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a (k)night story ~騎士と夜の物語~④

サー・ユージーンは飲みながら、そんな彼女を眺めて続けた。

「姉貴も・・・お前の母親もせっかちで負けず嫌いでな。それでも最初の戦いの時には震えていたし、涙を流したりもしたんだぜ。
お前は今日、人間を相手に戦うことを恐れただろう。相手を手に掛け、命を奪うことを恐れるのは当たり前だ。それでもお前は止まることなく戦うことができた。

戦士にとって「止まらない」ってことは重要なことだ。

やみくもに行けってんじゃないぜ?

ただ、戦いの場で「止まる」やつは負ける。もっと悪ければ命を落とす。
 
俺は・・・昔、一度だけ「止まった」ことがある。
この傷はな、その時つけられたもんだ」
 
彼の言葉の調子が変わったのを感じて、デュベルが顔を上げるとサー・ユージーンは座っている目線のやや上をじっと見つめ、黙り込んでいる。
 
『俺は確かにあの時、一瞬怯んだ。
戦いの中の一瞬、その一呼吸がどんなに危険なものか解っていたはずなのに、俺は一体何を見たんだ?』
 
「叔父上?・・・どうかしましたか?」

彼女の問いかける声に我に返った彼は、再び話し始めた。

「いや、なんだっけな?
そうだ。その時の討伐は今回よりひどかったぜ。
今みてえに隊の組み方やなんかの決まり事もなかったから、野良の戦闘と大して差がないようなもんだった。
そんなやり方だったから俺みてえなイイ男の顔も台無しになるし、仲間もだいぶやられちまってな。

その後、俺は街を出て死んだやつらの故郷を訪ねて回った。
だが、それが何になる?死んだあいつらはもう戻れないんだ・・・。

周りの連中は生きて戻った討伐隊をなんだかんだともてはやしたもんだから、調子づいてすぐに次の討伐を提案するやつもいたんだとさ。

そんな連中に心底嫌気がさした俺は、いっそ戦士であることも捨てちまいたかった。
だが俺は結局この街に戻ってきたし、戦いをやめることもできなかった。
何故だ?
さっぱりわからん。
俺は馬鹿か?
んー・・・飲むしかねえや」
 
神妙に話を聞いていた彼女は彼のよくわからない結論に少し呆れた表情をしたが、姿勢を正すと真っ直ぐに彼を見つめ言った。

「叔父上。私は叔父上が戦士を辞めずにいてくれて良かった。
私は、武器を手にしている時の叔父上、いえ、サー・ユージーン・イーノックの姿が好きです。力に溢れる無心の姿が美しいと思います。
・・・これは本当ですよ亅

彼女の言葉を聞くと、サー・ユージーンはテーブルにガバっと突っ伏して
「はぁー?何を仰ってるんでしょうねぇ、このお嬢様は!ほら、もう今日はお開きだ。俺はここで寝る。お前は帰ってとっとと寝ろ亅
そう言うと『ぐうぐう』と盛大に狸寝入りをし始めた。
 
「もう・・・。では、これにて失礼いたします。明日はご自分でがんばって起きてくださいね」
顔を隠すように丸まったサー・ユージーンの大きな身体に声を掛け、テーブルを離れた彼女に

「お前は戦場で死ぬなよ。死ぬんじゃねえぜ」

彼は顔を伏せたまま、そう言った。


~⑤へ続く

お読みいただきありがとうございます。

物語の解説を少し。
ブリタニアには銀行の他にも宿屋、居酒屋、その他冒険者の装備を購入できる裁縫店、鍛冶屋など私たちの地球の街にあるような多様な店があります。

居酒屋には種類豊富な酒類、食事がそろっていて、冒険者はそれらを買ってその日の冒険の締めくくりに食事を楽しみます。
お酒を飲んで、歌いだしたり服を脱いでしまう者もいます。
(ひどいのになるとお店の中で〇いちゃったりする者も・・・)

酒は飲んでも飲まれるな。
 

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