最後のマスカラ

なりたい顔は5分で

そんな文言の看板を眺めてると
コンビニエンスストアの中から孫が出てきた

焼きたてのパンの様な香りと
湯気の上がった顔をパタパタと手で仰いで風を当てながら。


「おかえり、どーだい?今回のは」


「んー、まあ、こんなもんでしょー
コンビニだもん、専門店じゃないしね」

そう答える孫は白人のような顔をした孫の声のする女だった。

「でも、前よりマシよ、かなり端っこあたり禿げ始めてたしね、それに友達からも評判あんまりでさ、変えたかったの顔」

「そうか、小さい時はお前は母さん似でそりゃあ、、、」

「やめてよう、ないない、今、若い世代でプレーンな顔とか乗せてるのなんてよっぽと主義思想強めの人しかいないって、こわいこわい」


「ふふ、そうかい、おまえが心うれしく楽しく過ごせるなら、それでいいよ」


「おじいちゃんたちの世代は簡単に顔変えれなかったなんて信じられないよ、嫌じゃなかったの?」

「男だったからなぁ、女性ほどは、、まあ、不便もあったが、それが普通だったんだよ、それに」


「それに?」

「女性がな、好きな異性や自分のためにメイクっていってな、いろいろするんだよ」

「メイクしってるよ、なんか色とかで陰影とかでイメージかえるのよね、まどろっこしいなあって思う、時間もかかるんでしょー?私、朝とかギリギリまで寝てたいもん無理無理」

「でも、それを眺めてるのが好きだったよ、横でな、変わってくさまをボーッと眺めてるんだよ、リップ、チーク、アイシャドウ、ファンデーション、、それにマスカラ」


「ますからー?なにするのそれ」


「まつ毛を長くして目を大きく見せるのさ、小さなブラシのようなもので鏡を見ながら丁寧に慎重に長くしていくんだ、、」

その時
ふと脳裏に名前も出会いも思い出せないような女の子とホテルで一緒に朝寝坊した記憶が甦る。

バスまで5分しかないって笑いながらバタバタして彼女は化粧を手早くすますが、最後のマスカラだけは手が抜けないのと言って丁寧に慎重になる。
鏡に向かってる横顔がとても愛おしかった
タバコを一本吸えるくらいゆっくりまつ毛に処理を施す。

私は彼女のお世辞にも大きいとは言えない細い目が好きだった。
手早いメイクの口紅は少しはみ出していたけど、乗り逃したバスのバス停のベンチで笑いながら直してキスもした、おかげで彼女とはその日はいつもより30分長く居れたしキスも3回ほど多かった。

「不便は別にいつでも、我々に必ずしも最悪を運んでくるわけじゃあないのさ」

そう言って、私は知らない顔をした孫と歩くと
私たちの隣を
2人で手をつないで慌ただしく走る男女が通り過ぎる。

まあ、最新には最新の、、か。

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あーらら。

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