【SS】ほんの一部スイカ
フルーツのカービングが生業の彼女は
いつも何か諦観したように
カービングの練習用に卸される食用に適さないフルーツ達を見つめる
ときどき、明らかに歪な個体を選び、練習に使い、食してしまう。
そんな彼女がとても綺麗な丸いスイカを前に泣いていた。
彼女は言う
ここに、卸されるということは
この子は何か問題があるのよ
見た目にわからないけども
割ってみるとね
大体は皮とかよくわからないものが
肥大していて一部だけ、
ほんの一部スイカだと認識できる部分があるの、それ以外はなんだかよくわからないものになっている
見た目にはわからないの。
どうせなら、だれが見ても分かりやすいぐらいの歪さがあれば、その道があったでしょうに
どうしてかしらね
隠されてしまった弱さがこの子を苦しめた
乗り越えるべき壁や道なんてわかりやすいものは用意されてなくて
もっと薄暗いどうしようもないものしか
神さまは用意しなかったのよ
殴れたり壊せたりするものじゃなくて
彼女は脇腹に手を当てて
そのスイカを火に焚べた。
お題
たらはかに様より
【ほんの一部スイカ】
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