育休小児科医とプログラミングの話<3回目のハッカソン参加を終えて>


認知症フレンドリーテックハッカソンに参加・受賞


参加までのおはなし

昨日(2023/8/6)第2回認知症フレンドリーテックハッカソンに参加しました。
"テクノロジーの力を活用して認知症フレンドリーなまちづくりを加速させる"目的で立ち上げられた認知症フレンドリーテックコミュニティが開催するハッカソン。
第1回は都合が合わず、アイデアソンのみの参加だったため不完全燃焼。
第2子妊娠中にイベント告知を読み、予定日から考えて産後1ヶ月頃…ならギリギリ体力も回復しているかなと参加を決意。

決意した時のDiscord

結果、当日集まった3人のチームで「にこにこストーリー」というLINEから写真とコメントを入れてもらえばナレーションつきのショートムービーが完成するというプロダクトを作成し、認知症フレンドリーテック賞をいただくことができました。

自分は「テック」か否か

初めに自己紹介を兼ねたスプレッドシート への記載がありました。

テック or 認知症ケア

私は医療従事者ではありながら小児科医であり、かつ身近に認知症の方がいないので、認知症ケアについての解像度が高くありません。あくまで本で得た知識という感じ。
「テック or 認知症ケア」で選ぶのであれば、テックを選びましたが、自信持ってテックと言えない自分がいました。
なぜなら次の項目の「ハッカソンで出来そうな事」に書ける技術がないから。正確に言うと技術はゼロではないのかもしれないけど、自分のできることがこの項目にどのように書けばいいか分かっていないくらいの理解度ということ。少し前に「フロントエンド、バックエンドとは何ですか?」とエンジニアの方に質問したレベル。言語もPythonとJavascriptを使ったことがありますレベルで、新しいコードを書く時はいつも調べているし。。
とりあえずこの項目には「LINE、一応医療従事者」という記載にしておきました。

チーム編成(チャレンジかぬるま湯か)

アイデア発散の後、人気投票で8つのテーマに絞られ、各自どこに属すか選択することになりました。
所属しているジム(プロトアウトジム)のリーダーであるみつおかさんのアイデアがテーマの1つに選ばれており、かつそこにものづくりナースの千秋さんの名前もありました。
このチームに入れば、(私のものづくりスタート時期からの知り合いなので)自分は何ができますという説明をしなくていいし、かつ自分が頑張らなくてもこのお二方だけで立派なプロダクトができそうだから、今回は赤ちゃん抱えながらやしゆるく参加しようかなと悪魔が囁きます。みつおかさんのチームに名前を連ねました。
その後8チーム内に人数のばらつきがあるため、移動可能な人は第2希望への移動をと運営からアナウンスがありました。本来これはいろんな技術があってどこに入ってもやっていけるよというテック向けのアナウンスでしたが、「せっかく2日間ハッカソンに参加させてもらうように家族にも無理を言ったのだから、挑戦してみたらいいんじゃないの」と天使が囁きます(天使の方が言ってること厳しい)。
そこで改めて他のアイデアを見直してみて、プロダクトとしておもしろそうかつまだ人数の少なかったかとうさんのチームへの移籍を決意。

上と下のイラストはDALL-Eが作成した「厳しい天使」と「優しい悪魔」

かとうさんのアイデアは「忘れてしまっても、その人自身のエピソードを記憶し、エンターテイメントとして提供する 過去のエピソードから自身の物語(動画やスライドショー)を作成する いろんな人のエピソードを共有し、学習することで、体験したことのない架空の体験を提供する」というもの。
最近Twitterでつながったゆーこさんのクラファンプロダクト「我が子がオリジナル物語の主人公に!読み聞かせがもっと楽しくなる『AI毎日物語』」にも通ずるものがあり、おもしろそうだと思いました。

ちなみに別の賞を受賞されたわたなべさんは別件でチーム編成の時は参加できず、テックが1人もいないチームへの参加を提案されご快諾、そして受賞されました。感動しました。

役割分担

チームはアイデア発案者のかとうさん、にしざきさん、私の3人。かとうさんはばりばりのエンジニア、にしざきさんはテックではなく認知症ケアの表明でしたしご家族に認知症の方がいたというエピソードを書いていたのでアイデア出し担当の方と思ったら蓋を開けてみたら「今の期間にやっている他のハッカソンにも参加中です」と私よりはるかにテックの方でした。
アイデア出しをしていく中で、架空ストーリー(他の人の追体験など)もおもしろいけど、自分の昔の写真を使った動画がいいんじゃないかということで、そのようなモバイルアプリを作るという流れでまとまりつつありました。
私はLINEBotばかりやっているのでフロントエンドの知識は全くなく、他のお二方にそこは任せて"写真へのキャプション生成"、"ChatGPTによるナレーション作成"あたりを担当しようと考えていると、途中からLINEで写真登録できたら便利では?という風に路線変更したので、そこだけは自信を持って「LINE周りやります!!」と言えました。
音声ファイルや動画作成をかとうさん、プレゼン資料作成をにしざきさんと決まりました。
デモまでに完成したプロダクトのシステム構成図はこんな感じ。

システム構成

ハッカソンタイム(1ヶ月児を抱えて)

まず技術的なところについて。
これまでの私のものづくりの80-90%はLINE Bot作成であり、ある程度のことはできるようになったとは言え、まだまだ技術は足りません。
今回使用した技術で元々使えたのは、
・postされたメッセージをスプレッドシートに格納
・LINE IDごとにスプレッドシートのmasterシートをコピー
・スプレッドシートの内容を取得してLINEへ通知
一方でユーザーから写真がpostされた場合のフローについて全然知識がなかったので、先人の知恵を借りました。LINEからコメントつきの写真アルバムアプリ「のこるん」を作成されたおきなかさんの記事です。
また、「写真→Hugging FaceのCLIP Interrogatorでキャプション作成→そのキャプションを用いてChatGPTがナレーション作成」のところも以前に作成したコードが役に立ちました。

それから環境構築について。
エンジニアの方が想像する環境構築ではありません笑。
リアルな「家の中の環境」構築です。
上にも書いたように私には1ヶ月の息子がいます。育児経験された方はご存知のように、赤ちゃんは"抱っこされて気持ちよさそうにかつ深い眠りについているように見えてもベッドに置くと一瞬で起きる"という不思議な生き物です。特に日中その傾向が強いです。
抱っこで片手が奪われているがPC前にはいられる状態(姿勢変換は困難)
       VS
ベッドに寝かせて両手両足自由になるが高確率で赤ちゃんが起きる(その場合は両手抱っこ&立ってゆらゆらが必要なのでPC操作は不可)
のどちらにするかの葛藤に日々迫られます。
私はビビリなのでたいがい前者を選びます。ただそれではキーボード操作が大変非効率なので、なんとか夜置いて寝てくれる時間に一気に進める作戦でいきます。今回も日中は参考にする記事探しなどに徹し、夜中に一気に実装しました。
夜中に作業する上で1ヶ月児がいるとありがたいこととしては、3時間ごとミルクが必要なのでうっかり朝まで寝てしまうという事態は避けられるというところです(ポジティブ笑)。そんじょそこらのアラームとはボリュームも起きなくてはという危機感も違いますので。実際深夜1時頃に究極な睡魔に襲われ寝てしまいましたが、2時のミルクで起き作業を再開できました。
とは言え1ヶ月のベビーはそのくらいの対策で対応できます。なんせまだ自分自身で移動ができないので。もっと重要なのは、2歳の姉の対策です。「お母さんがやっているの真似してキーボード押してみようー!」の時期は過ぎてきましたが、パソコンというものは見たい写真や動画が見られるものという知恵がついてしまったので、私がPCを開いていたら「○○見んの!」と検索を要求されます。そうでなくても椅子に登ってみたり、走ってこけて泣いたり、あれしてこれしてあれ食べたいなど要求の嵐です(まぁ可愛いんですが笑)。こうなると作業は愚かミーティングすら厳しいので、このハッカソンに関しては参加決まった時点で夫に懇願し、ハッカソンのコアタイムは娘をなんとか外で遊ばせてもらうことにしました。実際両日公園や買い物に連れて行ってくれ、ハッカソンに集中することができました。

なぜそこまでしてハッカソンに?

このように、オンライン参加でも家族に負担をかけての参加になります。私はそもそも職業はエンジニアではないしできることは限られていて、アプリを作ってビジネスをしたいと思っているわけでもなく、なぜそこまでしてハッカソンに参加したかったのか?
ハッカソン中毒のわたなべさんがいる手前私レベルで言うのは恐縮ですが、中毒に近い部分はあるように思います。
 決められた時間の中でデモできるレベルに作り込む。
 自分のできる最大限を駆使して達成する。
そういった面に魅了されているように思います。また、私の場合技術がノミくらいしかないので、元ある技術では到底足りず、明確に作りたいプロダクトを決めるとそれを制作する過程で必ず新しい技術を身につけることができます。ハッカソンを終えるとこんなことができるようになったという喜びが得られるのも参加のモチベーションです。
今回ハッカソン参加は3回目。
1回目はもいせんのメディカルハッカソン。プロダクトは「LINEで受診記録」。チームは作らずぼっちソン。他のプロダクトとのレベルの違いを感じました。
2回目はリテールテックハッカソン。プロダクトは「買い物気分あげあげBot」。その日買いたいものと自分の年代に合わせた音楽をLINEが提案してくれるというもの。投票で2位をいただき、人に選んでいただくというのがこんなに嬉しいものかと感じました。
3回目が今回。初めてのチームでの制作でした。正直他のプロダクトが素晴らしく、いまだに審査員の方々に認知症フレンドリーテック賞に選んでいただいたことに驚いています。今回認知症フレンドリーがテーマであり、プロダクト自体も素敵ですが、背景に”認知症の方もその周りの方も幸せ”にという想いがどのチームにも感じられました。身内のプロダクトでいうと、みつおかさんの「Sovinnon」は認知症の方が安心して出かけることにつながるし、かつ周りの人も手助けができることで幸せな気持ちになると思いました。街での人助けって自分からは声をかけづらいけど、実際人助けできた時ってなんとなくその後もいい気分でいられますもんね。わたなべさんの「誰でも楽しく買い物ができる仕組みづくり」は、これがなければ未払いの警察沙汰ということを予防できるし、お店側も認知症の方を支援しやすくなります。こういうお互いにとってよいものが世にあふれるといいですよね。
今回の認知症フレンドリーテックハッカソンのまとめはこちらです。

「にこにこストーリー」に込める想い

今回私たちのチームが作成した「にこにこストーリー」。システム構成などは上に書きましたが、このプロダクトにこめる想いについても書きたいと思います。
このプロダクトにどんな価値があるでしょう?自分の昔の写真や家族の写真からできた動画を見て、幸せな気持ちになっていただきたい。そこに価値があると私は考えています。この動画だけでは認知症の予防にはおそらくならないだろうし、日常生活の手助けをしてくれるわけでもありません。家族で昔のアルバムを開いている時の感覚、結婚式で流れる生い立ちムービーを見ている時ほっこりする感覚。そういう幸せな感覚を生むことができればと考えています。
「どの写真使う?」「この写真は何の写真?」「これ懐かしいねー」など言いながら使う写真を選び、できた動画をみんなで見てまたほっこりする。これが「にこにこストーリー」の価値だと私は考えています。家族だけに留まりません。認知症の方に関わる周囲の人がこの動画を通してその方を知ることを通して関わりに深みが出ることもあると思います。
プロダクトのアイデアは今回のハッカソンの初めにご講演された安田先生(「MCI・認知症のリハビリテーション|Assistive Techologyによる生活支援」著者の先生)の資料の中に、ご自身の昔の写真を見て認知症の方が笑顔になる動画から得ました。
認知症の方の支援というと大々的なサービスを想像しがちですが、日々のちょっとした幸せを提供できることも大事なことだと感じます。これは認知症に限らず、育児支援とかその他にもあてはまることだと日々感じています。
ハッカソン終了後、チームの方からこのプロダクトを完成させるべく(まだまだ未完成の部分があるので)翌日ミーティングしましょうというお誘いがありました。ぜひ世に出せる形にしたいです!!

私とプログラミング

認知症フレンドリーテックハッカソンについて書きたくて記事を書き始めましたが、ハッカソン終了後ぼんやり考えていたことを書きたい気分なので続けます(笑)
私のものづくりは2022年3月から3ヶ月間「ものづくり医療センター(通称もいせん)」という医療従事者向けのプログラミングスクールを受講したことでスタートします。プログラミング自体は元々機械学習を勉強するためにPythonを少し学んではいましたが、ものづくりはしたことがありませんでした。
もいせん同期の3人(耳鼻科医、小児科医、看護師)とは今でも交流が続いているし、もいせん修了後protooutgymに入りもいせん卒業生だけでなくprotoout界隈の方々とつながりが持てました。定期的なLT会があったりセミナーがあったり、1人だと何か理由つけてものづくりを後回しにしていただろうけど、いろんな方の活動に励まされながらなんとか続けてくることができました。
今回のチームはオンライン参加の3人で構成されていました。protoout関連でない方とものづくりをするのは初めてでした。
こうやって出会ってきた方々がものづくりを開始していなければ出会っていなかったと考えるととても感慨深いです。
タイトルに書いたように私は小児科医でこどもができるまでは朝から働いてそのまま当直して翌日も遅くまで病院にいても特に平気な仕事人間でした。小児科医としてお子さんやそのご家族と関わって行く中で自分が出産したら子どもが幼い間は育児に時間をかけたいという想いが強くなりました。自分の子どもと散歩し、石ころなり虫なり大人からするとなんでもない物に興味を示し立ち止まった時に「早くいくよー」と言わず一緒にしゃがんで見ることを思い描きました。それには時間的余裕が必要と考え、育休明けも大幅に勤務時間をカットした時短で働くことにしました。夢は叶い、上の子が歩きたい盛りの1歳の時は家への帰り道、大人で15分くらいの距離を娘のペースでかつ頻回に立ち止まったり寄り道したりするのを急かすことなく一緒に歩くことができました。
夢が叶ったとはいいながら、仕事時間をセーブすること自体には一抹の不安がありました。これから医師の働き改革も始まりますが、まだまだ現場でなんぼの世界です。これだけ時間をセーブすれば臨床能力(実際に診療することを臨床といいます)も上がりません。そこでこの医者としての仕事をセーブしている間に新しいことを学びたいと考えて選んだのがプログラミングでした。当初は今後医療×AIが熱くなっていきそうなのでそこに入っていけるよう機械学習の勉強がスタートでした。その後知り合った先生にもいせんを紹介してもらい、元々イメージしていた画像の機械学習などのプログラミングとは方向性が違うけど、子育てする人に役立つアプリが作りたいというのは以前から漠然と考えていたので受講を決定したという流れでした。
家にいるのにこういう形でたくさんの人に出会えて、元気をもらい、知識が得られ、プログラミングを始めようと考えた過去の自分にグッジョブと伝えたいです。
もし、ここまでの長文を読んでくださった方がいれば、私の個人的な話にお時間をいただいたこと心から感謝申し上げます。
私の大好きな場であるプロトアウトコミュニティのURLはこちらです。もしご興味ある方はぜひご参加ください!


次なるハッカソン

実は8月末にあと2つハッカソンに参加予定です。
こちらも頑張っていきます!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?