a (k)night story ~騎士と夜の物語~⑯
うずくまる彼女たちの耳に鋭い叫び声が聞こえ、沈黙が訪れた。
目を開けると、明け方の薄明かりの中、黒いサキュバスは茫然と立ちすくみ、その黒い裸の胸を背後から刺し貫いた剣が鈍く光っているのが見えた。
「ああ・・・ユージーン。
私はあなたを殺すべきだった。
だけど、私は・・・。ユージーン」
シリンは小さく呟くと、剣から薄絹がするりと落ちるように床に崩れ落ちた。
サー・ユージーンは、左手に持った剣を床に置くと、右手をだらりと下げたまま跪き、ぎこちない手つきで黒いサキュバスを胸に抱いた。
「サー・・・。叔父上・・・。
そのサキュバス、シリンは・・・?」
デュベルの呼びかけに彼は沈黙の後低く答えた。
「死んだ・・・。
俺が、シリンを、斬った。
俺はあの討伐の時、この魔物を斬ることができなかった。
戦士が戦いを忘れ、ましてや魔物に魅入られるなんて、その頃の俺にはどうしても受け入れられなかった。
俺はジャンの矢でシリンが死んだものと思い、なお戦いに没頭した。
なにもかも忘れたかった。
・・・だが、彼女は生きて俺の目の前に現れた。あの時と全く変わらない姿で。
・・・俺は騎士だ。
人に害なす魔物を見逃すわけにはいかない」
「でも、叔父上・・・。叔父上は」
デュベルの言葉を遮り、サー・ユージーンは続けた。
「俺たちがお互いを受け入れたところで何になる。
なにも、どうにもなりはしない。受け入れたとしても分かり合うことはできない。
そして俺たちは自分自身を呪うようになるだろう。
・・・シリン、俺は人間だ。
・・・だから」
「だったら・・・。
だったら、叔父上は・・・どうして泣いているんですか?」
「わからん。
・・・俺は馬鹿だ」
夜明けの曙光を受けながら、彼は、彼が斬った黒いサキュバスのシリンを抱いて、静かに涙を流していた。
~⑰へ続く