見出し画像

令和6年 司法試験 知的財産法 再現答案

はじめに

令和6年司法試験知的財産法の再現答案です。再現の方向は間違っていないと思うのですが、なにぶん焦っていたのでところどころ変かもしれないです。

特許法

設問1
第1 (1)について
1
(1) 「特許発明の技術的範囲」(特許法70条1項、以下「特許法」)は、特許請求の記載を「明細書」(同条2項)等の記載を考慮しつつ、解釈して定められる。
(2) 本件特許請求の範囲には、「物質A及び物質Bからなる合金」と記載されている。また、本件明細書には「物質A及び物質b1からなる合金α」のみが記載され、「物質A及び物質b2からなる合金β」は不適当である、と記載されている。もっとも、そうであったとしても、b2は物質Bに含まれるものとは言える。
(3) Y1製品は、「物質A及び物質b2からなる合金β」であるから、本件発明の技術的範囲に属する、と言える。
第2 (2)について
1
(1) Y1は104条の3第1項に基づく特許無効の抗弁として、新規性の喪失(29条1項3号、123条1項2号)を主張する、と考えられる。
(2) 本件出願の6ヶ月前に公表された論文に「物質A及び物質b2からなる合金β」についての記載がある。この論文は「刊行物」(29条1項3号)に当たる。したがって、物質A及び物質b2からなる合金βは「刊行物に記載された発明」(同)にあたり、新規性を喪失したと言える。
(3) しかし、b2について新規性が喪失したとしてもB全体の新規性が失われるとは言えない。しかし、少なくともb2を用いた構成については新規性を喪失していたのであるから、この構成について特許権が及ぶ、と考えることは妥当でない。
2 したがって、Y1の反論は妥当である。
第3 (3)について
1
(1) 本件出願の9ヶ月前に「物質A及び物質Bからなる合金」についての記載がある論文が発表されており、かつ、この論文は「刊行物」(29条1項3号)に当たる。ただし、この論文は、本件発明を行ったことにより、本件発明の「特許法を受ける権利を有する」(30条2項)Xが発表したものである。したがって、Xが同条3項、2項に規定する方法を取ることで新規性の喪失は否定される。
(2) これはXの論文の発表後に「物質A及び物質b2からなる合金β」についての記載がある論文が発表されたとしても、これによってXの権利が害されると考えるのは妥当でない。
(3) したがって、Y1の主張の妥当性について差異が生じ、Y1の反論は認められない。
設問2
1
(1) Xは、本件発明は「物」の発明(2条3項1号)である。Y2製品が本件発明の技術的範囲に属する合金であるから、これを販売しているY3の行為は、本件発明の「実施」(同)に当たる。そこで、Y3はXの「特許権」(100条1項)を「侵害する者」(同)にあたり、Y2製品を販売する行為の差止を請求する、と考えられる。
(2) これに対し、Y3はY2製品についての特許権は消尽したことから、Xの特許権は及ばない、と反論すると考えられる。そこで、消尽は認められるか。
2
(1) 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者(以下、「特許権者等」とする)が特許製品を適法に譲渡した場合には、当該特許製品について、特許権はその目的を達成したものとして消尽し、特許権者は当該特許製品について特許権を行使することは許されない(消尽論)。これは、特許製品の円滑な流通の保護が必要である一方、特許権者に流通過程で二重に利益を認めることが不必要であることを根拠としている。
(2) Y3は通常実施権を有するY2からY2製品を譲り受けている。しかし、Y2がY3に譲渡したY2製品は本件契約内で定められた最高数量を超えて譲渡されたものである。そこでこのような譲渡であったとしても適法な譲渡と言えるか。
(3) 通常実施権を設定する際、その内容は、特許発明の実施とは直接の関わりがある条件から付随した条件にすぎないものまで含まれている。このうち、特許発明の実施とは直接の関わりがある条件に反して実施行為を行う場合は、適法な譲渡とは認められない。最高数量というものは、この個数に限定して飲み実施を許す、という条件であり、通常、この最高数量に照らして実質料相当額が定められることを踏まえると最高数量に関わる条件は、特許発明の実施と直接関わりのある条件と考えられる。したがって、最高数量の条件に反して行われたY2のY3に対する譲渡は適法な譲渡とは言えない。
(4) たしかにY3は本件契約における最高数量の定めについては知らなかったのであるから、このようなY3に対して特許権を行使することは特許製品の流通を害すると言える。しかし、XはY2が最高数量を超えて譲渡した分のY2製品については何ら利益を得られていないので、消尽論の根拠が妥当しない。したがって、消尽は認められない。
3 以上より、Y3の反論は認められないのでXはY3に対してY2製品の販売の停止を請求することが認められる。

著作権法

1
(1) A図書館は「建築の著作物」(著作権法10条1項5号、以下、「著作権法」は省略)に当たるか。
(2) 建築の著作物に当たるか否かについて、通常の著作物と同様に判断することは後続する多くの建築物が複製権の侵害となり、社会的損失の大きいため妥当でない。そこで、実用目的と分離して、美的鑑賞の対象となり得る程度の美的要素を感得できる構成を把握できるものであれば、著作物になり得る。
(3) A図書館は正面から見ると、曲面状となっている屋根が右方向に上がって、その右端が大きく横に飛び出し、外壁が画面状の屋根と連続する曲面である、という特徴を有している。よって、実用目的と分離して美的鑑賞の対象となり得る。そして、上記特徴は、過去から未来に絶えず発展していくA市を表すというBの思想・感情を表現したものと言える。
(4) したがって、Aは建築の著作物である。
2
(1) A図書館を制作したのはBであるから、BがA図書館の著作者である。
(2) Dは自らの店舗の外壁の一部や屋根をA図書館の外壁や屋根と同じ形に改築している。Dの改築行為は、A図書館そのものを複製するものではない。しかし、Bの思想・感情が表現されているA図書館の外壁や屋根を「有形的に再製」(2条1項15号)していることから、「複製」(21条)したと言える。
(3) したがって、Dの行為は複製権(同)の侵害に当たる。
設問2
第1 (1)について
1
(1) A図書館は、建築の著作物であり、かつ、美術の著作物である。そして、Bが著作者である。
(2) DはA図書館を正面から撮影しているので、有形的に再生した、と言える。したがって、複製権の行使に当たる。
(3) 「公衆」(2条5項)とは、不特定又は多数の者を指す。そこで、Dは撮影したA図書館に基づく絵葉書βを多数印刷し、これを販売しているのであるから、「公衆に提供した」(26条の2第1項)、と言える。したがって、譲渡権(同)の行使にあたる。
(4) したがって、BはDに対して、差止請求(112条1項)及び不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)を行うと考えられる。
2
(1) 46条は、一般人の自由の過度な制約の回避、社会的慣行の尊重、著作権者の合理的な意思等をふまえ、美術の著作物等の利用を原則として自由とすることを趣旨としている。
(2) そこで、同4号に該当しないか。著作物の性質、購入者の意識等に照らし判断する。
(3) βのように著作物が大きく印刷された絵葉書であれば、通常これを購入する者は当該著作物が印刷されているが故に購入するものといえる。そして、βのうち、5分の3をA図書館が占め、A図書館の特徴的な屋根や外壁の形が明瞭に区別できるものとなっていた。これらに照らすと、「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製」した、と言える。したがって、同号は適用されない。
(4) よって、請求が認められる。
第2 (2)について
1  Cは、絵画αは美術の著作物であり、かつ、Cが作成したのであるから、Cが著作者である。βはαを有形的に再生し、かつ、これを公衆に譲渡している。よって、Cの著作権を侵害するので、βの差止請求が認められる、と主張する。
2 これに対し、Dは①βはαを有形的に再製するものではないこと、②公開の美術にあたること③30条の2にあたること、を主張して、差止は認められない、と反論する。
3
(1) 複製に当たるか否かは、一般人の注意力を基準として、美的要素が感得できる程度に再製されていることを要する。
(2) 本問において、βはαがその独特の色彩によりA山を描いたCの代表作であることがわかる程度には再現されているのであるから、複製にあたる。
4
(1) 46条の趣旨より、「屋外の場所」とは、不特定多数者が見ようとすれば自由に見ることができる広く開放された場所を言う。たしかにαはA図書館の玄関ホールに展示されているのであるから屋内に置いて展示された著作物である。しかし、A図書館の入口の扉は開館時間中、常に開いていたのであるから、不特定多数者はαを見ようとすれば見えたといえる。したがって、上記要件を満たす。
(2) 「恒常的に設置する」とは,社会通念上,ある程度の長期にわたり継続して,不特定多数の者の観覧に供する状態に置くことをいう。A図書館の入口の扉は開館時間中は常に開いていたことから、不特定多数者の観覧に供されていた、と言える。したがって、この要件を満たす。
5
(1) Dは「写真の撮影」を行っており、A図書館を撮影する際、αは付随対象事物等にあたる。
(2) αはA図書館の玄関に飾られており、玄関は、A図書館の開館時間中は常に空いているのだから、A図書館を正面から撮影した際は必然的にαが映り込むこととなる。そして、αは小さく映り込むにとどまっている。
(3) これらを踏まえると30条の2第1項は適用される。
設問3
1 BはA市に対し、A図書館の屋根のうち大きく横に飛び出している部分のみを撤去する工事(以下、「本件工事」とする)は、改変にあたり、Bの同一性保持権(20条1項)を侵害するので差止請求が認められる、と主張すると考えられる。
2
(1) 改変とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外形的な表現形式に改変を加える行為をいう。よって本件工事は、改変にあたる。
(2)
(ア) そこで、同条2号に当たらないかが問題となる。
(イ) 同号の趣旨は、その所有者の経済的利用権と著作者の権利を調整する観点から,改変を許容することとしたものである。これに照らせば,経済的・実用的観点から必要な範囲の増改築がその対象であって,個人的な嗜好に基づく改変は、同号の規定により許容されるものではない。
(ウ) 本件工事は、屋根が奇抜すぎる、というA市長の好みで行うものであり、実用的観点から工事が要求される、という事情はない。したがって、本件工事に同号を適用することはできない。
(エ) よって、同一性保持権の侵害にあたる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?