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W_003 深海魚になってから

こんばんは。この記事は文章でお送りします。ますひこです。


深海魚、中学受験界隈の方々にとっては、あまり聞きたくない言葉ですよね。
わが子をそのように捉えることって、本当につらいことだと思います。

今回は、これまでに配信したコンテンツのまとめを含め、いわゆる深海魚になった後どのような結果となることが多いか、をお伝えしたいと思います。


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深海魚とは


中高一貫校に入ってから成績が低迷し、学年下位から上がってこれなくなってしまった生徒を「深海魚」と比喩することがあります。


これは、個別指導塾WAYSさんの定義です。「深海魚 中学」で検索して一番最初に出てきたので紹介しますが、どこのwebでもそう変わらない定義がされているものと思います。

このように定義されてはいますが、あなたは深海魚についてどのような定義をお持ちですか?
この定義がずれると、この先の文章がかなり的外れになってしまう可能性があります。


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僕の知り合いの勤める中学受験塾(中高一貫校生用個別指導併設)では、「成績が学年の下位25%」を深海魚の定義としていました。

この塾では20年以上前から深海魚という用語を使っていましたから、そのころからこの問題はあったのかもしれません。

ですが、成績の下位25%とは、そんなにも抜け出せないものなのでしょうか?
10年以上連続でクラス担任を務める現役私学教員として断言しますが、このレベルであれば抜け出せないことはありません。

ちょっとしたきっかけ、生活習慣の変化、課題へ取り組む姿勢によって、特に中学生の成績は大幅に上下します。
塾に通う、朝早く学校に行く、家で1時間英語のワークをやってみる、これらのうち一つでも出来たら、少しずつ抜け出していきます。そしていつか、爆発的に伸びて深海魚とは思えなくなるでしょう。


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僕の考える深海魚の定義は、「英語・数学がどちらも成績下位20%」です。
この2科目は蓄積がものを言います。あるときに勉強したい!と思っても、蓄積がないと独学をしにくいのです。

「来月から海外出張行ってもらうから、ビジネスレベルで英語話せるようにしといて。」

こんな指示が会社で出たら、もともと英語を勉強していない限りは対応できませんよね。
だからこそ、海外赴任出来る人は事前に選抜を受けているものと思います。
私学で海外研修に引率するのも、基本的には英語の先生です。何かあったときの対応が必要だからです。


これは大学受験も同じで、数学を高1までサボっていた=教科書すらおぼつかない程度の理解だったという生徒が、2年間で東大・東工大レベルまで出来るようになることは基本的に考えづらいです。
これまでの経験から、理科大であればあり得ます。早稲田・慶応だと難しい印象です。

どちらも大人になってから必要とされがちな教科であり、また必要となってから勉強し始めると独学しにくいという特性から、これらの教科が両方とも苦手だと、キャッチアップは非常に困難になります。
このような事情から、僕は「英語・数学がどちらも成績下位20%」を深海魚ととらえています。

これは他の教科をやらなくてもいいという意味ではありません。どの教科も学ぶ必要があるから学習指導要領で取り上げられています。ただ、この2教科には結果が出るまでに時間がかかる、ということです。

こういった事情から、僕は英語と数学の成績を注視しています。この2教科はできているけど他の教科の成績が悪く、結果全体の下位25%、という生徒がいたとしても、そう焦ることはないでしょう。


深海魚のその後


さて、僕の定義で深海魚とみなすことのできる生徒がその後どのような進路を選んでいくか、ということになります。
基本的に理系は選びません。というよりも選ばないよう説得します。


それはなぜか。
数Ⅲを履修し、十分にできるようになっていくハードルはⅠAⅡBの比ではないからです。
体感、数ⅠAで習う事柄の量は中学数学全体の量の2倍、数ⅡBは3倍、数Ⅲは3倍、数Cは2倍という印象です。
また、数ⅢはⅠAⅡBまでと一段違う抽象度となります。中学数学と高校数学のギャップ、と同じくらいの抽象ギャップが、数Ⅲであると考えてください。


これを残り2年間ですべて仕上げていく、というのはかなり困難なことで、教科書レベルの事柄を理解するだけでもかなり生徒を選びます。
さらに入試レベルまで、となるとなかなか到達することは難しいのです。
さらに英語も厳しい、となると、まず大学受験に到達するまでで疲弊しきってしまいますし、そのような事例を数多く見てきました。

公立高校の生徒が理系で振るわない一番の理由が、数Ⅲを1年未満で仕上げるというカリキュラムの無理が原因だと思っています。
だからこそ、横浜翠嵐さんのような超スピード型カリキュラムについていける生徒でないと、入試レベルに到達する前に受験が来てしまうのです。

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半面文系であれば、数学を切り捨てることで勉強時間の多くを英語に費やすことができます。
これを対面で言うと他教科の先生に怒られてしまいますが、暗記で通用する部分が大きい教科はなんとかできることが多いです。

英語、国語、社会に特化して勉強することで、意外な生徒が早慶上智といった難関大に合格していく事例も毎年観測しています。
$${\tiny{ただし、そのような定員枠がどんどん減っていることも事実です。}}$$

文系に進学し、受験に向けて勉強する教科を数学以外で絞ってもらうことで、急ピッチで受験に間に合わせる。
そのうえで、日東駒専から早慶まで、自分の偏差値帯を超えて幅広く受験することで合格を取っていく。
これが基本的な深海魚の戦術となってきます。


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この文系ケースの問題点は、数学の苦手意識がいつまでも消えないことです。
あなたもご存じとは思いますが、今も就活でSPIを利用する企業は多く、せいぜい中受算数レベルの問題が問われます。
しかしこの文系ケースの生徒は「自分は数学ができないから」という意識がかなり強く、就活で苦労したということをよく卒業生から聞きます。
また、就職後もこの時代に数学を使えない社会人となりかねないことを考えると、本当は数学を頑張ってほしい…という気持ちにはなります。


深海魚が深海魚でなくなった話


ここまで暗い話をしてしまいましたが、あくまでこれは全体の傾向の話であり、個別のケースであれば深海魚とはとても言えなくなった生徒たちもいます。
あなたがお子さんを見るときの、支えの一つとなれたらと思います。


・A君の事例

こちらのコンテンツでお話しした、A君の事例です。



A君は入学当初から数学が苦手でした。
簡単な計算ができないのです。簡単な計算ができないというのは、概念を理解できていないことを意味します。

中学の時点でこれでは、数Ⅲを履修していくのは困難を極める。理系の進路を選択すべきではない。

当初の僕の見立てはこうでした。実際、高校数学に入る中三でA君は数学の定期試験で4点を取り、保護者同伴の指導の対象となります。
その時点で数学が壊滅的だったので、保護者の方とも話をして進路を考えましょうと伝えました。


その後A君は理系を選びます。
面談のたびに「数学はできないけど、理系がいいです。」と主張するA君を止める権利もない僕は、理系での進学をサポートすることに決めました。


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それ以降のA君は、朝7時には学校に来て勉強するようになりました。
出勤してきた僕を捕まえて、とにかく質問するようになりました。
授業中も必ず寝ることはなく、周りからの視線も気にせずわからないことを聞けるようになりました。


話を聞くと塾でもかなり頑張っているようでした。
その甲斐あって、高3の夏前から数学の成績は急上昇。河合塾の全統模試でも偏差値65を優に超えてくるようになりました。
本人に聞いてみると、「食わず嫌いでやってなかったところがあったけども、本気で取り組んでみたら少しずつ分かってきた。出来るようになったら楽しくなって、朝来るのも質問もつらくなくなった」とのことでした。


結局彼は英語が苦手なままでしたが、数学で点数を稼ぐことで東京理科大に進学しました。
中3時点では考えられなかったような、優秀な進学先です。


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A君のような生徒は多くないです。
傍から見れば「修行」に見えるような彼の学習姿勢は、今の世の中受け入れられにくくなってきているものとも思います。

彼は修行を厭わず、とにかく勉強する人になることを選びました。
そして優秀な大学で工学を学ぶという目標にたどり着きました。
彼が将来工学で身を立てなくとも、自分で努力した結果を残すことが出来た、という経験が彼を支えてくれると思います。

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A君は、工学を学ぶことを選びました。
A君の周りにも、同様に工学を学びたいが成績が振るわない生徒は多くいました。
その中で、A君だけが名門大学に進学していきました。

A君と他の生徒の差は何だったのか。
なぜA君は毎朝7時に来ることができたのか。
なぜそれを自分で決めることができたのか。

それは、何度彼に聞いてもわかりませんでした。
他の生徒と違って、言い訳せずに朝から勉強している姿だけが、印象的でした。


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多い事例ではありません。ですが、深海魚だったにもかかわらず完全に抜け出し名門大学へ進学する事例は、0ではありません。
A君の心に火をつけたものが何だったのかはわかりませんが、ついた火が今も消えずに彼を前に進めるエンジンを点火し続けていることを願います。


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きっと、どの生徒もそんな火をもっているはず。

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