燐光/蓮華畑 (エッセイ・とんぼ)
何となく気がつくとそこは蓮華畑の中で、湿った黄緑色の茎が冷たく頬にあたるのですぐに思い出しました。
ふと、いつもより遠いところへ来てしまったのではないかと子供達のことが心配になりすぐに探しはじめましたが二人はそばで遊んでいました。
蓮華畑で隠れんぼしていて畑の中にうつむせになり一生懸命体をひそめてみつからないようにじっとしているのです。
13歳のお兄ちゃんは8歳の弟に比べるとぐんと体が大きいのでもっと頑張って両腕をいっぱいに広げ指の先までピンとまっすぐにして隠れているみたいですが、弟も弟で絶対に負けられないと一生懸命にもっと小さくなろうとして隠れているのです。
湿った土から上がってきた水は茎を通り花びらと葉を通って蒸散し、ふくらんだままの二人の頬や髪の毛、瞼やまつ毛、手のひらや指、体全体に纏付き二人の姿はみるみる光輝く水の玉のように、昼間でも夜中でも眩い気泡のようになって互いに少し遠くに離れて隠れているのです。
大きな大きな光り輝く気泡のようになった二人は蓮華畑の中に眠っていて今度は無重力の中でゆっくりとほどけた羽毛のようになり目を閉じたまま見つからないよう最も静かに頬を地面にくっつけてひんやりとした茎にもぴったりとくっつけています。
そのうちに蜂のような虫がお兄ちゃんのところに飛んで行きましたが、それでも頑張って上手く隠れているので思わず私は笑ってしまいました。するとお兄ちゃんにはそれが聞こえたのでしょうか眉を少し垂らしてこちらの方を見るとにっこりと笑うので私もずっとお兄ちゃんの方を見ているとその隙を見ていたかのように弟の方が「お兄ちゃんみつけた!」ともうそれはそれはここにある蓮華の花びらを全部集めてきて出来た真新しい黄金の鐘の音のような声で響いたので、お兄ちゃんも私もびっくりしてやっと蓮華畑の中で3人は空の方を向いて雲の下に寝転がっていました。