a (k)night story ~騎士と夜の物語~ ①
明るいレンガ造りの家々が立ち並ぶトリンシックの街。
早朝の開門とともに商人や旅の者たちがぞくぞくと街に入り、各々の目的地へと向かっている。
朝の賑わいの中、バーディングを付けたドラゴンに跨った一人の旅人が門をくぐり、街へと入ってきた。
その旅人の装束が戦士の旅支度であったので、門番の兵士は旅人を留めるとどのような用向きでここを訪れたのか問いかけた。ドラゴンから降りた旅人は物怖じしない様子で丁寧にお辞儀をし、被っていたフードを取るとその中からはグレイの髪を長くおさげに垂らした気の強そうな女性の顔が現れ、バッグから取り出した革表紙の小さな手帳を門番へと差し出した。
「こんにちは。これ、私の身分証明です。確認を」
門番は彼女が渡した手帳の書付に目を走らせると頷いて言った。
「ほう、あんたはあの御仁のところの者か。ということは武術大会かね?」
「ええ。私はこの街で騎士見習いをはじめて、今は旅をしながら戦士修行の身なんです。武術大会で戻るのなら少し滞在しようと思って」
「おお、この街出身の戦士というなら、俺からも健闘を祈っておくか。良い成果が出ると良いな」
「ありがとう」
門番のもとを離れた彼女はドラゴンを街の厩舎に預け、レンガの敷かれた勝手知った道を歩いて行く。
彼女の向かっているのはトリンシックの街の中で戦士や騎士を育成する訓練所が立ち並ぶ一画だ。
早朝から訓練所で鍛錬に励む戦士たちの威勢の良い声が聞こえ、装備や刀剣、騎馬のバーディングを誂える店が立ち並ぶ一画はもうはや職人たちも働きだしている。
あちこちに衛兵や騎馬、騎士の姿が見え、騎士としては駆け出しの小姓と呼ばれる年若い者たちも可愛らしい様子で大人たちに混じっているのが見える。
そんな姿を懐かしそうに眺め、彼女は幾度となく訪ねた馴染みの居酒屋のドアを開いた。
***
夜遅く、小姓姿の年若い娘が居酒屋の長椅子で横たわる革鎧姿の男に呼び掛けている。
「サー・ユージーン、起きてください。
・・・あのー、サー。・・・サーったら!
・・・もう、叔父上!おーじーうーえー!起―きーてーくーだーさーい!」
「あああ?うるせぇなぁ。サー、サー、しまいにゃ叔父上ってよぉ。
俺ぁさっき寝たばっかりなんだぜ」
夜更けに不似合いな甲高い声にうたた寝を醒まされた男が堪らず声を上げたが、娘は構うことなく声を張り上げる。
「知りません。寝ずに遊びまわっているのは叔父上ご自身でしょう。ゆっくりお休みになりたければ早く自室の寝床に入ることです。もう、また着のみ着のままで」
「うぅ、お前はちいせえくせに声ばっかりでかくてよぉ。
あのな、お前は俺の嫁でも母親でもねえんだから、ぎゃんぎゃん捲し立てるな」
「私は騎士付きの小姓なんですから主人の助力をするのは当然です。毎日毎日あちこちうろつかないでください」
娘と男のやり取りに居酒屋の酔っぱらった馴染み客からも冷やかしの声が飛ぶ。
「ようよう、さすがのユージーン殿もちっこい嫁にやられっぱなしだぁ」
「ははは、ちげえねえや」
「でかい図体でちっこい娘の尻に敷かれてるとこを弟子たちが見たらたまげるぞぉ」
「ひゃっはっは、おめえ、下品なこというんじゃねえよぉ」
「違います!私はちっこい嫁なんかじゃありませんっ」
からかいを真に受けた娘が客にも嚙みついて行きそうなのを宥めるために、とうとう男が身を起こした。
「わかった、わかったよ。こら、デュベル。お前な、おっさんどもにまでかかって行くんじゃない。
・・・はあぁ、お前はどこまでもちょろちょろ付いて来よって。・・・あと、お前「叔父上」って呼ぶなや」
ぶつぶつとぼやきながら体格の良い身体を丸め、頭をがしがしと搔いているのは、デュベルが小姓に就いている騎士、サー・ユージーン・イーノックだ。
寝入り端を起こされたため、酒の抜けていないぶすっとした表情の彼の顔には大きな傷痕がある。
その頑強な体躯と顔や身体に残る傷痕から、彼がかつて「岩をも斬り捨てる鬼のユージーン」と呼ばれた歴戦の戦士だったことを窺い知ることができる。
~②へ続く
読んでいただきありがとうございます。
Ultima Online(UO)というゲームでは、ゲーム内の世界でアイテムの本に実際に文章を書くことができ、プレイヤーの方々が書き残した数多くの物語が今もゲーム内で読むことができます。
そのシステムを生かして、プレーヤー達が主催する文学賞も開催され、今も新しい作品が生み出されています。
今作品もUOの世界で開催された文学賞に応募するために書かれたものを加筆修正したものとなります。
拙い物語ではありますが、まだまだ続きますので、よろしければお付き合いくださいませ。
文章掲載の勝手が良くわかりませんで、文章の体裁が読みづらいかもしれません・・・。