すべてが闇で虚空であったとき
すべてが闇で虚空であった時、全知の神はおられた。嗚呼、唯一なるエルよ、そなたにこの命たちを授けよう。この命たちはそなたにより放たれるだろう。お前が信頼するにたるエルフに、そなたは新たなる名を与えられよう。
エルよ、いやイルーヴァタール。その”不滅の炎”で聖なる者たちアイエヌを灯すがよい。この子らはやがて神々となり世界を治めることだろう。
ᛋᛏᚨᚱ
「風の王マンウェ、それから星の女王ヴァルダ。私はこの虚空に時なき館を造った。私はあなたたちを信じている」
イルーヴァタールの胸に宿る炎は、悲しみに揺れていた。ヴァルダはそれを見ていたので、神妙な面持ちで語りかけた。風の王マンウェは穏やかにそれを見ていた。
「イルヴァタール様、どうか悲しみに暮れるのをおやめください」
「.......ヴァルダ。どうしてお父は私に世界を託したのだろう」
「.......恐れ多い限り、私は言えません。考えることすら、私には怖いのです。お許しください」
「ヴァルダ、星の子たちに言ってほしいのだ。”どうか守ってくれ”と」
ヴァルダは頷いてから「はい」とだけ言った。彼女の答えは必ず一貫性を保っていた。だからこそイルヴァタールは安心できた。
「マンウェ、歌を歌ってほしい。そなたの歌は心を軽くしてくれるから」
「ええ、もちろん」