W_006 文系と理系のえらびかた
こんばんは。この記事は文章でお送りします。ますひこです。
以前音声配信で話したことですが、文理選択の視点にどのようなものが考えられるか、テキストで残しておきたいと思います。
今目の前にある超短期的な視点から、将来を見据えた長期的な視点まで整理してお伝えします。
何かの本を読んだり、様々な人の意見を聞いて網羅的にまとめたものではなく、僕のこれまでの経験を述べていく文章となりますが、参考になれば幸いです。
まずは、「なりたい職業」がない前提で考えていきましょう。
超短期的な視点
文理を決定するにあたり、最も簡単な基準でありかつ超短期的な視点は、「数学が出来るかどうか」というものです。
おそらく文理を決めるタイミングでは、教科書として「数学Ⅱ・数学B」を用いた授業を受けていることでしょう。
数学Ⅱの内容は、その多くが「数学Ⅲ」を学ぶための基礎となるものです。そのため、数学Ⅱの内容単独で理系大学の入試に出ることはあまりなく、数学Ⅲの内容を自由に扱うために問われることが大半です。
言い換えると、数学Ⅱが出来ずに理系を選ぶ、というのは分数の足し算・引き算が出来ずに中学受験をする、というのに近いものがあるのです。
伴走を経験したあなたであれば、それがいかに無謀かわかっていただけると思います。
そして、分数の計算が出来れば中学受験ができるわけではないように、学校の教科書で学ぶ数学Ⅱと学校の教科書で学ぶ数学Ⅲの間、学校の教科書で学ぶ数学Ⅲの間と入試に出る数学Ⅲの問題の間には非常に大きなギャップがあります。
このギャップを乗り越えるのは並大抵の努力ではできません。それこそ、達成した暁には経験ある教員が驚くくらいのものです。
このコンテンツでお話しした、A君の事例ですね。
学校によっては一定の成績を残していない生徒は進級させない学校があります。数学Ⅱが全くおぼつかないままに理系を選ぶと、こういった学校ではかなり苦労するor進級できなくなる可能性が高くなることが考えられます。
まず数学が出来るかどうか、でかなりスクリーニングがかかり、学校によっては6~7割くらいが文系を選ぶところもあるでしょう。
そして、多くの高校生が文理選択において最重要視する観点だと思います。数学が苦手な生徒は得てして数学が嫌いであり、文理選択の後も学び続けることに抵抗があるからです。
このように、超短期的な視点からいうと、数学の出来によって文理を決める、という考え方があります。
数学に限らず勉強が苦手な高校生、自分の将来のイメージを描くことをしてこなかった高校生が選びがちな視点です。
短期的な視点
数学が出来るかどうか、の次に短期的な視点は、今どの教科が好きか、で文理を決めることです。
例えば「うちの子は化学が好きだから理学部化学科に」とか、「この生徒は世界史が好きだから文学部史学科に」といった塩梅です。
この視点、一見非常に合理的に見えます。化学が好きな子が化学科を目指すため、苦手な数学も頑張れるということは往々にしてあるからです。
ですが、後々どのようなことが起きるかわからないものです。
僕自身がそうであり、またあなたがもし大学で数学を専攻している方であれば伝わると思うのですが、大学で扱う数学は高校までのものと別種のものです。
なんなら「大学受験で解いた問題の中で、一番苦手だったタイプの問題」ばかりをひたすら講義で証明し、抽象の沼に落ちていくような感覚があります。
「大学で学ぶときには化学は物理になり、物理は数学になり、数学は哲学になる」
という言葉を聞いたことがあるでしょうか。高校で学んでいることはあくまで高校生にも学ぶことができる形に抑えられているものであって、大学に進むと印象が全く変わるものです。
そして、困ったことに「高校では成績が良かったのに大学に入った途端急についていけなくなる」ということは珍しくありません。
これは塾や予備校、学校での手厚い指導があった生徒ほどギャップを感じてついていけなくなることも一因としてあげられますが、そもそもの扱うレベルの差が大きな影響を及ぼしているのではないでしょうか。
高校で扱うどの教科でも、深めていったときにその内容を好きでいられるかどうかはわかりません。
そのとき、頑張り切れるかどうか。高校での好き・嫌いだけで決めるのは、少し危ういようにも思います。
中期的な視点
やりたい仕事があるわけでもないけど、とりあえず大学には行きたい。
これが、大学進学を考える世の高校生の多くが考えることでしょう。
これではいけない!と思って様々目の前の生徒に手を打ってみたことはありますが、現状を変えるのは難しいことでした。
そんな僕が一つ考えることは、人と会話するのが苦手なら理系を選んでおく、という選択です。
世の高校生の多くは文系学部に進学します。実に2/3が文系です。
文系に進学した生徒の多くは、いわゆる「サラリーマン」になっていくようです。
法曹、会計あたりの資格を取らなければ、一般企業に就職するか公務員となることが多いでしょう。
その際、必ず必要となるのは「他者との接触」です。営業色をもつ業務では、必ず他者に自社の商品を買ってもらう必要が出てくるはずです。
理系研究職であればある程度自分の世界に没頭できますが、割合として一般企業に勤めるサラリーマンは理系として働いていくよりも他者と接触する機会が多いでしょう。
そして、営業成績が評価につながるように、他者と接触することに強みを持つ人が一般企業におけるサラリーマンとして成功する一つのきっかけになるのではないでしょうか。
なによりもまず、就職するための面接で自分を売り込むことができるかどうか、がかなり大きなハードルになる生徒もいます。
理系のクラスを担任していると、たまに明らかに「この子は他者とコミュニケーションをとるのが苦手だな」と思う生徒がいます。
17、18歳でそのような特性を持っている生徒が、その後いきなり明るくなることは、ないわけではありませんが難しいと思います。
勉強はある程度やればできるものですが、性格は努力してもなかなか変えられないもの。
もしコミュニケーションが苦手であれば、将来自分の苦手な面で評価される環境を選ぶのはつらいものです。
その場合、理系教科を頑張ってみる、というのも参考になる視点かもしれません。
長期的な視点
ここまでの視点では、つきたい仕事の存在にほぼ触れてきませんでした。
理由は、つきたい仕事がある高校生をほとんど見ないからです。
高校生の周りにいる大人は、せいぜい自分の両親と学校の先生くらいなものです。
その中で星の数ほどある仕事の中から自分がやりたいことを決めなさい、といわれても、無理があるのではないでしょうか。
なりたい職業が見つかった生徒は幸運です。そのためにどんな苦手な教科も頑張らなくてはいけません。
目標の有無は努力の継続に直結します。文理も大方の場合、職業によって確定するでしょう。
ただ、不安な点もあります。
「中1の頃に目指していた職業が、高1では変わっている」
ということはよくあります。出来れば高1までは様々な職業を見せてあげたいですし、様々な職業についている人の話を聞かせてあげたいと思います。
ある職業を目指して大学まで進学したけれど、実際にその職業に近づいてみたり、裏側を見たらとてもなりたいと思えなくなってしまった。
これが起きているのが、教員養成系大学の教育学部です。大学に来てからの目指す職業とのミスマッチは、教員や医師などの資格職にとってはかなり痛手です。
大学の用意する「教員になるルート」「医師になるルート」から抜け出すのに余計な努力が必要だからです。
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ここまで様々考えてみましたが、ずば抜けた人物はこういった文理選択と少し離れた所にいます。
どんな職業にも文系・理系の素養が必要であるといわれるようになりましたが、それを地でいける高校生も存在します。
そのような子には、僕は理系を勧めます。なぜなら、理系のほうが初学で独学をしにくいと感じているからです。
数学書なんてものは、わかっている自分ですら慣れてない分野の本を読むと数か月かかります。
知識を入れて有機的につなげるのが文系として学んでいく事柄に必要なことだとして、理系はまず知識を入れるのにかかる労力が大きいのです。
その意味で、独学しにくい理系を学び、独学しやすいものは自分で学んでいくという考えも優秀な生徒にはありうると思います。
どうしても理系の学問が性に合わなかったとき、就職で一般企業に文系就職する、という手も残っていますしね。
その逆、文系学部から理系研究職への就職が有り得ないことを考えると、理系のほうが幅が広いとも言えます。
下世話な視点
ここまで考えてきたことをすべてぶち壊してしまうような、下世話な視点も考えられます。
それは、「有名大学に進学しやすいのは文系」という選択です。非常に下世話ですが、ニーズはあるかもしれません。
このコンテンツでした話です。
早慶の学生をまとめたとき、文理で学生数にはかなり差が出ます。
例えば早稲田、教育にも理系学科はありますが、少数なので教育学部はすべて文系学生として数えてしまいます。
この早稲田公式のpdfによると、理系7214人に対して、文系31773人。ざっと4倍です。つまり、文系のほうが4倍入りやすい。
慶応は医看護薬理工を理系と数えます。すると理系5943人に対して、文系20200人。こちらもやはり、文系のほうが3倍以上入りやすいんですね。
東大ではざっくり文:理が3000:4000程度で、理系のほうが少し多いですが、早慶を目指したいということであれば文系のほうがはるかに入りやすいのがわかるかと思います。
また、文系学部は種類が多いことも大きな差です。実際の大学受験においては、文系学部は何回でも受験できるのではないかと思うくらいの受験スケジュールを組むことができますが、理系は最大でも2~3程度になるでしょう。
早慶に行きたい、あこがれているという高校生
こういった生徒は一定数担任したことがありますが、その気持ちを汲んで文系を勧めたことは一度や二度ではないのが本音です。
その場合、合否をまず分けるのは英語なので、ひたすら英語をやるように指示を出します。
それで憧れを現実にした、充実した4年間を過ごし、より広がった世界でやりたいことを見つけてくれたら、言うことはないですね。
終わりに
様々な視点で語ってしまいましたので、最後にまとめておきます。
・なりたい職業があるならそれを目指す。ただし、その職業の現実を知ってから変更しようとするのが遅くなるほどダメージは大きいので、高校生の間に現職の人と話せるとベスト。
・なりたい職業がないなら、性格からざっくりと見ていくのもよい。おおむね物静かな子が文系に行くと、面接から職場での評価まで苦手な面で評価されることになりかねないかも。
・得意教科、好きな教科等で決めるのは、大学進学後のミスマッチの危険性あり。大学での学びは高校と質が変わるものも多い。数学ができずに理系に来るとかなり苦しいことに。
・下世話だが、ブランド大学へ進学したいならば圧倒的に文系がいきやすい。ただし英語必須。
といったところです。
5000文字近く書いてきてこんなことを最後に残すのもなんですが、結局個人の人となりを見て判断することが非常に多いです。
ここに記したものはその判断材料で使ったことが多いもの、と思っていただけたらと思います。
あなたのご子息の文理選択は、何よりもまず本人と、本人をよく知る先生、そしてあなたが考えなくてはわかりません。
その一助となれたら幸いです。