a (k)night story ~騎士と夜の物語~⑮
デュベルとサイラスが屋敷の奥に着くと、一体のサキュバスが追い詰められ、周りを取り囲む戦士たちに必死の抵抗をしているところだった。
それは確かにあの夜の踊り子の一人だったが、今は裸の身体にいくつもの刀傷を受け、金の髪を振り乱して唸り声をあげながら荒い息を吐き、美しい顔を歪ませている。
さしもの魔物も負った傷で弱り、大勢の敵に取り囲まれては標的を絞ることができず魔法での反撃もままならなくなっているが、周りを囲んでいる戦士たちも怖ろしい速さで繰り出される鋭い爪や魔法の標的になる恐怖で攻めあぐねていた。
「デュベル、私が向こうから隙を突く。
こちらから近づいてその灯りを投げられるか?危険かもしれないが」
「いいわ」
彼女は兵士たちの隙間を縫ってサキュバスの方へと進み、向こう側に回り込んだサイラスが掛けた合図の声とともに手にしたランタンを魔物に向かって投げつけた。
人垣の中から投げ入れられた火に、サキュバスが反射的にそれを避けようと手を振り上げる。
その一瞬の隙を捉えたサイラスが素早く間合いを詰め、渾身の力で背中からサキュバスを斬り伏せると、恐ろしい断末魔の悲鳴を残し魔物は息絶えた。
魔物が死んだことを確認したサイラスは、兵士たちに負傷者を治療院に運ぶこと、邸内に他の魔物がいないか確かめることを指示した。
「あれはシリンじゃなかった。
彼女はどこだ? サー・ユージーンはどこだろう」
「ウィルバー卿の私室じゃないかしら?
誰からもまだ、卿の消息を聞いていないわ」
「ああ、そうだ。行こう」
彼らが卿の私室の方へ向かうと、廊下を先に戻っていった兵たちの悲鳴が聞こえ、黒い魔物が立ちはだかっているのが見える。
兵たちは疲労と新手の敵が現れたのに恐れをなしたのか、反撃する気力もなく魔物の爪に倒され、黒いサキュバス、シリンは狂気のように笑い声をあげながら、倒した兵たちを爪でさらに引き裂いていた。
彼らの姿をみとめると、あたかも身体全体から炎が噴き出しているように敵意を放ち「お前が私の娘を殺したの」と叫んだ。
シリンはサイラスを見つめると威嚇のうなり声を上げながら爪を打ち込み、その速さに避け切れなかった彼は剣を跳ね飛ばされ、床に倒れ込んだ。
「サイラス!」
デュベルが駆け寄ると、彼は身体を起こしながら彼女に言った。
「デュベル来るな、逃げろ!」
「嫌だ!」
彼女はサイラスを庇うように身体を抱きかかえ、目をつぶった。
~⑯へ続く