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【連載小説】俺たちの朝陽[第14章]決戦、決戦!

【三つ巴の優勝決定戦】

 3年目は、他のチームも戦力的にアップしてきて、オダチンと柄モンの両輪が奮闘するも接戦が続いたが、ジャンケンの神、幸ちゃんの活躍もあり、終盤に差し掛かっても優勝争いの一角を占めていた。
 終盤に差し掛かり、3チームのデッドヒートが繰り広げられていた。ひとつはゴールデン街の呑み屋の常連で作る、『ブラックブラフズ』、もうひとつは、ユニフォーム問題で唯一、『27時』の初代ユニフォームを支持してくれた、パチンコ店の従業員で作るチーム、『MIYAKO』。そして我らが、『成子坂フレンズ27時』だ。
 三つ巴の接戦は終盤に差し掛かり、お互いに譲らず三者の勝ち数が同じになり、優勝者決定へと三者のプレイオフ戦にと持ち込まれた。先に2勝した方が優勝だ。
「大相撲の優勝決定戦みたいだな」と、洋助は気合が入った。

 第1戦は、『MIYAKO』対『成子坂フレンズ27時』だ。
 先発は、柄モン。1回、2回、3回とヒットを打たれながらも切り抜けたが、4回にフォアボールとヒットで1、2塁とベースを埋められ、最も警戒しなくてはならない四番打者にスリーランを打たれ、3点のリードを取られてしまった。
 その裏の『27時』の攻撃はあっさりと3者が討ち取られ、0点で終わってしまう。5回表はなんとか代わったオダチンが抑えて、迎えた『27時』の5回裏の攻撃。時間切れが迫っていたので、恐らくは最終回だろうと思われた。
 打順は良かった。1番の守田からだ。
 守田はしぶとくファールで粘り、フォアボールをもぎ取り出塁した。
 決定戦とあって、マー姐ぇや桃ちゃん、由美、麻美の姉妹も応援に駆けつけ、
「やったー」と、大声を上げた。
「その調子、その調子」と、ベンチにいる面々もまだ3点の差があるのに、もう逆転したかのように騒ぎ始めた。
 二番の勘太は、相手ピッチャーが『27時』の大歓声に気押されて動揺したのを見逃さず、ドラッグバントを試みた。
 だが、惜しくも三塁線をわずかに外れてしまった。
「惜しいなあ」
 この時ばかりは、みんなが味方への野次を忘れて、一緒になって残念がっていた。
 勘太は、その声援に後押しされたように、次のボールに食らいつくとバットの先っぽに当たったことが幸いしてか、ライト前にポツンと落ちた。これでノーアウト一塁、二塁に。 
 三番はナリだ。ここ一番で結構勝負強さを発揮するナリに期待が集まった。
 思い込んだら命懸けという、いい意味でも悪い意味でも気が早いというか、イケイケのナリは、初球のボール気味の速球を思いっきり叩くと、鋭いライナーとなった。
 しかし、サードの真正面に飛んでしまったため、みんなのため息が流れる中、討ち取られてしまった。ワンアウト。
 次は、四番のコバだ。

「置物じゃないところを見せろや」と、信介。
 相手投手は、四番という事もあって、セオリー通りに外角攻めにくる。1、2球目も低めのボール球。だが、右打者のコバは、その構えとは違い外角寄りのボールを、逆方向の右側へ強い打球を飛ばすことができる打者なのだ。
 コバはまた3球目も外角を攻めてくるだろうと確信した。内角を待っているかのように左足を少し開き気味に構えホームベースからやや離れて、相手投手を外角に投げるように誘導。
 すると、キャッチャーの微かな動きを感じ確信した。見事と罠にかかったように外角へ。それも真ん中寄りの絶好球だ。今度はホームベース寄りに足を踏み込んで、待ったましたとばかりに目一杯叩くと、そのままボールは、ライト線へ。
 二塁ランナーの守田と一塁ランナー勘太が俊足を飛ばして相次いでホームイン。コバ会心の二塁打。
 これで2対3。一気にベンチは逆転ムードになった。
 次のアイアアンマン佐藤に誰しも注目した。なにせその腕っぷしの強さは素晴らしく、当たればレフトフェンスを軽々と超えてしまうパワーの持ち主だ。
 相手バッテリーは、素振りの際の引き裂くような音に、恐れをなしてか、外角へのボール球4つを続けストレートのフォアボール。また一塁、二塁。
 一塁ランナーは勝ち越し走者になるため、足の速いホセに変えた。ホセも嬉しそうに一塁ベースを踏んでいる。
 次打者の哲彌は、ここで決めようと気負っていた。1球目は、内角高めのボール球を空振り。2球目の外角いっぱいのストレートを見逃してツーストライク、ノーボール。そして、3球目のカーブに身体が開いてしまい、思い切りの空振り三振。
 チャンンスが一転、後がないツーアウト。いきなりの崖っぷちに立ったのが前監督の地金。
「ここは意地の見せ所だぜ」と、洋助。

 地金は、やっぱり本当のチャンス場面は、ヒーロー役のクリーンアップのところではなく、地味な下位打線に回ったくるのだと、今更ながら思った。 
 地金は、ホームベース近くに、体を低く押し曲げて構えた。
 その1球目、投手の投げたシュート気味のボールが地金の身体に食い込んだ。 
「ウッ」と、地金は呻き、その体を更に折り曲げながらも、内心「やった、これで満塁だ」と、ほくそ笑み、次打者の島田に顔を向けた。
 エールを送ったつもりだったが、島田の顔を見た瞬間、これはまずいとみんなが思った。いつも穏やかな笑顔の好青年の彼がガチガチに固まっている。こういう時に、気の利いた冗談を言わなくっちゃと思ったが、誰しもそんな余裕は無かった。
 そして第1球が投げられたが、相手ピッチャーは、島田以上に追い込まれていた。無理もない、ツーアウト満塁なのだ。1球、2球とストライクが入らない。
「次のボール、眼つぶって思いっきり振ってこい」と、洋助が声を掛ける。
 島田は、その声さえ聞こえないようだった。
 こりやダメかもしれないと、面々が思った次の瞬間、ど真ん中の絶好球を島田のバットがものの見事に捉え、ボールは左中間に一直線。
 コバは悠々ホームイン。そして、俊足を飛ばしてホセがホームに滑り込んだ。滑り込みは教えていなかったが、サッカー仕込みのフックスライディングが鮮やかに決まった。 
 最終回、逆転サヨナラ勝ちで、三つ巴決戦の第一試合を『27時』が、先制した。 

 翌日の優勝を決める大事な試合を前にして、地金と綾ベーが例によって『ヒゲ』の店内で、先発ピッチャーを誰にするかで大激論。
 地金はオーソドックスに、前日先発で投げた柄モンを控えに回し、オダチンを最初に投げさせると主張。 
 綾ベーは、全く違った。
 第1戦を『ブラックブラフズ』の面々がかなりの人数で視察に来ていたのでふたりとも弱点を調べあげられているから、違う奴で行くべきだという。
「じゃ、誰さ」と、地金。
「ミッチャン」と、綾ベー。
「え、え、どうしてミッチャン?」
 綾ベーが言うには、相手は打力が売り物のチームだ。相当気が入ってきているから、蚊が止まってしまうようなボールを待ちきれず、大振りしてしまうと強調する。そして、上位打線の打順に合わせ、1、2回を三橋で行き、その後、速球が武器のオダチン、柄モンと繋いでいけば、相手は戸惑い優位に進められるのだと言う。
 一応、納得はできそうな起用法だが、地金は納得しない。前半に捕らえられ、大量失点したら後を抑えても追いつかない。もっともな意見だ。
 延々に議論は続きそうなので、洋助が割って入った。
「じゃあさ、1回だけミッチャンで行き、その後をオダチン、柄モンで行く事にしよう」
 ふたりともオーナーの提案なので、渋々了承した。
 監督の哲彌は蚊帳の外である。〈つづく〉

#俺たちの朝陽 #連載小説 #朝陽

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