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#0016 NPO法人のマネジャーと考える「NPOの目標管理」座談会を実施
こんにちは。「人事千壺」編集の島居慶美です。先日「NPOの目標管理を考える座談会」に坪谷さんが登壇しました。これまで、書籍やたくさんのセミナー・講演などを通じて、多くの企業に届けてきた「目標管理」のテーマですが、今回初めて「NPO(Non Profit Organization=非営利団体)」に向けてお話をする機会をいただきました。当日の様子やNPOにおける目標管理の現状や課題など見えてきたことについて、お伝えいたします。
「座談会」実施のきっかけ
今回の場が実現したのは、NPO法人かものはしプロジェクトさんからのご相談がきっかけでした。かものはしプロジェクトさんは、2002年より「子どもが売られない世界をつくる」ために活動を続けられています。長きにわたり国内外で様々な社会課題の解決へ取り組まれるなかで、組織も活動領域も拡大、そして外部環境の変化もスピードを増すなかで、組織マネジメントの難易度が上がっているご状況でした。改善策の検討にあたり『図解 目標管理入門』を手に取っていただき、ご相談いただきました。
何かお役に立てればと、まずは課題を場に出し理解を深めるところから始めるため、座談会の実施となりました。日頃より「互助会」として勉強会やワークスペースを通じた交流、情報交換を行なわれているNPO法人の皆さんも、人材育成や組織マネジメントはモデルがないなかで各々手繰りでやっているご状況とのこと。一緒に学ぶ機会になれば…とお声がけいただきました。
NPO法人かものはしプロジェクト、特定非営利活動法人Learning for All、認定NPO・特定非営利活動法人ジェンなど計6団体、マネジャーを中心に20名程の方々にご参加いただきました。
「座談会」での実施内容
開始前より講師の坪谷さんへ笑顔で丁寧にご挨拶くださる方も多く、また久々の対面での再会を喜ぶ声などが飛び交う、横の繋がりを大切にされるNPOの方々ならではの温かい空気のなか、真剣にテーマについて対話を進めました。
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まずは、原理原則を含めて目標管理の基礎の目線合わせからスタートしました。
■当日の流れ
1)目標管理の基礎理解
2)目標管理の事例共有
<中間チェックアウト>
3)かものはしの目標管理(具体的テーマでのディスカッション)
<チェックアウト>
以下は「目標管理の基礎理解」でご説明した一部です。
■成果とはなにか
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■そもそも「目標管理」とは何か
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■「葛藤克服型」で統合する
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■スパイラルアップ
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ご参加者の感想 ‐NPO法人マネジャーの声‐
気づき・印象に残ったこと
中間チェックアウトで、現状に関する気づきで最も多くあがったのは、ゾンビ目標が量産されていること、そして、目の前のことで忙殺されている状況や個人と組織の目標の連動が見えにくくなっている状況でした。
❶ゾンビ目標の量産=「形式重視型」になってしまっている
❷緊急の課題がたくさんあり、フォーカスができていない
❸self-controlが抜け落ちかけ、個人と組織の目標が連動していない
●感想:課題 (一部抜粋)
「葛藤克服にするためのフォーマットを個人にもチームでも使おうと試みているが、「ゾンビ目標」がめちゃくちゃできる。数値化したものを「数値化したからやろう」としてしまう。こうして、言っていることとやっていることがずれていくと再認識した。」
「ゾンビ目標、確かにある。形式的にできればゾンビでいいと割り切ってしまっていたところもあり反省。」
「一年間塩漬けになっている「ゾンビ目標」を作るために、まじめに無駄な時間を費やしていた、と改めて気づいたこと、また多くの組織が同じような状況にあるということ。」
「今年に入ってOKRを自分やメンバーに使うようになった。難しいと思うのは、日々緊急で重要な案件に追われる。どうやったらいいのかが課題」
「関心の輪に気を向けている…と気づいた」
●感想:今後に向けてのヒント (一部抜粋)
「「上長が全てを采配するのは無理だ」と歴史が証明していて、self-controledであることが結局は人にも組織にも重要であるということ。」
「人事の仕事は「ヒトとコト」「短期と長期」「経営と現場」の交差点、というお話もとても実感がありました。人事という仕事の曖昧模糊な感じが自分は好きなんだなとリフレクションしていました。」
「目標管理は、評価・報酬制度を含めた人事制度のことではなくて、働く人たちの哲学であるという意識を持つことから始めたいと思いました。また「真に重要なことは数字にならない」ということもお守りとして持っておこうと思っています。」
「非効率に感じて自律を手放したくなっていたが、一人一人オセロをひっくり返すように時間をかけてでも強い組織を培っていこうと思えた」
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今後取り組みたいこと
座談会後に「今後取り組みたいこと」として、以下のような具体的な一歩を言語化いただききました。(一部を抜粋)
❶MOK4シートを自ら書き、メンバーへ開示するところから始める
❷個人の達成と組織の成果が繋げ、紡ぎなおすこと
❸葛藤克服型をあきらめず目指したい
❹一人で抱えるのではなく、磨き合える場を持ちたい
●感想:今後取り組みたいこと (一部抜粋)
「自分のMOK4をメンバーに開示して、私から見たメンバーのMOK4を伝えて、対話していくところから始めたいと思いました。 また団体内の皆さんとも話し合い、組織の目標管理も見直ししていきたいと強く感じました。」
「マネージャーへの研修内容の共有と、それぞれの目標の達成と成長と貢献が、組織の成果と繋がっているということを伝えるコミュニケーション。自分の目標管理シートの記載と開示」
「目標管理、人事評価の要素を含めた、組織づくりについての計画(事業計画とも連動するもの)。組織の評価軸の言語化、評価スキルを磨くことによるマネジメント力向上を意識した評価すり合わせ会議の設定」
「マネージャーとして葛藤克服型組織を目指すことをあきらめない」
「まずは、いま設計中の目標管理制度を導入し、運用しながらどんどん改善していくこと。NPOの人事・目標管理を磨き合うゼミのような学びの場」
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実施してわかったこと
NPO特有の難しさ
今回の座談会を通じてあらためて、NPO特有の状況もみえました。まず、NPOの仕事は不確実性が高く、数値化が難しいケースも多いという点です。また、対外的には出資者等に向けて、できる限りシンプルにわかりやすく伝えることが求められる一方で、現場では、目標管理の視点でいうとロジックツリーになりにくい複雑な状況に陥りやすいということです。そして、そうした背景もあってか、達成のためのゴール・目的と追うよりも、成長、学び、貢献が重要視される状況も起こりやすいということです。
目標管理における本質は変わらない
しかし、NPO特有の傾向がありつつも、課題とその解決方法してはこれまで様々な企業向けに実施してきたセミナーや講演で聞かれた内容と大きく違いがないということもわかりました。
マネジメントの父、P.F.ドラッカーもNPOのマネジメントに力を注いでいました。そのため今回、かものはしプロジェクトさんから「NPOの目標管理について学びたい」とお声がけいただいたとき、大きな構造上の必然を感じていました。
一般の営利企業のように売上利益を追いかけることのないNPOでは目標管理は馴染まないように思われるかもしれません。しかし実はそこには2つの思い込みがあります。
1つ目、目標管理で扱う目的・目標(Objectives)は、実は組織内の売上利益ではなく、組織の外にある顧客が得る価値であり、その組織特有の社会貢献です。
2つ目、組織の目的を客観的に示し、メンバーの主観を統合してスパイラルアップしていく(循環の中で高まっていく)ことこそ目標管理の目指す姿です。その前提に立てば、組織の目的が社会貢献として明示されており、メンバーがそこに向かう意欲の高いNPOこそ、実は目標管理にもっとも適していると考えられるのです。
実際にNPOの代表およびマネジャーの皆さんと、3時間じっくり語り合うことができ、私にもそのリアリティが少し見えてきました。
一般の営利企業より「見える化」(客観)が困難であることは間違いないようです。その背景にはさまざまな葛藤要因がありました。環境変化の激しさ、代表の視界とマネジャー、メンバーの視界のギャップの大きさ・・・。私が一番感じたのは、マネジャーたちの過負荷により「やりたい、やるべきことへ力を注ぐことができないもどかしさ」です。
まさに「個と組織がともに勝つ」目標管理の哲学が求められている状況だと強く感じました。
参加されていた非営利組織の代表の方から「坪谷さんに、この取り組みの塾長になってほしい」とお声がけいただきました。とても嬉しく思いました。しかし、これは、NPOのメンバー1人ひとりの想い(主観)を社会善なる目的に向けて統合していく「葛藤克服」の旅です。生半可な気持ちではご一緒できません。覚悟を問われている、と感じながらも、私は頷きました。来週はこの会の振り返りを行います。
(坪谷邦生)
「ソーシャル」や「社会課題解決」が社会の関心事になるなか、非営利で様々な社会や地域の課題解決に日々貢献する重要かつ不可欠なアクターであるNPOの皆さんが一層チカラを発揮できるよう伴走していければ幸いです。
*関連情報として、「目標管理」のテーマで現在活動中のものをいくつかご紹介させていただきます。
『図解 目標管理入門』
人事力検定『目標管理入門』