正しい間違い。

いつも難解な飲み込みにくい曲ばかりつくる彼が
掃き溜めに浮かぶ月をありがたいと泣く浮浪者を慰めるように仕方なさを叫び、どうしようもなさを貼り付け困ったような笑顔を見せる彼が

ふと子犬の鼻歌のように作った曲があった。
それを聴いて当時のアタシはがっかりした
彼に食ってかかって言った
こんなのはクソだ、犬の餌だと。

そうだよと言ったあと彼は
できればこんな風になりたいし、これで喜べる人になりたいんだ、でもなれないんだ。
これは下から見た憧れなんだよ、決してわかってるわけじゃない、憧れなんだ、届かないからせめて目にいれてるだけなんだと言っていた

それから彼とは会わなくった
彼は音楽家として大成した
そしてあっけなく死んだ

アタシは高校の音楽の先生になり子供に音楽を教える
ある日彼の作った子犬の鼻唄ようなものが、彼の作品の中から評価をうけて、高校の教科書に載った

そしてアタシの伴奏に合わせて毎年、合唱コンクールで歌う学生たち

アタシは可笑しくなって
たまに一人で吹き出してしまう
みんなアナタが死ぬほど優しい音楽家でこんな美しい世界を表現できるなんて充実した愛に溢れた人だと思ってるよ
セフレのアタシからしたら
貸してた5万とレコードと
変なセックスと口に出されたりした
ムカつく思い出ばかり思い出して
あえてアレンジを加えて演奏するんだけど
 
この間、解釈違いだと怒られたよ。
アタシはそうねとだけ、言ったわ
この曲は本当にアタシを振り回すし、一向に好きになれない犬の餌だけど
けどね、毎年アナタを誇張することなく思い出せるキッカケになるから、また譜面を開く
上手く弾けるようになったから
たまには会いに来て、あの時のように
休符の間、手持ち無沙汰で目があって見せた
あの笑顔をみせてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?