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靴の修理屋さんを質問攻めにしたらエモくなった記録

私にはお気に入りの一足がある。
底にはポルトガルで作られたらしいことが印字してある茶色い靴。

かっこいいのに可愛い感じもあって、あとなんだか本物っぽい佇まいに惚れ込んで、当時の私は清水の舞台(以下省略)

買った時の思い出の重量や私の思い入れに比例したのかこいつはすごく硬い。

そんなもんだから

硬い→履かない→柔らかくならない→硬い→でも好き→眺める→履かない

なんていうひどいサイクルができてしまった。

モノポリーよりも展開が遅い私と靴の関係は四捨五入したら10年くらいになるんじゃなかろうか。

とってもおしゃれがしたい時だけ我慢して履く、なんていう不健康な関係を続けていたらついに乾燥かなにかでつま先がベロンと剥がれたのだ。

がーーーーーーーーん

なんにも実らず壊れてしまった恋のようだ。
ただ眺めていたのに、こんどは眺めるとチクリと気持ちが痛む事態に陥ってしまった。

そんな悶々とした靴箱を毎日通り過ぎていた私だったが、ついに重い腰をあげて靴屋さんの門をくぐった。
きっかけはミニマルに目覚めて以来ろくな靴がないから。いや、もともと靴はそれなりのものを主義だったが削ぎに削いできた結果、もうなんにもないのだ。

春先に買ったパンプスではいよいよ越冬が難しそうになってきた。かといって適当な靴を適当に買って、ただでさえてんてこまいの暮らしにお世話の対象を増やす気にもなれず。

どうせならこのお気に入りをなんとかして、話はそれからだ、とかいうよく分からない結論に至った。

行き先はいつも行くビルに入っているカッコいい靴が並んだオシャレな修理屋さんだ。
靴をベロリンガみたいにした持ち主は「うわ、また靴を適当に扱う奴がきた」と心の中では軽蔑されるんじゃ、、とかなんとかしょうもない考えもめぐりまくったものの。
まぁいいや、お願いするって決めたんだし見積もりをしてもらおう、きっとお店の雰囲気から修理代も清水(以下省略)

なんとなく紙袋につっこんだだけの靴に罪悪感を覚えながら店員さんに声をかけてみる。

「皮がいいので接着か張り替えかしたらまだ大丈夫ですよ。どうしましょうか」と店員さんは靴をみて丁寧に答えて方法を提案してくれた。
ただ事実を伝えられただけなのに。
なんだか自分まで褒めてもらった錯覚を起こした私。

いやあの時の気持ちを分解すると、

この靴を諦めてほったらかしにしなくてももう大丈夫、と言ってもらえた安心感

まだこれから楽しめる余地がある、という後押しがもらえたような錯覚、

長持ちする靴を選べた昔の自分を今肯定できた、

などのミクスチャーだったんだと思う。

そこから私はお構いなしに店員さんを質問攻めにした。毎回靴の横を通るたびに飲み込んできた悩みの数々で。

「硬いのでほんとはもっと履きたいけどなんかそのままにしちゃって。どうしたらうまく履きこなせるんですかね、、」

A. それはもうとにかく履く!ことですね。いい皮なので馴染んできたら今よりはもっと足に合ってくれますよ、この状態だとまだまだですね。もっと味がでますよ。傷はさすがに修理が難しいですがあえてそうやって楽しむ人もいます。色が薄くなってるのはクリームで良くなったりします、

「突然の雨はどうしたら?これを履くときに限って雨なんです 涙」
A.しっかりお手入れして普段からケアしていればたいてい大丈夫です。逆にほうっておいて乾いていると肌と一緒で、、なんていうか吸収じゃないですけどしみになります。もともと油分や水分をしっかり補給してあげていい状態にしてあげてたら大丈夫です。

「なんていうか、、歩くときのアーチに沿ってくれないので底がすごく硬くて足がつらいのは何とかならないですかね、、、」
A.この底だとかなり硬い素材なので張り替えなら柔らかめの素材で色味もできるだけ今のデザインに近いように変えることもできますよ。多分その方が歩きやすいのでそんな選択もできます。

その他かかと部分は実は木のように見えて皮を重ねてある、とか、踵には釘が打ってあるとか今まで全く知らなかったお気に入りのことを延々と聞いても店員さんはそれはそれは丁寧に答えてくれた。
たぶんネットを自分で歩き回ると出くわす情報もあったんだと思う。でも靴の上であの空間で、普段から靴を触っている人から聞けてよかった。
靴を修理に出すなんて、なんて大人っぽい行動なんだ!、という誇らしさも忘れてはいけない大事な要素だ。

今日の1番の収穫は 
私と靴が合っていないんじゃなくて、そもそも相性どころかお互いをよく知る段階までも行っていない  というのがわかったこと。

彼女にも私の足の形を覚えてもらいたいし、私も彼女がキラりと光るエイジングをして輝かしい靴生を歩むサポートをしてあげたい。

店員さんはつま先を軽く磨いて「ほんとはもっと丁寧にするんですけど軽く磨いただけでも違いますよね」と見せてくれた。

彼女はそれはそれは綺麗につやつやしていてそれを見るだけでも気持ちがよかった。

使い古した布とクリームで靴を磨く習慣のあった父を真似て気まぐれに自分でも手持ちの靴を色々撫でてみてはきたけどプロがするのを見るのはまた違う。

3週間後にバージョンアップした彼女を迎えに行くのが楽しみだ。
なんなら新しい靴を迎えるより。
適当に買った春先のパンプスでは味わえなかったワクワク感。

真面目なエコロジストでもないが、売りっぱなし、使い捨てが横行する中、修理をする人はもっと応援したいと思う。
ただ現代の生活や仕組みがどうしてもそれをメインストリームにもってくるにはまだまだ時間がかかりそうなのは残念にいつも思う。
自分も適当な買い物をすることがほとんどだ。早いし安い。人が傾くのも分かる。

でももう少し壊れた時のこと、傷みながらも長く使った時のこと、いろいろ考えて物を迎え入れる機会を増やしたら今より心が潤うんじゃないかと改めて思った体験だった。


帰ってきたら、まだまだカチカチの彼女と歩数を稼いでアプリのヒヨコを育てるのがこれからの日課になりそうだ。


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