a (k)night story ~騎士と夜の物語~⑩
治療院を出た彼らがマリアたちが仕留めた魔物がいるという厩舎裏の森に到着すると小さな森の周りには野次馬が集まって人垣ができていた。
警備の衛兵にマリアのことを話し森の中に入ると、あの討伐の祝宴の夜に見た踊り子が細い手足を舞っているようにだらりと地面に伸ばして横たわっている姿が見えた。
薄絹も纏わない裸の身体の周りには、彼女の背中から生えているコウモリのような羽根と血に濡れた美しい銀髪が広げた衣装のように地面に散らばっていた。
「サキュバスだ・・・」
「サキュバス・・・。
え、そしたら、あの黒い踊り子・・・シリンも?」
「わからない。
でも、彼女が同族である確率は高いだろう。彼らがまだウィルバー卿のところに居るとしたら、兵がいたとしても危険だ。
まずは報告に行って、それからウィルバー卿の屋敷へ向かおう」
二人は森をあとにするとサー・ユージーンのもとへと急いだ。
「ん、どうした。
ああ、今夜はお前たちが巡回に行っていたんだったな。何かあったのか?」
すぐに起き上がったサー・ユージーンに彼らはマリアの身に起きたことと森で見たことを手短に報告した。
「・・・サキュバスだと・・・」
報告を聞きながら手早くチェインメイルを着込んでいたサー・ユージーンの手が止まると、目線の先の一点を見つめ黙り込んだ。
「あの・・・なにか?」
「・・・ウィルバー卿の、ジャンのところに行くぞ」
サイラスの問いかけで我に返った彼はぐっと息を飲み込むと、剣を手挟み言った。
闇の中、ウィルバー卿の屋敷は静まり返っていた。
「静かですね。もう皆寝ているんだろうか?
何事もなさそうだけど、魔物たちはここにいないんだろうか?」
「でも、警備の者がいるはずなのに灯りもないなんて変だわ」
彼らが話すのをサー・ユージーンは低く制した。
「屋敷の扉が開いている・・・」
屋敷の中はロウソクひとつ点いておらず、手持ちの小さなランタンの灯りでははっきり見えないが、漂う血の匂いで屋敷の中で秘かに何事か起きているのがわかる。
サイラスがサー・ユージーンに無言で目線を送ると
「どれだけやつらがいるのか判らんが暗いのは不利だ。
お前たちは中で灯りを探してくれ。俺は屋敷の周りを見てくる。
お前たち灯りを持って行け」
「はい。ですが、一人で暗くては」
「外の方がまだ明るい。何かあれば呼べ。いいな」
サー・ユージーンはそう言うと一人で行ってしまった。
~⑪へ続く
お読みいただきありがとうございます。
物語の解説を少し。
ブリタニアには武器と同様に防具も様々な種類があります。
プレートメイル、チェインメイル、革鎧も鋲の付いたスタッド鎧、普通の革鎧、最近ではエルフの技による木や葉、または日本の武士が着用していたような和風の鎧も登場しました。
種類だけでなく、出来ている金属や革の種類などにより様々な効果を持っていますが、着用するのに条件があり、体力にすぐれないと着ることのできないものもあります。
駆け出しの冒険者や戦士は体力がないので軽い革鎧を着るしかなく、徐々に鍛えて身体が強くなってくると金属の鎧を着用できるようになるわけです。
また、魔法使いは金属の鎧を着用すると魔法を使うのを妨げられるため、革の鎧を着用することが多いです。
ですが、冒険で手に入れられる鎧などには特別な力を帯びているものもあり、体力が弱くても着用できる優れたもの、魔法の妨げにならないものなどもあります。
武器と同様に、職人たちから作ってもらえる優れた防具もありますので、武器だけでなく防具でも様々なバリエーションを試し、自分に合うものを冒険者は着込んでいるわけです。
防具も様々な色に染めることができますので、防具の色に合わせたマントやシャツ、ブーツなどを自分好みに揃えているブリタニアの冒険者たちはおしゃれな人が多いのかもしれません。
・・・ですが、どの世界にも裸族はいるもので、ブリタニアも御多分に漏れず、思わず脱いでしまう困ったクセを持っている人もいらっしゃるようですね。