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a (k)night story ~騎士と夜の物語~⑫

サー・ユージーンは足音を忍ばせて、ウィルバー卿の私室の前へとやってきた。

私室とは反対側の奥の方で、兵たちが戦っている音が聞こえ、魔物が応戦しているのか、時折雷のような大きな物音も聞こえてくる。

「どれだけ兵がいるのか・・・倒すことができるのか・・・?」
そう考えながら、剣を構え私室の扉を音もなく開けると部屋へと入り込んだ。

広い私室の中は暗闇で、外へと通じるバルコニーの扉が開いているのかカーテンが微かに揺れ、外から深更の薄明かりがごく僅かに部屋の中へと射している。

「・・・ジャン・・・俺だ・・・いないのか?」

暗闇に目を凝らし、部屋の奥にある天蓋に囲まれた寝台の傍に進んでいくにつれ、血と吐き気を催すような甘い香りが漂っているのに気付いた彼はバルコニー側へ回り込み、そっと天蓋の布をよけると、外から射し込むわずかな明かりで彼の旧友が寝台の上に身を横たえているのが見えた。
 

ジャン・ウィルバーは夜着をはだけた姿で右手に短剣を力なく握ったまま息絶え、その喉元には穴が開くほどの切り傷があったが、それはほんの今しがた付けられたもののようで、ほとばしる血が黒々と寝台の上に影を拡げていた。

「ジャン・・・何故、こんな・・・。ぐぅ・・・」

天蓋の中の息が詰まるような香りに、剣を握る手から力が抜けるのを感じたサー・ユージーンは寝台の傍を離れ、外気に触れるためバルコニーの方へ進んだ。

ふと、彼は背後に何かの気配を感じ、気づくと同時に背後から覆いかぶさってきたものを剣で振り向きざまに薙ぎ払った。

普通の人間であればその斬撃を到底逃れることができないはずだったが、手ごたえは浅く、振り向いた彼には暗闇の中に蠢く気配しか感じられない。

彼の右手には剣の切っ先が敵に付けた傷から出たであろう何者かの体液が付き、その体液が放つ強い香りが蛇のように纏わりつくと、彼は激しい眩暈を感じてその場に昏倒した。


~⑬へ続く

お読みいただきありがとうございます。

ここから少しだけ解説抜きで淡々と描いて行きたいと思います。
よろしければお付き合いください。
 


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