a (k)night story ~騎士と夜の物語~⑤
不本意な討伐の後、デュベルは再び戦士修行に取り掛かった。
サイラスや戦士仲間たちも同じように悔しさを抱え、次の戦場ではより良く戦いたいという決意を持っていた。
互いに目指しているものが同じことを知った彼らは一層訓練に精を出し、後日、別の場所に根城を張ったブリガンドたちの残党討伐の隊に加わると、望み通りの戦果を挙げ、今度こそ心置きなく祝杯を交わすことができたのだった。
デュベル自身も納得のいく働きができたことを心から喜び、討伐に参加した戦士たちが次々に仲間を称え合っている輪の中に加わると、まるで祭りの真っ只中にいるような心持ちになっていた。
「やあ、諸君ら!街中に君らの声が響き渡っておるぞ。随分盛り上がっているではないか!」
突然酒場の扉が開いて、戦士たちに負けない程の大声が店内に響き渡り、驚いて振り返った彼らの前に小姓を従えた壮年の男性の姿があった。
良く手入れされたプレートメイルに、濃い臙脂色の生地に金糸で刺繍を施したサーコートを着て、長いマントを肩に掛けている。
地位の高そうな騎士の登場に、あっけにとられ畏まっている一同を前に彼は続けた。
「諸君ら、此度の討伐は素晴らしかった。誠に大儀であったぞ!
・・・ううーん。堅苦しいのはやめだ!皆、良くやったな。ここは私が持つ。心ゆくまで存分に楽しんでくれ。
おーい、ユージーン!」
彼は労いの言葉をかけ終えると、宴の輪の外で椅子に掛けているサー・ユージーンの方へ向かって行った。
「ねえ、あの方はどなた?」
デュベルは近くにいた戦士仲間のマリアに尋ねた。
「あら、初めて?あの方はね、ジャン・ウィルバー卿よ。
サー・ユージーンの戦友だったっていう話だけど、今は伯爵の位に就いているのよ。知らなかった?
今回の討伐もね、ウィルバー卿の差配で行われたんですって。
元々は弓兵ということだけど、それで伯爵の位を戴くなんて相当腕も立つでしょうし、ちょっとステキだと思わない?
ま、あたしらにご縁はなさそうだけど。あはは」
マリアは朗らかにそう答え、賑やかに宴を再開した戦士たちの輪の中に戻っていった。
デュベルは今まで聞かせてもらった話に登場したことのないウィルバー卿に興味がわき、そっと二人の様子を眺めた。
名前を呼ばれたサー・ユージーンは立ち上がって敬礼をしたが、その後は割とそっけなく、親し気な口調で快活に話すウィルバー卿にやや面倒くさそうな表情を浮かべている。
「久しぶりだな、ユージーン。
いや、君は変わってない。戦士を育てているとは聞いているが、まだその仕事にご執心なのかな?
君が私とともに働いてくれることを私はいまだに諦めていないんだけれどね」
「・・・はは、俺だってもう戦士としちゃ老いぼれのうちさ。期待される程のもんじゃねえよ」
「いや。謙遜することはないさ。
実際、君のところの兵たちは今回の討伐でも目を惹く働きをしていたじゃないか。それも君の薫陶の賜物だろう?まだまだ君の腕が錆びていないという証拠さ。
今度私も折を見て手合わせ願うとしようかな?
まあ、私は弓兵上がりだからな、弓なら少しは見るところがあったけれど、剣術は君にどうやっても敵わなかったからなぁ。
そうだ。なんなら君の訓練所を大きくしてもっと大勢育ててみるってのはどうだ?」
「そこまで手広くやるほどの気力はないぜ。
若いの相手にくたびれ果ててたんじゃ酒を飲む余裕もなくなる」
「ははは。君は相変わらずだな。
まあ、気が変わったら遠慮せずに言ってくれよ。
私の方は戦友の頼みなら、いつだって叶える用意があるんだから」
「ああ、まあ、・・・その機会があったらな」
何とも言えない雰囲気の会話が続いていたが、伯爵の小姓が時間を告げにくると、卿は戦士たちにも賑やかに声を掛けつつ慌ただしく退出して行った。
~⑥へ続く
お読みいただきありがとうございます。
物語の解説を少し。
ブリタニアの首都はブリティンという名の都市で、この世界の王の居城があります。
冒険者が立ち入ることもでき、広大な城の中を見て回ることができます。
王の玉座もありますが、一般人が立ち入ることはできません。(昔々は入ることができたようです)
他の主要な都市には領主のような方はいませんが、現在は街の市民たちから選挙によって選出される「首長」がおり、街ならではのイベントを開催したりしています。
ちなみに作中に登場した伯爵も街への貢献度によって称号を戴くこともできます。
あなたもブリタニアで貴族の仲間入りをしてみませんか?