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【手記】昭和21年、北朝鮮からの脱出、  そして生還[第11章]妹の手記に寄せて

[困難の中で生きようとする人間の果てしない力]

  十九歳の妹洋子が、現在とは異なる事情の中、列車と船を乗り継いで、北朝鮮駐在の私の許に一人旅して来てくれました。つわりで苦しむ私には、妹の手助けがどんなに心強かったことか。私が無事長男を産んで順調にいけば、お手伝いを終えて帰国する筈の洋子に、終戦の憂き目を味合わせ、「北朝鮮からの帰還」というとんだ目に遭わせてしまいました。

 手記に登場する亡夫昌治も、敗戦後ソ連の捕虜となった体験を「遥かなるボルガ」という一冊の本にまとめましたが、私は長年、北朝鮮からの帰還体験を対談などで語るだけに留めておりました。

 この度、妹洋子が書きまとめた物を読むと、あの時の過酷な体験が現在でもまざまざと思い出されます。周囲の人たちが次々と死んでいき、それを傍らに見ていて、恐怖も、不快も、何も感じなくなっていた私たち。生まれて五十日目の長男勗や産後の肥立ちの悪かった私が、生きながらえたのも妹の若い力があったからこそと、いつも感謝でいっぱいです。

 現在、私たちがこうして生きていられるのも、困難の中で生きようとする人間の果てしない力、希望を与えてくれた良き人達との出逢いがあったからこそと思っております。そして、神にも感謝しております。

 妹の執筆にあたり、谷内田章夫さんをはじめ、編集に携わった谷内田哲夫さん、他多くの皆様お世話になりました。ありがとうございました。
(つづく)

平成十六年六月 

阿部玲子 記

#昭和21年北朝鮮から脱出 #俺たちの朝陽


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