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W_005 「学校を去る」という選択肢

こんばんは。この記事は文章でお届けします。ますひこです。

ショッキングなニュースが飛び込んできました。

年30日以上登校せず、「不登校」とされた小中学生が、2023年度は過去最多の34万6482人に上ったことが文部科学省の調査でわかった。前年度より4万7434人多く、30万人超は初めて。
 また、増加は11年連続で、特に20年度以降に約15万人増えた。同省は、コロナ禍の影響が続いていることや適切な支援不足が背景にあるとみている。

上記記事:https://www.asahi.com/articles/ASSB014F8SB0UTIL025M.htmlより


不登校がこんなにも身近になった時代、私立中学でどのようなことが起きているか、お伝えします。




私立中における不登校

私立中で不登校という事象はどれくらいおきているのでしょうか。文科省の令和5年度調査によると、全国規模で8,120人となります。(下記資料p.78)

また、年度はずれますが日本全国の私立中に通う生徒の実数がざっくりと25万人ということですから、割合として3.2%の生徒が不登校となっていることがわかります。
不登校生徒は増加傾向にありますが、私立中に通う生徒全体の人数はおおむね一定なので、この割合も十分に説得力を持つと思います。


1クラスの人数を40人とすると、クラスに1人か2人は不登校の生徒がいる、ということになります。


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この数字は、僕の実感とも合います。
中学校段階で、様々な理由で不登校となる生徒がいますが、おおむねクラスに一人いるかどうか、という状況です。

ありがたいことに、僕の勤務校では家庭に問題があり、安心して登校できないという生徒は多くないので、地域や学校の特色によってはもっと増えてくるのだろうとも思います。


不登校の影響


不登校の生徒がクラスで多くなってくると、まず担任の負担がかなり大きくなります。
まずすべての配布物に郵送などの特別な対応が必要になります。ホームルームで配布する手紙だけであればよいのですが、授業で扱ったプリントなども郵送しようとすると、全授業担当からプリントを集め、保管することとなるので頭の中に常にプリント配布がある状態となります。

また、定期的な電話での相談、場合によっては家庭訪問などを繰り返し、純粋に通常業務にかけられる時間も減っていきます。

加えて、周りの生徒の印象としてもどうやら「ずっといないのが当たり前なのかな」と思うようになり、ついこの友達は来ないのが当たり前、と認識して過ごしてしまいがちです。

このような状況で、不登校である生徒が勇気をもって登校した際、周りの生徒は悪気なくその生徒の椅子に座っていたりすると、居場所を感じづらくなったりもします。
インフルエンザ等による連休であれば気にはならないのですが、うまく学校に登校できない状態で休むようになると、本人の受け止め方が変わってしまいます。
差しさわりのないことも気になるようになってしまったり、SNSへのログイン履歴なども見られているのではないかと不安になってしまったりすることがあるようです。

そのような気持ちを考えると、「普通に登校すればいいのに」と簡単に捉えることは、難しいようにも感じます。
経験の浅いうちはなぜ登校できないのかわかりませんでしたが、僕自身が経験を積むことで、本人にしかわからない捉え方があるのだろう、と思うようになりました。


不登校の実例


「わが子が不登校になったとき、どのような未来が有り得るのか」


おそらくこの文章をここまで読んでくださっているあなたが気になるのは、この点だと思います。

これまでの経験で印象深かった生徒の話を、特定されない程度にぼやかしたりしながらお伝えします。

こちらのコンテンツで紹介した、Bさんの話です。


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Bさんが学校に来れなくなったのは、中2の初めの頃でした。

もともとは明るい生徒でした。運動部に所属し、学年でのリーダーを務め、友達も多く、勉強もよく頑張っている生徒でした。

クラスでも、周りの生徒と仲良く過ごす生徒でした。


あるとき、お母さんの入院という出来事がありました。
Bさんの家では、お父さんの仕事を調整しやすいわけではなく、弟、妹の面倒を見ることもあって、自分のことまで手が回らなくなっていってしまいました。

Bさんは部活も勉強も頑張ろうとしていたのですが、何も捨てずにやり切ろうとしたのが災いしたのか、どちらも少しずつうまくいかなくなっていきます。

特に勉強でついていけなくなってしまったのがつらかったのかもしれません。だんだんと学校を休みがちになったBさんは、先ほど書いたように、教室に入りにくくなってしまいました。

これは、お母さんが退院した後も続く難しい問題でした。


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図書室や保健室に登校し、空いている教員が話し相手になったり、勉強の面倒を見る対応をしていたのですが、ある日お父さんから相談がありました。


「高校からは転校を考えている」


とのことでした。
この言葉が出たとき、僕たち教員はあまり強く出れません。


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転校はしない方がいい、このまま僕たちが面倒を見ますから。


そういうのは簡単です。ですが、そう言い切ってしまって高校3年間Bさんが結局登校できなかったら?
Bさんが本来過ごせたかもしれない高校生活を、元の学校に縛り付けることで失わせてしまうことになるかもしれません。

ですが、転校することでまた一から人間関係を気付くことが出来たら、もしかしたらうまく登校できるようになるかもしれません。
みんな条件は一緒ですから。



残るのか、転校するのか。


どっちがいいのかなんて、誰にもわからないんですよね。
そんな中で、盲目に「面倒見ます!」ということはできませんでした。
もしかしたら、「この先生、学費取るために絶対転校させるなって上司に言われてるんじゃないの?」と思われるかもしれない、とも考えてしまいました。



そうして、Bさんは高校から別の通信制高校へ移っていきました。



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数年して、Bさんがいた学年の生徒も大学受験を迎えます。
以前書いたように、バリバリの受験指導をするタイプの教員である僕は、生徒を叱咤激励しながらひたすら数学の入試問題とにらめっこしていました。

そんな僕のところに、一つの手紙が届きました。

Bさんの転校した学校からの手紙でした。


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Bさんはその後、転校した学校で生徒会長となり、積極的な活動をするようになりました。
そして、推薦で早慶の看板学部に合格しました。
非常に優秀な生徒さんとご縁をいただき、ありがとうございました。
以前担任であったますひこ先生は気になさっているだろうと思い、連絡いたしました。


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こういった文面でした。

何が正解かはわかりません。
早慶に受かればそれで成功なのか、と問われれば、間違いなくNoといいます。
当然のことながら、学歴は幸福を保証してくれません。


ですが、Bさんがもとの学校にいたら、果たして早慶に届いていたか?と問われれば、それもおそらくNoでしょう。

中高一貫校の多くは、かなりの進度で勉強が進みます。
不登校は深海魚と非常に親和性が高く、そのまま自己肯定感を削られる事例が大半です。

なんとかそうならないように工夫をしますが、早慶に届くか、となるとやはり難しいものです。

新しい環境を得て、そこでまた一から頑張ることの出来た強さが、Bさんの一番の財産なのだと思います。
それを発揮するには、もとの学校では無理だったでしょう。


思うこと


「せっかく中学受験したんだから」


おそらく何かの経営をしている方は、この考えの恐ろしさを非常によくわかっていると思います。
これまでに費やしてきた時間、お金、努力などをサンクコストとして切り捨てる(ように見える)ことは、本当に抵抗のあることです。


中学受験をするにあたり、あなたは沢山の学校を見にいくでしょう。
様々な情報を調べ上げ、我が子にもっとも合った学校を第一志望としたいと思ったでしょう。
その中で、子どもが気に入って受験してくれ、無事合格した学校に、今通っていたり、今後通うことになります。


ですが、非常に残念ながら、やはり外向きの顔をしている学校は多くあります。
僕の今の勤務校も含め、です。

極端な話、誰が担任になるか、誰が授業担当となるかによって、受け止め方が180度変わってもおかしくないと思います。


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「せっかく中学受験したんだから」

ええ、非常にわかります。

「一度合格した生徒を放り出すのか」

もう面倒見てられないから手を放したいわけではないんです。


この生徒に合った環境は、本当にこの学校なんだろうか。


そう感じながら、出来る限りのサポートをし、他の大多数の生徒の指導をしている教員が、それぞれの学校に沢山いると思います。

うまく行かなくなったとき、この文章と、Bさんのことを思い出してもらえたら、もしかしたら視野が広がるかもしれません。


教員の責任放棄としての炎上を覚悟しながら、良い方向に動くことが出来る手助けになれたら、と願いを込めて、配信します。






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