韓国語・おもしろ語彙の世界 韓国語になったサンスクリット語
仏教がインドで発祥し中国を渡り韓国に入ってきた過程で,多くの古代サンスクリット(산스크리트)語が韓国にも入り込んできました。
「フリーター」と称して定職につかず適当にアルバイトなどをして暮らしている人たちのことを韓国の若い人たちは백수〈白手〉と言っていますが,この語は,もともと백수건달〈白手乾達〉という語が短くなったものですが,この건달は古代サンスクリット語のgandhaevaから由来したものです。
gandharvaは霞を食べながら楽器を奏でていた高尚な音楽の神のことでした。しかし,来る日も来るも何もせず,ご飯もろくに食べずに楽器の演奏ばかりしていたので,gandharvaというと,「ごろつき」「怠け者」という意味になってしまいました。そして,それを音訳した건달という言葉が生まれたのです。건달 자식といったら「ドラ息子」のことで,건달 부리다と言ったら何もせずにぶらぶらと怠けて暮らすことを言います。ドラ娘のことはきれいな白鳥に引っかけて백조と言っています。
「奈落の底に落ちる」というときの「奈落」は韓国語では「那落」とも書きますが,同音の나락<奈落>は地獄という意味のnarakaの音訳で,これもサンスクリット語です。奈落の反対語は天国,仏教でいう涅槃です。あらゆる煩悩が消滅し苦しみを離れた安らぎの境地,究極の理想の境地を言います。韓国語では열반と読みますが,これはnirvanaという言葉から来た語です。
そびえ立つ高い建物という意味の「塔」も,サンスクリット語のstupaから来た言葉です。もともと仏舎利と遺物などを安置した「卒塔婆」と言ったものの略です。「塔」といえばソウルの鍾路2街[종로2가]には탑골공원<塔골公園> があります。仏教寺院だった圓覺寺[원각사]の跡地に造られた小さな公園で,園内に大理石で造られた13層の石塔があります。昔はパゴダ公園と言っていました。1,919年3月1日,この公園で独立宣言文が読み上げられ,全国的な独立運動へと発展した3・1独立運動[삼일 독립 운동]の発祥地で,公園の中央にはレリーフと筆頭署名者の像が建っています。
事故現場などの形相の凄惨さを表す語として阿修羅場(아수라장)という言葉がありますが,これもAsuraというサンスクリット語から言葉です。この「阿修羅」とはインドの鬼神の1つでけんかのオニのことです。「阿修羅」は体の長さと広さが420万里(168km)にもなる巨大な怪物でした。怒りっぽくて,ちょっとしたことですぐ喧嘩をするので,「阿修羅」が行くところはいつも喧嘩が絶えず,騒がしいことこの上ありませんでした。この「阿修羅」が住み,つねに戦いの絶えない世界を「修羅場」と言い,仏教でいう六道の1つと言われています。六道は,地獄道・餓鬼道・畜生道の三悪道と阿修羅道・人間道・天上道の三膳道に分かれていて,阿修羅はそのうちの1つの世界のことなのです。
さて,산스크리트語由来の単語はまだあります。三昧とは古代インドのサンスクリット語のsamãdhiの音写です。精神を集中させ,心身を安定させる修行の1つです。読書に熱中することを読書三昧(독서 삼매)といいます。一心不乱(일심불란)の境地ですね。
「刹那」もその1つです。一瞬という意味ですね。Ksanaという語から来た言葉で찰나と読みます。これは、極めて短い時間のことを意味する言葉です。バスケットボールの中継を見ているとアナウンサーが슛하는 찰나! 〔シュートする瞬間〕などと叫んでいます。“찰나를 놓치지 말아야 한다.”とは,「瞬間,瞬間を見逃すな」という意味です。
・육상 경기 100미터 달리기처럼 찰나를 다투는 스포츠는 없다.
〔陸上競技の100メートル走のように瞬間を争う競技はない〕
・항공기가 활주로애 착륙한 잘나 화염이 치솟았다.
〔飛行機が滑走路に着陸した瞬間に炎が上がった〕