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夜明けにおやすみを

時々家に海月が現れる。辛くてどうしようもない時、僕は誰にも知られずそれになる。

高校生の時、大事な人が教えてくれた。海月には脳がないのだと。だから痛いや苦しい、楽しい嬉しいというあらゆる感情がないのだと。

人生は感情が忙しいように思う。どれだけ健気に生きても年に数度、息をするのも苦しくて眠れない夜がくる。その時は僕は人知れず海月になり、静かな夜をただ彷徨う。

たまに思う。電車で揺られている時、サークルからの帰り道、1人でタバコを吸っている時。貴方になれたらどれだけ楽だろうかと。誰にも知られず、誰も傷つけず、最後は溶けて水となり、誰も自分の事など覚えてはいない。

でもどれだけなろうとしてもやっぱりなりきれない。時間が経つと思い出してしまう。大事な人の顔を、貰った大事な言葉を思い出してしまう。

自分でも本当は海月になりたいのかさえ分からない。なりたいとなりたくない、忘れて欲しいと忘れて欲しくないの狭間で僕は今日も息をする。
そうやって生き長らえている。

自分の事は覚えてくれていなくてもいいのに、貴方の事は忘れたくないなんてずるいよね。

貴方が楽しさや、嬉しさで囲まれている間は僕の事は思い出さなくていい。
、でも辛くてどうしようもない時には僕の事を思い出してほしいと願ってしまう。傲慢だけど味方はいるのだと気づいて欲しい。

生きている意味なんて崇高なものでも立派なものでもなくていい。
大事な人に温かいココアを淹れてあげるためで十分でしょ?
その為に少しだけ良い豆をいつも置いています。

きっと一番来て欲しい貴方は来ないのは分かってる。
いつかの記事でも書いたけど、貴方の瞳に一瞬でも映る事ができたこと、ほんの少しでも貴方の人生の一部になれたことができて幸せだった。

出会ってしまった。それだけでもうほんとは終わってよかったのに。


人はいつかは死ぬ。消えてしまう。誰も自分の事など覚えてくれてなくて良いし、泣いてくれなくていい。

でも、それでも、、我儘を言っていいのなら、消える前に貴方に少しの愛を残してから海の底に消えていきたい。

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