a (k)night story ~騎士と夜の物語~③
何年かが過ぎ、街の貴族や近郊の領主の許で戦士修行に励んでいる見習いたちから人員を募り、実戦訓練を兼ねたブリガンド討伐が行われることになった。
師範役のサイラスをはじめ、武術の訓練を続けてそれなりに「使える」ようになっていたデュベルや見習い仲間もサー・ユージーンの了解を得て、その討伐に参じることになった。
討伐の相手はブリガンドといっても少人数でたくらみごとをする小悪党などではなく、砦の周りを矢来で囲んだ野城を構え、武器も自分たちで調達し、組織だって行動する屈強のならず者集団で、今回の討伐計画も被害に遭った話を聞きつけ襲撃を恐れた領民や村人からの訴えに応えるための大規模なものとなっていた。
見習いとはいえ、その中でも腕の立つ者たちで討伐隊が組まれていたし、さらに隊の後ろには騎士や戦士、回復役の魔術師も陣取っていたので、討伐は問題なくこなせるはずだった。
ところが、普段何食わぬ顔で街に潜んでいる情報屋から知らせを受けたブリガンドたちは仲間を結集し、激しく抵抗してきたので思いのほか手こずり、野城は落としたがブリガンドの中から逃亡者が出て、討伐隊の方には負傷者が出るなど戦果としては振るわない幕切れとなってしまった。
幸い、デュベルの仲間達に負傷者はなかったが、初めての対人戦闘だったことと戦場での大量の血と立ち込める血の匂いで酷くもどしてしまった彼女は、自分の不甲斐なさへの反省と気分の悪さを抱えて慰労の席に参加することになってしまった。
しかも、彼女の落胆とは裏腹に討伐隊の者たちの多くはブリガンドどもをある程度討伐できたことを良しとしていて、それが彼女の中の情けなさと苛立ちに拍車をかけてくるのだった。
深夜。
宴が引けた後もサー・ユージーンは椅子に掛けて、のんびりと酒を飲んでいた。
彼にとって今日の討伐もその結果もどうという程のことではなかったらしい。
「今回は中々手こずったな。ま、生きてりゃ上々だ。死ななきゃ次もある。逃げた連中はどうせ別のところに根城を置くだろうし、悪事を働いて目に余るようになれば討伐の話はまた出るだろうしな。それまで鍛えておけばいい。おい、大丈夫か?」
時間が経っても気分の悪さが抜けない彼女は青い顔でうなだれていた。
「すみません。血の匂いが鼻について・・・。うぅー」
「おいおい、我慢しろ。飲み屋で吐いたらつまみ出されちまうぜ?全く、さっさと帰って部屋で寝てりゃいいものを」
「小姓が主人を差し置いて帰れませんぅっぷ・・・。
叔父上・・・私、戦士に向いてないんでしょうか・・・?
戦場で全然上手く立ち回れなかったし、血くらいでこんな有様になるし・・・。
もう、自分が情けないです!」
「はぁ?ははは。気にすんな。
人間相手の戦闘ん時、最初はそんなもんだ。
集団の中で立ち回るのは経験がものを言うから、今のお前らだとあのくらいが妥当な線だろうな。
まあ、これでも飲め。
・・・あと、お前「叔父上」って言うなや」
彼はそう言いながら彼女に飲み物を差し出したが、それが血のように濃い色のワインだった上、気付けのために入れた、なんか変な薬草の匂いも混じっていたせいで気分の悪さはちっとも良くならず、更にこみ上げてくる吐き気をこらえながら彼女は酒場のテーブルに突っ伏しているしかなかった。
~④へ続く
お読みいただきありがとうございます。
物語の解説を少し。
ブリタニア(UO内の世界)には冒険者を襲う、ごく弱いものから大勢で挑まなければ倒すことのできないものまで様々なモンスターが生息しています。
動物も冒険者に攻撃を受ければ反撃をしてきますので、駆け出しの冒険者はウサギにもやり返されてしまうこともあります。
こうしたモンスターたちの他にも、作中で登場したブリガンド(盗賊、山賊)のように冒険者を見ると襲い掛かってくるものもいます。
独りで旅する冒険者はブリガンドたちの根城には近寄らないで通り過ぎるのをお勧めします。
#小説 #Ultima Online #中世風ファンタジー