましょう。さらに「気がついたこと」「(内容と関係ないけど)読んでて思いついたこと」などを書いても良いでしょう。ようは、なんでも良いのです。難しく考えすぎると億劫になって読書が進まなくなります。

重要なのは「ページの中にあなたの跡がある」ことです。

もう一度言います。重要なのは「ページの中にあなたの跡がある」ことです。何が書き込まれていても良い。それは、なぜか。

本を読んでいて難しい箇所に差し掛かると、読めなくなってギブアップすることもあるでしょう。それはごく普通のことです。問題は、読書を再開してページを開いた瞬間なのです。もしそのページが綺麗だったら。難解な内容が画一的な文字で印刷されているだけだったら。・・・もう取り付く島がない、本から拒絶されている、そう感じてしまうのではないでしょうか。あなたは絶望し、よそよそしくお別れする結末がまっています。もうあなたはその本を開くことはないでしょう。

自分には手の届かない相手だったのだ、と。

しかし。そこに自分の字が書かれていたらどうでしょうか?
たどたどしく自分の線が引かれていたらどうでしょうか?
その本には馴染みがでます。ああこの本は自分と仲良しの本だ、と親しみを感じることができるのです。たとえその内容が難解であったとしても、これまで交流した形跡がお互いを結びつけてくれることでしょう。

あなたの色に染まった本は、あなたの味方になるのです。

そして、一度築かれた友情はどれだけ時間が経っても変わりません。数年ぶりに開いた本に、あなたの文字や線が書かれていたら、読んだときの世界に瞬時に帰ることができます。学生時代の親友のように、すぐに元通りの関係に戻れるのです。

たくさん書き込まれた野中郁次郎『ワイズカンパニー』、もう私色に染まった親友です

Step5.相談を持ちかける(頼りにする)

さて、この記事は「本の知の定着と活用」に困っている人事の方に向けて書いてきました。それなのに、最後になってひっくり返してしまうようですが、本の知はあなたの中に定着させなくて良い、と私は考えています。それは、なぜか。

社会心理学者ダニエル・ウェグナーは、組織を強くするナレッジマネジメントの方法論として「トランザクティブメモリー」を提唱しています。それは”同一の知識を組織の全員が記憶するのではなく、組織内の「誰が何を知っているか(Who knows What)」を共有する”ことが重要だという考え方です。

しつこいようですが「一冊の本との付き合い方は、一人の人間との付き合い方と同じ」です。そう、もうおわかりのとおり、大切なのは「どの本に何が書いているか」を知っていることです。暗記する必要はまったくないのです。

何か困ったことがあったら、いつでも相談するために仲良くなった本を開きましょう親友であるその本は、必ずあなたを助けてくれます。

あなたも、自分のことを利用しようとだけ考えて近づいてくる相手に対して、何かを与えてあげようとは思わないはずです。しかし、じっくりと時間をかけて仲良くなった相手には、惜しみなく力を貸して助けたくなるのではないでしょうか。本もまた同じです。

本と仲良くなりましょう。
その本たちとともにあることで、あなた(たち)の知は最大に増幅されます。

これが「知を定着させ活用する」私の読書法です。

名著は、読んだ時によって味わいが変わるものです。なんども相談し、なんども会話するように読みたくなる本が、あなたにとっての真の名著(親友)です。要約サイトや速読などを活用することも、忙しい現代では大切なことかもしれません。しかし「これは面白い!」と思える一冊に出会ったときは、ぜひ購入してあなたの側に置いてください。そしてじっくりと付き合ってみてください。親友になってくれるかもしれませんよ。

私の親友たち

私のお伝えしたいことは、以上です。


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