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おすすめ百合作品七選

◯前書き
 まず、私は結構な百合好きと自認しています。漫画と小説合わせて、本棚三段分くらいあります。そんな百合好きとして不満があるのです。それは、商業だろうが同人にしろ供給が少ない。同じ同性コンテンツのBLと比べたらその差は歴然。BLコーナーは一列くらいぎっしり並べられているのに、百合はコーナーとしてまとまっていることすら稀です。書店に行って見比べるたびに、悲しい気持ちになります。
 だからこそ、一人の百合好きとして一生懸命に百合作品を書き、いいなと思った百合作品の布教しなければならないのです。
 
 次に、百合の定義について。このジャンルに詳しくない人は、百合という言葉がどういった作品を何を指しているのか分かりづらいと思うので。
 百合に必要な構成要素は、基本的に2つだけです。女性とクソデカ感情。この2つだけで百合は作れます。後は個人の好みが関わってきます。
 ほんと百合はこの2つの要素さえ持っていれば、後は自由に解釈して書いたり読んだりしていいのです。恋愛をガッツリ絡ませてもいいし、友情という言葉ではうまく括れないような関係でもいいし、女性同士の硬い硬い連帯でもいいのです。百合という言葉は、広い定義で使われているので軽く使えばいいのです。




◯小説篇

(遠宮定義の軽め百合から紹介していくので、分かりやすく百合を読みたい方は、上にある目次から安達としまむらにとんでください) 

・儚い羊たちの祝宴(米澤穂信)

 まず、時々百合風味を漂わせるミステリー作家の米澤穂信氏から、「儚い羊たちの祝宴」を紹介します。まあ、全体的に見たらただの面白いミステリーなんですけど、「身内に不幸がありまして」と「玉野五十鈴の誉れ」は、百合です。百合好きに聞けば、少なくとも「玉野五十鈴の誉れ」は百合であると言うと思います。
 百合の中でも主従百合と呼ばれる、メイドとお嬢様的な関係性を書いたジャンルに当たります。主従百合のいいところは、現代日本ではあまり生まれない主従という関係性の中に生まれる強固な絆が魅力なジャンルで、カップリングの属性として多いのが、お嬢様とメイドやお嬢様と護衛みたいな属性が多い印象です。
 話を戻して、「身内に不幸がありまして」はある使用人の日記を読み進めて行くタイプの話なんですけど、この日記に書かれている使用人のお嬢様への想いが湿度と切なさを多分に含んでいる思いがとてもいい。
 「玉野五十鈴の誉れ」は、ひねりのない王道な主従百合で、基本的に何でもできる使用人の五十鈴と、家の権力を握っているお祖母様に逆らえないお嬢様の純香の話で、ミステリーとしても文句なしに面白いし、百合として読んでもすごく尊みを感じることができる。玉野五十鈴の誉れとは何かがわかったときに、至上のミステリーと百合の体験ができる小説だ。

・雪が白いとき、かつその時に限り(陸秋槎りくしゅうさ)

 これまたミステリーなんですけど、「儚い羊たちの祝宴」に比べれば、百合濃度は遥かに高い作品で、作者の陸秋槎氏がそもそも百合好きであると公言している。そのため、作品にも百合要素が強く出ている。
 ある雪の降る日に学生寮で起きた密室状態の殺人事件を、頭が切れて知識もある探偵役の馮露葵ふう・ろきと、寮委員で助手役の顧千千こく・せんせんが調査していく話で、陸秋槎氏が織りなす冷徹なロジックと苦い青春の痛みが魅力的な作品だ。
 百合としては、後半の陸秋槎氏のお家芸である二転三転する推理合戦時に、主人公カップリングの気持ちのぶつかり合いの激しさと気持ちの大きさが、百合として大変魅力的に描写されている。
 そして小説としても、ウイットや示唆に富んだ文章が多く書かれているし、作者の過ぎ去った青春についての価値観も濃厚に書かれていてとても面白い。

・安達としまむら(入間人間)

 名刺代わりの小説十選でも紹介したが、私が百合を語る上で絶対に外せないほど、私の魂に強烈な爪痕を残した作品だ。全巻合わせて15冊もあって集めるのはなかなか大変だが、王道百合ラノベとして、これ以上完成度の高い百合作品を私は知らない。
 コミュ障で友達のいないクールな安達と、基本的に何でも卒なくこなせるけど執着心の薄いしまむらが織りなす濃厚だがどこか穏やかで優しさと包容力に富んだ話だ。
 安達としまむら、略してあだしま。この物語の最大限の魅力は、込められているメッセージにある。それは、無理して社会にちゃんと溶け込もうとしなくてもいいだよというものだ。あだしま的なコミュ障×コミュ強(陰キャ×陽キャともする。ただ、あだしまはどちらの括りかたをしても違和感が残るが、便宜上、構造的に一応当てはまるためこの括りで活かせてもらう。)のカップリングは普通、二人の関係を通して社会もしくは、学校の人間関係に馴染んでいこうという展開が多いが、あだしまは違う。安達はしまむらの人間関係の輪に馴染まないし、しまむらはしまむらで、無理して輪に入れようとはあまりしない。そんな中で育まれる二人の運命的で自閉的な関係性が、共依存的に見えるが不健全さはまったく感じない。だから、最初に書いたメッセージが強調されるのだ。
 安達はしまむらだけいればいいと思っているし、しまむらそんな安達に自分の知らないところや気持に連れていってもらっている。そんな二人の関係性がとてもいい百合作品だ。
 私としてもあだしまが一番の推しカプだし、このタイプのカップリングが一番好きだ。私の百合の好みを決定づけるくらい魅力的な小説だ。

・わすれなぐさ(吉屋信子)

 元祖百合として、戦前の少女小説を書いてトップ作家だった吉屋信子氏の「わすれなぐさ」を紹介します。同ジャンルの川端康成氏の「乙女の港」と迷ったが、ポップで軽やかな物語の底に、強烈な家父長制や男尊女卑への批判が含まれていて、文学として価値が高いと思う当作品を選ぶことにした。
 話自体は、戦前の女学校を舞台に、クラスの女王様の陽子、無口で風変わりな牧子、硬派で兄弟思いの一枝の三人が織りなすジェットコースターのような三角関係が魅力的に作品だ。本の厚さは200ページほどで薄く、近代文学とはいえ、当時の少女向けに書かれた作品ゆえ読みやすい。
 最初に、家父長制や男尊女卑への批判が含まれていると書いたが、実際に読めばわかるがそれほど露骨に書かれているわけではない、だから、変に思想的な匂いが強すぎず、自然体に書かれているのがこの作品の優れたポイントだ。
 三人の関係性。キラキラとした横浜の描写。ジェットコースターのような勢いのあるストーリー。戦前に書かれたとは思えないほど、現代の人間に魅力的に映る普遍性。どれも一級品の小説だ。

・おまけ

 小説篇のおまけとして、百合アンソロジーをおすすめしたい。全体的に実験的で前衛的な作品が多々あるが、それらを楽しんで読めれば大抵の百合小説を読めるようになるので、百合にハマってきたら是非読んでみてほしい。



◯漫画篇

・夏とレモンとオーバーレイ(原作Ru 漫画宮原都)

 まず、単刊漫画で読みやすい「夏とレモンとオーバーレイ」から。この漫画の魅力はタイトルにすべて集約されている。話としては、仕事のない声優であるゆにまると、大企業務めのOLの紺野さやかのお話だ。
 テーマとして、夢、生活、人生の豊かさなどがあって、それを二人の関係性のなかで読者に問いかけつつ、夏の焦燥感や夕方の儚さやレモンの酸っぱく爽やかさを物語のスパイスとして組み込みながら、住んでいる世界レイヤーが違う二人が、交わってオーバーしていくという、勢いと爽やかな漫画だ。

・定時にあがれたら(犬井あゆ)

 王道中の王道な百合漫画で、手軽に社会人百合を読みたいなら、この作品に限る。話としては、別部署に努めている水城さんと湯川さんが、ふとしたきっかけでご飯を食べに行くようになったところから始まる。しかも、話の序盤の方では、連絡先を交換せずに、コートのポケットを介しての付箋メモ交換というキュンキュン仕様だ。この仕掛けがみそで、連絡媒体をコートにすることで、春になったらこの関係性はどうなるんだろうという切ない不安と危うげなつながりは、百合作品の醍醐味だし、改めて連絡先を交換するときに軽い達成感を味合う事ができる。
 そして、何より犬井あゆ氏の絵がとてもいい。この柔らかいタッチが作品の雰囲気を象徴していて、安心して読める。
 全4巻と集めやすいし、今回の記事で紹介したなかで一番初心者向けでおすすめだ。


◯ps
 あまり長々書いてもあれなので、私がいつも使っている情報サイト乗せて締めます。

 このサイトに飛べば、大抵の百合に関する情報があります。是非使ってみてください。